ブクログより
上巻とがらりと作風の変わった下巻である。
上巻ではテンポ良く、話が進んですいすい読めたのに、下巻になって難しくなってきた。
だいたい上巻で、事件が起きて犯人の目星がついて、逮捕されて、普通ならそれでおしまいだろうに、ページ2段組の下巻に続くのである。
上巻が現実の記述なら下巻はそれぞれの内面の記述とでも言おうか・・・高村さんの哲学の部分が出てきた。
ある刑事曰く「刑事ってのは犯人を検挙して、自白させたらおしまいじゃないんですかね。いつから犯人の心理まで研究しなけりゃいけなくなったんです?」
犯行の動機を明確に記録に残す、と言う時点で手こずる刑事達だが、犯人には動機がない。
金品が目的ではない、怨恨でもない、ただ何となく、むかついたから・・・などとうそぶく犯人に振り回される刑事達。
やがて、勾留、裁判と進む中での、合田の心理はまたどうなのだろう。事件は手を離れ次の事案にとりかかっていても、被告が気になる、手紙のやりとりをしたり、書物の差し入れをしたり・・・
その凶悪な犯罪を犯した犯人ではあっても、一個人として考えた時、もうすぐ終わるであろう井上という男の短い一生涯を考えると、なんともやるせないのだ。
この本やはりただのミステリーではありませんでした。
深い・・・深い。
冷血・下 / 高村 薫
★★★★☆