できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

日本教育政策学会に出てみて感じたこと

2012-07-09 23:19:45 | 受験・学校

昨日、おとといと、東京学芸大学で開かれた日本教育政策学会に出席してきました。今年から発足した課題研究プロジェクト「構造改革下の自治体教育政策をめぐる動向―教育政策研究の課題と方向をさぐる―」の研究発表があるためです。

ちなみに、私もこの課題研究プロジェクトのメンバーのひとりです。今回はこの課題研究の発表では何も出番はありませんでしたが、来月に名古屋大学で開催予定の日本教育学会のほうで、この研究プロジェクトから私ともうひとり、北川邦一さん(元・大手前大学)が出て、ラウンドテーブルで話をする予定です。8月のラウンドテーブルでは、北川さんからは堺のことを中心に、大阪府内の各自治体の教育の動きを。私のほうからはこの数年の大阪府・大阪市の子ども施策の動向を話す予定です。

それで、昨日・おとといの日本教育政策学会ですが、ここの課題研究の発表では、まず、生田武志さん(ホームレス問題の授業づくり全国ネット代表理事)から、「西成特区構想」の子ども支援の影響についての話がありました。これは『週刊金曜日』901号(今年6月29日付け)に、生田さんが「笑えへん、橋下維新 特区構想の西成で何が起きているのか」という題の報告をまとめておられます。今回、生田さんからはその内容をもとにして、山王こどもセンターなどの「子どもの家」事業がなくなろうとしていることの問題性などを中心に話をしていただきました。橋下改革が子どもたちに何をもたらすのか、その象徴的な事例が生田さんの紹介しておられた「子どもの家」事業の扱いなのだろうと、私はあらためて感じました。

続いて、中嶋哲彦さん(名古屋大学)からは、「大阪府市における新自由主義的・権威主義的教育政策」という題での話がありました。こちらの話は、生田さんの話とはちがって、もう少し日本という国全体の教育政策と各自治体の教育政策の関係、また、今すすめられているネオリベラリズム(新自由主義)的な教育政策の特徴などを、大阪府・大阪市の教育改革に見ていこうとするもの。ここで印象的だったのは、同じ新自由主義的な改革といっても、学校教育の部門と社会福祉や社会教育・生涯学習の部門では、その進め方(特にスピード)に大きなちがいがあるのではないか、という中嶋さんの指摘。これはまさにそのとおりだ、と私は思いました。

おふたりの話のあとは、東京都の教育改革の動向と大阪府・市の動向を比べてみるかたちで、元・都立高校教員の立場からの話がありました。やっぱり、この十年近くのあいだに進んでいる東京都の改革で、子どもも教職員も相当、しんどい状況に追い込まれているのだなとあらためて感じました。そして、会場に居た人たちとのフリー討論に移りました。

ひさびさにこのような形で日本教育政策学会に出てみて、やはり、私としてはうれしかったです。先月の公教育計画学会のときもそうでしたけど、こうして大阪の置かれている問題に、教育政策論や教育制度論系の研究者が注目してくださることは、とてもありがたいことです。また、こうした場での研究者間の議論を、できるだけ子どもに近いところにいるおとなたち(たとえば保護者や教職員・保育士、子どもにかかわる市民活動などに携わっている人たちなど)に、どうすれば伝えていくことができるのか。それもひとつの課題なのではないかと思いました。

今回の学会では特に、たとえば生田さんからのお話のように、子どもにできるだけ近いところにいるおとなの眼で見えてきたこと=子どもに関する「臨床的」な話を、同じくたとえば中嶋さんからのお話のように、子どもに関する制度・政策的な研究の話に、うまく接続していくことの大切さ。そのことを実感しました。このことは、私が大学院生時代からずっと考えてきたことでもあります。今後の自分の研究や社会的な活動のあり方への示唆とやる気をえられたような学会参加になりました。ひとまず、今日のところはこのあたりで終えておきます。


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