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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

野田正彰さんの本から(1)

2012-03-13 18:22:58 | ニュース

「教育委員会や校長は相手に納得させることのできない理不尽な命令を出して、相手に好意を強いる。しなければ処分する、次の不利益が順々に待っていると脅す。教師の思想・心情を無視し、否定し、『君が代』に拝跪しないことによってその教師の評価を最低につける。さらに『同僚が迷惑する、校長も処分される、学校の名誉が傷つく、生徒たちが世間から冷たくみられる』と責め、『不起立では評価は低くなるので、遠くの学校へ転勤となるかもしれない。そうなれば、家族の世話は難しくなる』と苛める。からめ手からの攻撃は不起立を決意した教師に自責感をひきおこす。几帳面な教師の良心は、こんな周囲の親しい人々の迷惑という脅しに無防備である。これは拷問以外のなにものでもない。しかも、不起立への処分の後に、『事故再発防止研修』なるものに出席を強制する。事故と考えていない人に、事故と叫んで彼らの信念を貶める。

信条において『君が代』に不同意な教師たちは、いいかげんな性格の対極にある良心の人である。良心の教師たちが苦しめられる姿を、子どもたちは敏感に見ている。良心の教師が委縮したとき、学校教育はさらに荒廃するだろう。」(野田正彰『子どもたちが見ている背中 良心と抵抗の教育』岩波書店、2006年、179~180ページ)

上記青字の文章は、野田正彰さんの本からの引用です、東京都教委が2003年10月23日、全都立学校に「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について」と題する通達(10.23通達)を出した後に、「国歌斉唱義務不存在確認等請求事件」(予防訴訟)弁護団からの依頼によって、野田さんが精神医学者として、原告である教員たちからの聴き取りを行って、精神医学的意見書を書かれたとか。その聴き取りの記録のあとに、野田さんのコメントとして付け加えられた文章が、上記の青字部分です。

ちなみに野田さんは、この10.23通達やそれに基づく職務命令、指導によって、原告たる教員にどのような抑圧がかかっているか、という観点からこの聴き取りを行っています。

また、この本の178~179ページによると、予防訴訟の原告で野田さんの聴き取りに協力した7人の教員は、たとえば不快なものを無理やり飲まされる感覚などから来る吐き気、嘔吐、食欲不振などの消化器症状や心臓の不快感、胸部の圧迫感、頭痛、手のこわばり・ふるえ、不眠といった「身体化された症状」を訴えているといいます。あるいは野田さんによると、たとえば慢性的な感情の制御困難、怒り、自責感、自己破壊的なイメージなどの「感情の不安定」、意欲低下や感情の抑制などの「抑うつ」、同僚との交流を控える傾向や恥辱感、絶望感、罪悪感などの「自己像の変化」もあると述べています。こうした状態を野田さんは「極度のストレス障害の状態」(178ページ)に書いたうえで、先ほどの青字部分の文章に至るわけです。

この文章をよく覚えたうえで、次の大阪府立和泉高校・中原校長の卒業式でとった対応に関する新聞のネット配信記事を読んでください。

http://www.asahi.com/kansai/sumai/news/OSK201203130048.html (君が代斉唱時、教員の口元も橋下氏に報告 大阪・和泉高:朝日新聞2012年3月13日付けネット配信記事)

いくら中原校長が弁護士出身の民間人校長で、個人的に橋下大阪市長・大阪維新の会代表と親しいからといって、そもそも、このような形で教職員が卒業式の国歌斉唱で起立したか、そこで口を開けて歌ったかを「報告」するのは、いったいいかなる法令上の根拠があってしていることなのかどうか。そもそも、現行教育法令上、何を根拠としてこのようなことを一公立高校の校長がしているのか、それ自体が疑問なのですが。

それ以上に問題なのは、この報告をあげている中原校長にも、「これが服務規律を徹底するマネジメント」と中原校長を持ち上げる橋下市長・大阪維新の会代表にも、上記の野田さんの本にあるような視点、つまり、自分たちの職務命令やマネジメントが教職員に対して「極度のストレス障害」を発することもあるということに対する認識が、まったくもって欠落しているということでしょうか。

こういう認識って、そもそも「上司としてあってはならない認識」なのでは? パワーハラスメントが横行する職場環境をつくるのではないのでしょうか?

そして、橋下市長・大阪維新の会代表にせよ、中原校長にせよ、教職員に「言うことをきかせる」という話には熱心ですが、このような話をするときには「子ども」のことをどのように意識しているのでしょうか。あるいは、子どもたちにも「自分たちにたてつくな。たてつくと、こうなるぞ」ということを見せつけるために、国旗国歌問題を取り上げて、一部の教職員を「極度のストレス障害」にまで追い込むような対応をしているのでしょうか。もしも後者を考えているのだとしたら、これはまさに教職員だけでなく、子どもに対する抑圧でもあるわけです。

そういう抑圧された子どもや教職員が、抑圧されたストレスをうまく解消されずに、自らの心身を傷つけたり、他者の心身を傷つけていく。もしもそういう構造が学校のなかに生まれているのだとしたら、それをつくりだした側の責任は著しく大きいと言わざるをえません。

なお、野田正彰さんの本からいろいろわかることについて、今後数回にわけて、このブログで紹介していきたいと思います。また、あわせて、このブログではほかの本も随時、取り上げていく予定です。

<追記>

大阪労働者弁護団「大阪府教育委員会による『君が代』斉唱時に起立しなかった教員に対する懲戒処分の撤回を求める声明」(2012年3月13日)

http://homepage2.nifty.com/lala-osaka/ketugi120313.htm

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