ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

満ちみてる生

2018-09-26 19:29:05 | 読書
ジョン・ファンテ『満ちみてる生』




 書店の棚で、背を見せている本を手に取り、表紙を眺めた。
 モノクロの写真一枚。
 すり減った石畳の路地、石造りの家。
 壁の一部をはがして、地面からパイプが家の中に引きこまれている。
 それを子どもが一人、見ている。半ズボンにサンダル。
 ドアの前、一段高くなった石の上に座って。
 顔が奥を向いているので、表情はわからない。

 場所はどこだろう。ヨーロッパだろうか。

 著者略歴を読む。
 そうだ、ジョン・ファンテ、『塵に訊け!』の著者だ。
 すっかり名前を忘れていた上に、表紙の雰囲気が、前回読んだときの印象と結びつかなかった。
 30年も前に亡くなっている作家なので、新しく翻訳が出るとも思っていなかった。
 奥付を見ると、まだ出版されて間もない。
 さらに略歴を読むと、最近ほかにも2冊、彼の本が出ているのがわかった。うっかりしていた。
 
 滑稽な、父との関係。
 臨月の妻も含めた、ドタバタしたやりとり。
 いつも、ひとりだけ悪者のように見られる歯痒さ。
 やがて子どもが産まれ、すべてを許し合えるような、寛大さに満ちたひととき。
 なんだかんだあっても、読後、幸福感に包まれる。

 表4にも写真が入っている。

 アメリカに住むイタリア系移民の話なので、きっとイタリアなのだろう。
 建物と建物の間にロープを渡し、通りの真ん中で洗濯物を干している。
 階段状の路地には、真ん中あたりから奥に向かって、人の姿が大勢見える。
 表紙の男の子は、きっとこの中のどこかにいる。

 写真はみやこうせい氏。(2017)




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