ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

剃髪式

2019-01-17 18:01:18 | 読書
ボフミル・フラバル『剃髪式』





 石油ランプの丁寧な描写が続く。

 ビール醸造所の静かな生活が描かれていく。

 穏やかな小説。

 と思っていたら、とんでもなかった。

 これどこまで本当? 

 小説に向けてする質問ではないが、はじけすぎて想像が追いつかない。

 だんだん馴れてくると、いくらか余裕を持って楽しめるけれど、さらに上をいく出来事が。

 150ページほどの薄い本のなか、何度心がざわついたことか。

 最後は、これで終わってしまうのか、やっとわかってきたところなのに。

 ちょっと心残りなので、もう一度最初から読み直してみる。

 幸いなことに、フラバルの本は、まだほかにもあって、容易に手に入りそうだ。

 デザインは安藤紫野氏。(2018)


インヴィジブル

2019-01-15 18:43:24 | 読書
ポール・オースター『インヴィジブル』





 カバーの写真は、よく見ると不思議だ。

 多重露光のように、いくつかの像が重なって見える。

 室内の鏡に映る像と、ガラス越しに見える室外の光景と、室内に置かれた物とが、一緒くたになっているのだ。

 どれが実像で、どれが虚像なのか。そんなふうに見える。


 小説も似たような構成。

 実像だと思って読んでいたら、シェード越しの室外だったり、鏡に映ったものだったり。

 そもそも、室内だと思っていた場所が、実は荒涼とした野原だった。そのくらい、足元がおぼつかない感覚を味わう。

 そんな仕掛けも含め、この本を読む時間は楽しい。


 勝手な感じ方だが、登場する人物が、いつもポール・オースター自身のように思えてしまう。

 悩み、戸惑い、決断する、そのすべてが著者が過去に経験してきたことだと。

 作り物ではない、そんな肌に密着する感覚に共感するのだろう。


 デザインは新潮社装幀室。(2019)

ファイト・クラブ

2019-01-11 19:20:54 | 読書
チャック・パラニューク『ファイト・クラブ』





 「本? 本があったのか?」

 そうさ、本があったんだ。

 映画になる前に。

 (『ファイト・クラブ』著者あとがき)


 映画の原作本は、しばしばその存在を知られず、知られたとしても、映画のイメージにまとわりつかれてしまう。

 その要因のひとつに、映画のポスターを流用したような装丁をされてしまうこともあるだろう。

 チャック・パラニュークの「ファイト・クラブ」(ハヤカワ文庫)は新版になり、ようやくブラット・ピットの顔写真から解放された。


 不快、絶望、嫌悪、混沌、禍々しさ。

 スタイリッシュというより、気持ちの奥深いところを突かれる不安定さを感じる表紙。

 読みたくなる、知りたくなる。


 カバーデザインはコードデザインスタジオ。(2015)

英国諜報員アシェンデン

2019-01-09 18:29:27 | 読書
サマセット・モーム『英国諜報員アシェンデン』




 新潮文庫のスター・クラシックスの1冊。

 帯についているロゴが、あえて古臭く作っているのがいい。

 これを見ていると、ずっとずっと昔に書かれたものが、いまだに読み継がれているのは、驚くべきことなのだと気づかされる。


 モームは、人の描写が素晴らしくて、残りの人生、モームだけを読んで過ごしていたいくらい好きな作家。


 そんなモームのスパイを扱った小説。

 組織の一部となり、全体がわからないまま、与えられた任務だけをこなす。

 だから、そもそもこれはどんな活動なのか不明だし、その後どうなったのかも伝わってこない。

 それが想像力をかきたて、本当のスパイの話を読んでいるような気にもなる。

 はじまりと終わりの欠けた不完全なストーリーのようだが、人物を語る面白さだけで、十分楽しめる。


 何年か過ぎ、再読すると、前回気にもとめなかった細かい描写を見つけ、新しい小説を読んでいるような感覚になるかもしれない。

 まるで、コンテを重ねて徐々に細部が表れる素描を見ているように。(2017)



パリの小鳥売り

2019-01-07 22:23:12 | 読書
ロベール・ブラジヤック『パリの小鳥売り』





 表紙のイラストが醸し出す、ちょっと古くてお洒落な雰囲気は、1930年代のパリが舞台の小説とわかると、納得する。

 でも読んでみると、思っていたようなお洒落な街は描かれてはいない。

 むしろ貧しい人の姿が目立つ、煤けたイメージ。

 小鳥売りとは、天秤棒で鳥かごをかついで公園にやってくる老人のこと。

 彼が知り合う、女子大生や、食料品店の女店主、スラムに住む少年らのことが語られていく。

 温かい空気が大半をしめるのだが、ときどき冷たくなることもあって、共感させるのを拒んでいるようだ。

 その中で、恋がかなわなかった男子大学生の思いは、真っすぐにぶつかってくる。

 寂しさと、パリの風景とのコントラストが美しい。


 装画は牛尾篤氏、装丁は矢萩多聞氏。(2019)