カリフォルニア州でベーシックインカム2018年8月開始
27歳の最年少市長が主導、市レベルで初となるベーシック・インカムの導入実験
- カリフォルニア州の都市ストックトン(Stockton)は、アメリカで初めて、市レベルでのユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)の実験を行う予定。
- 選ばれた一部の市民には、3年間、毎月500ドル(約5万7000円)が無条件で支給される。
- ベーシック・インカムを研究してきたストックトンの市長マイケル・タブス(Michael Tubbs)氏は、市を長年にわたって悩ませてきた貧困問題の打開策として、このシステムに期待を寄せている。
カリフォルニア州ストックトンは、アメリカで初めて、市レベルでのUBI導入実験を行う。UBIは、富の分配システムの1つで、一定額を無条件で支給するというもの。
ストックトンの市長マイケル・タブス氏は、2018年8月までに市民31万5000人のうちの一部(人数は非公表)をUBIの対象に、実験を行うと話した。同氏は、月500ドルもしくは年間6000ドルを無条件で支給する今回の実験を、最大で3年間継続するとしている。
過激な分配システムに、政府の承認が下りた
ベーシック・インカムは、貧困問題の解決や、ロボットによる仕事の自動化に伴う雇用の喪失に対するセーフガードとして、ここ数年、注目を集めている。UBIの導入実験に手を挙げたのストックトンは、その中でもユニークな存在だ。
計画を主導する市長のタブス氏は現在27歳。昨年、26歳で就任した同氏は、人口10万人以上の都市でアメリカ史上最年少の市長となった。バークレーから50マイル(約80キロメートル)東に位置し、準郊外に分類されるストックトンは、タブス氏就任前の2012年に、アメリカで初めて破産法の適用を申請、今も再建の只中にある。
タブス氏は、自身の波乱万丈な生い立ちがインスピレーションとなって、UBIという、革新的で、ともすれば過激とも言える解決策に辿り着いたという。「貧困の中で育ち、公共料金の支払いや学校の制服代といった必要経費の捻出にあくせくすることが、日々の生活にどれだけのストレスを与えているかを見てきた。(そういう環境では)予想外の出来事が起こると、多くの困難につながってしまう」とタブス氏はVoxに話している。
またタブス氏は、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(Dr. Martin Luther King, Jr.)氏を尊敬しており、キング牧師が1967年に最低限の所得保障を提唱していたことも、自身のインスピレーションの1つになったという。キング牧師はベーシック・インカムが「……我が国(アメリカ)で、黒人やその他の人々が直面する貧困問題に、大いに役立つと信じている」と演説している。
今日のストックトン市民もまた、同じく経済的苦境に立たされている。4万4797ドルという平均世帯収入は、カリフォルニア州全体の平均である6万1818ドルを大きく下回っており、その失業率は7.3%と、アメリカ全体の4.3%に比べ、ほぼ2倍だ。
「種(SEED)」を蒔く
オークランドでのベーシック・インカム実験を主導する、Yコンビネーターの社長サム・アルトマン(Sam Altman)氏。
ESPは、Facebookの共同創業者クリス・ヒューズ(Chris Hughes)氏らによって、2016年12月に設立された。ESPが進める1000万ドル規模のベーシック・インカム推進プロジェクトは、eBayの創業者ピエール・オミダイア(Pierre Omidyar)氏を含む100人以上のシリコンバレーのビッグネームによってサポートされている。
SEEDはアメリカ国内で、自治体が主導する初めてのベーシック・インカム実験となる。非政府プロジェクトとしては、ケニア、オランダ、カリフォルニア州オークランド、カナダのオンタリオで社会実験が行われている。
ケニアでは、チャリティー団体GiveDirectlyが、数年にわたり送金プログラムを実施、2016年10月からベーシック・インカムを試している。オークランドでは、スタートアップ・インキュベーターのYコンビネーターが、少人数のグループを対象に、月1000ドルから2000ドルを支給する先行実験を終えたばかりだ。同社は2018年中に、2つの州に対象を広げ、より大規模な実験を行うべく、準備を進めている。
ベーシック・インカムは黎明期にあり、研究者による先進国を対象にした、良質なデータの収集は進んでいない。ストックトンでの実験によって、ベーシック・インカムに関するこれまでにない発見や、人々の行動変化など、有用なデータが得られることが期待される。
懐疑派からはしばしば、ベーシック・インカムが労働意欲を減退させ、あるいはアルコールなどの悪習慣を助長するとの批判が上がる一方で、推進派は金銭的な余裕が、教育や起業に対するモチベーションを高め、人々の生産性を高めるとしている。
(翻訳:忍足 亜輝)