ヘンリー・ジェイムズ『デイジー・ミラー』
名作新訳コレクションとして、『デイジー・ミラー』が新たな装丁で書店に並んでいた。
ジョン・シンガー・サージェントの絵を裁ち落としで入れた表紙は、新しさと古さが絶妙に混じっている。
気怠そうにソファに横たわる女性の姿が描かれていて、帯の「誰が彼女を殺したのか?」を目にすると、この女性は死んでいるのか? と勘違いする。
気になる女性がいる。
どうやら彼女もぼくのことを好きなようだ。そんな素振りを見せる。
それなのに別の男性としょっちゅう出歩いている。
ぼくの勘違いなのか。
天真爛漫に見えるけれど、ただ鈍いだけの人なのか。
彼女の真意がわからず、徐々に距離をおくようになる。
ウィンターボーンがデイジーを好きなのは、彼女が「目を奪うような、みごとなまでに愛らしい娘」だからだ。
一度好きになってしまうと、本当の姿が見えにくくなってしまう。
多少の不都合な事実は、自分自身を誤魔化すことでなんでもなかったことにできる。
小説に合わせて描かれた絵ではないので、表紙の女性はデイジーではない。
しかし、この絵はデイジーの一面を示唆しているのかもしれない。
いつも活発な人でも、気怠いときはある。
人は見かけだけではわからない。
デイジーの本当の姿を、ぼくはつかめていない。
装画はジョン・シンガー・サージェント「無関心(休息)」。(2021)
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