「メリットが乏しい」──。来秋に予定されている現行の保険証の廃止について、厚労省が出したコスト削減試算に医療関係者から「物言い」がついている。
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厚労省は保険証廃止に伴うコスト削減について、①マイナ保険証の利用登録率が現状より進む場合と、②利用登録率が現状のままの場合の2パターンに分けて試算。利用登録率が65~70%に達するとした①では削減額が100億~108億円、利用登録率が現状の52%のままとした②では同76億~82億円──とはじき出した。24日の社会保障審議会医療保険部会で示した。
一見すると、保険証廃止によるコスト削減のメリットが大きいように見えるが、実はそうでもない。全国保険医団体連合会(保団連)は25日、厚労省の試算について検証。次のように指摘している
〈2021年度概算
医療費は44兆2000億円となる。資格確認書等を発行・交付した場合の厚労省試算に基づく削減額(約100億円)は、医療給付全体のわずか0.023%に過ぎない〉
岸田首相は今月4日の総理会見で、マイナ保険証を普及させるメリットについて「従来の健康保険証に比べ、発行コストあるいは保険者の事務負担は減少する。これは当然のことだと思っています」と胸を張っていたが、医療費全体からしてみればコスト減は極めて小さいのだ。さらに保団連は、厚労省が推計している現行の保険証発行にかかるコスト235億円を引き合いに出し、〈医療給付全体だとわずか0.053%に過ぎない〉と指摘。〈健康保険証の発行・交付は万一のケガや病気の際にもいつでもどこでも医療が受けられる大前提となる経費であり、保険証廃止で経費削減になったとしても医療給付が滞る事態を招くことは本末転倒である〉と喝破している。
■国民皆保険制度が揺らぐ事態
保団連の竹田智雄副会長(竹田クリニック院長)がこう言う。
「極めて粗い試算とのことですが、それにしても、保険証廃止によるコスト減は微々たるものです。さらに言えば、マイナ保険証を持たない人に交付される資格確認書について、保険者側が被るシステム管理や人手などのコスト増は考慮されていません。そもそも、国民皆保険制度において、誰もが安心して保険証1枚で保険診療を受けられる環境を維持することは発行コストも含めて必要経費です。コストが減ればいいというものではないし、マイナ保険証への移行に伴う無保険者の続出やひも付けの誤りなどの懸念といったデメリットの方が大きい。国民皆保険制度が揺らぐ事態です。やはり、保険証廃止は撤回してほしい」