穴にハマったアリスたち

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ファンタージエン 秘密の図書館

2006年06月12日 | 小説・本
ミヒャエル・エンデ作「はてしない物語」。
映画(邦題「ネバーエンディングストーリー」)でも有名な、ファンタジー小説の金字塔です。
で、昨年、その続編と称してラルフ・イーザウなる人から「ファンタージエン 秘密の図書館」という本が発売されました。

まぁ、「はてしない物語」はかなりのお気に入りだったこともあり、
一応、発売直後に購入して読みはしたのですが、あまりのつまらなさに途中でぶん投げ。
長々と存在を忘れていたのですが、なんとなく気が向いたので最後まで読んでみた。


■「はてしない物語」
とりあえず大前提として、本家本元「はてしない物語」の話から。

(あらすじ)
【第1部】
引きこもりがちの根暗な少年バスチアンは、偶然『はてしない物語』という名の小説を手に入れる。
本の舞台となるのは、『虚無』に侵食され滅亡の危機に瀕しているファンタジー世界・ファンタージェン。
女王『幼ごころの君』の命の下、ファンタージェンを救う方法を求めて旅に出た英雄アトレーユの物語。

様々な冒険の末、やがてファンタージェンを救う方法が判明する。
ファンタージェンが滅亡しかけているのは、人間が空想することをやめてしまったから。
人々が物語を語らなくなれば、物語の世界であるファンタージェンは消滅してしまう。
それを救うためには人間にファンタージェンへと来てもらい、物語を紡いでもらうしかない。

本の中の世界が実在することを知り、怯え、困惑するバスチアン。
が、やがて意を決したバスチアンは、女王『幼ごころの君』の求めに応じて本の世界へと…。

【第2部】
『幼ごころの君』の願いにこたえ、ファンタージェンへと渡ったバスチアン。
その見返りとして彼に与えられたのは、『物語をファンタージェンに反映させる力(=あらゆる願いをかなえる力)』。
その力でバスチアンは次々と自分の願いを叶えていく。
同時に、現実化した空想により、多彩に豊かに変化していくファンタージェン。

が、バスチアンには知らされていなかったトラップがあった。
実は願いを叶える代償として、人間としての記憶を失っていっていたのだ。
しかも、『なんでも願いがかなう』とは真っ赤な嘘。
幾つかの「願い」は決して叶わないように設定されていた。

その代表的な禁則が『幼ごころの君に再会する』願い。
そうとは知らず、『幼ごころの君』に恋したバスチアンは、もう一度彼女に出会うために手を尽くす。
かくして「決して叶わない願い」を叶えるため、次々と浪費されていく願い事。
それに伴いファンタージェンはさらに豊かになっていくが、代償としてバスチアンの記憶は容赦なく奪われていく。

そして全てが手遅れになった頃、ようやく判明するファンタージェンの実態。
かつてファンタージェンを訪れた他の人間達の存在と、その哀れな末路(人間としての全ての記憶を失い、廃人・狂人化)を知ったバスチアンは人間世界に戻る決意をする。
しかし、『人間世界に帰る』という願いを叶えるのにも記憶が代償として必要で…。

果たしてバスチアンは、ファンタージェンから生還することが出来るのか?

この話の最大の肝は、「想像力」だの「魔法の世界」だのを全肯定していないところ。
なにせ純真無垢で可憐なお姫様然とした「幼ごころの君」の正体は凶悪なサキュバス。
「なんでも願いが叶う」「素敵なファンタジー世界」「可愛いお姫様」を餌に、純粋な少年を釣り上げ捕食する、えげつないキャラです。

幼ごころの君:
 「ここでは貴方の願いはなんでも叶うし、私達も大歓迎。
  だからバンバン願いを実現させてね♪
 (でも、願いを叶えると記憶を失くしちゃうの!
  それと私と再会したいという願いは不許可!教えてあげないけど♪)」

酷すぎる。

つうか、そんなデストラップ、回避できるわけがないじゃないか。
自分が仕掛けられたら100%引っかかる自信があるだけに、翻弄されるバスチアンの姿は見ていて泣けてきます。
頑張れバスチアン。せめて骨くらいは拾ってやる。

そんなわけで、この「はてしない物語」のテーマとしては、

 1.想像力は大切だ
 2.でもいつまでもそれだけじゃダメだ。ちゃんと現実に向き合え

こんな感じ。

(ちなみに映画「ネバーエンディングストーリー」では、1.しか再現されておらず、エンデからは訴訟まで起こされています。
特に問題となったのは「ファンタージェンに渡ったバスチアンが、現実世界に物語の力を持ち込む」というオリジナルのラストシーン。
2.と完全に相反する内容です)


以上、本家「はてしない物語」の内容。
で、ようやく本題。
ここから先は続編を名乗ってる「秘密の図書館」の感想。

■ファンタージエン 秘密の図書館
大雑把に言うと「虚無に侵食されたファンタージェンを救うため、主人公が大冒険をする」話。

ええ、前作を知ってる人間なら誰もが即行で突っ込むはずです。

 「虚無をなんとかしたい?幼ごころの君に新しい名前をつけろ」
 「つうか、迂闊にファンタージェンに行くな。死ぬぞ、お前」

なんていうか、どんでん返しの要素が既に全て判明してしまっています。
こんなんでどうやって話としてまとめるのか。
逆に言えば、そこが上手く出来れば小説として大成功…と思ってたのですが。

全部無視しやがった。

その辺のダークな要素は全削除。
ただひたすら「素敵なファンタジー世界」を描いて終わってしまいました。
恐怖世界ファンタージェンは単なる夢いっぱいの国だし、凶悪なサキュバス・幼ごころの君も普通の可愛いお姫様。
なにこの駄作。いいところが全部スポイルされてる。

特に幼ごころの君の描写が酷い。
この娘は、ファンタージェン世界において、善悪を超越したスーパークリティカルな存在なのですが、本作では普通に善の側に立って「悪の女王」と戦ったりしてる。
がっかりです。そんな彼女は見たくなかった。

その他、オールドファンへのサービスのつもりなのか、「はてしない物語」で出てきたキャラクターも多数登場します。
が、そのせいで、かつての設定がぶっ壊れまくり。
この作者は本当に前作を読んでるのか?

また、「ファンタジー世界」の描写が鬱陶しいことこの上なし。
作者としては素敵演出のつもりなのかもしれませんが、いまどき「不思議不思議ー♪」と乗ってくる読者なんているんでしょうか。
ゲームやアニメ、映画などで慣れ親しんでる世代が、「魔法の家」や「不思議図書館」、ドラゴンやグリフィン、不思議な精霊の一つや二つで感慨を受けるわけがない。

魔法やファンタジー世界なんて、もはや「常識」「日常」。
「ハリーポッター」を読んだときにも思ったのですが、読者のレベルに作者の方がついてこれてない気がする。
そもそもその手の情景描写の分野で、視覚に直接訴えてくる映像ものに勝てるわけがないのだし、もっと文章表現ならではの部分に力を入れて欲しかった。

総じて超駄作、というのが感想。
先にこの話を読んでから、「はてしない物語」を読んでればまた違った感想になったかもしれませんが…。
結局、「幼ごころの君の凶悪なデストラップ」というオチ以上の衝撃を用意できなかった時点で、どうしようもない気がする。
コメント (4)
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