フィリップ・ロス『グッバイ、コロンバス』
レトロな雰囲気の表紙を見て、何年か前に出版された本かと思ってしまったが、実は新しい。
最初にこの小説が出版された1950~60年代のアメリカへ、表紙のスリム・アーロンズの写真が導いてくれる。写真を囲む薄いエメラルドグリーン、赤茶色、白の配色が、時代感を引き立てる。
当時のことは実体験としては知らないのに、ノスタルジーを伴う表紙に、物語への期待が膨らむ。
しかし、2021年にこの小説を読むと、様々なことが変わって読みにくくなっていることを知る。
翻訳は新しく、文章に違和感はない。微かな疑問を覚えるのは、大袈裟にいえば人種差別的であり男尊女卑的。
恋をして、自分でもどうすることもできない自分の気持ちと行動に嫌気がさすことはある。主人公の青年にもそんな部分はあるが、身勝手なのは恋だけが原因ともいえない。
青年のことを好ましく思えないのは、彼が未熟だからか、それともぼくが大人ではないからなのか。
装丁は緒方修一氏。(2021)
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