ジム・ジャームッシュ監督の最新作。ニュージャージー州パターソンに住むバス運転手の穏やかな日常を、一週間にわたって切り取ったヒューマンドラマです。アダム・ドライバー主演、「ワールド・オブ・ライズ」(Body of Lies)「彼女が消えた浜辺」(About Elly)のゴルシフテ・ファラハニが共演しています。
新聞のレビューを読んで心惹かれ、見に行った本作。久しぶりに武蔵野館に行ったら、いつの間にか新しくきれいになっていて驚きました。本作のコーナーには、ジャームッシュ監督の過去作品の人気投票などあり、劇場スタッフの気持ちが伝わってくる温かい演出でした。
本作は詩的なセンスにあふれた、アートのような作品。タイプとしてはブルックリンが舞台の「スモーク」や「フランシス・ハ」のテイストに似ているでしょうか。大きな事件は起こりませんが、平穏な日々こそが愛おしく感じられるすてきな作品でした。
パターソンに住むパターソン(アダム・ドライバー)はバスの運転手。朝早くベッドの中で妻とたわいのない話をして仕事に向かい、車庫係のドニ―とあいさつをかわします。一日の仕事を終えると、家で妻と夕食をとり、愛犬マーヴィンと散歩。途中、行きつけのバーでビールを一杯ひっかけるのがささやかな楽しみ、という規則正しい毎日です。
パターソンは詩を書くのが趣味で、毎日秘密のノートに詩を書きためています。妻はどこかに発表するべきだと進言しますが、彼は意に介しません。そんな妻ローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)はモノクロのジオメトリック柄が好きで、部屋をペイントし、カップケーキを作ります。そして突然カントリー歌手を目指し、ギターの練習を始めます。
物静かなパターソンとポジティブ思考のローラ。パターソンが誰に見せるわけでもない詩をひたすら書いているのに対し、ローラがいいこと考えた~♪とばかりに、ペイントやお料理、新しいことにどんどんチャレンジしているのがおもしろい。ローラの作ったカップケーキがバザーで人気を博し、その売上げで2人は久しぶりに食事と映画にでかけます。
仲が良いけれどべたべたしていなくて、それぞれの世界をもっているのがすてきでした。2人の共通点はクリエイティビティでしょうか。実際、パターソンとローラを見ていると、なぜだかむくむくと創作意欲がわきあがってくるのを感じました。何かを作りたい、残したい、というのは人間の根源的な欲求なのかもしれません。
映画そのものが、詩が韻を踏むように、同じモチーフが繰り返し登場するのも印象的でした。なぜか度々双子が登場し、詩が好きな人たちとの出会いがあります。2人の部屋は、ローラが好きなモノクロのジオメトリック柄がどんどん増えていくし、思えば繰り返される毎日もしかり。
主人公の名前がパターソンで、街の名前がパターソン。そして日本からやってきた詩の好きな男性(永瀬正敏)が持っていた本が、パターソン出身の詩人、ウィリアムズ・カルロス・ウィリアムズが書いた「パターソン」という名の詩集。
永瀬さんの登場はやや唐突に感じられましたが、出会うべくして出会ったのだ、と納得のいくラストでした。