遅ればせながら、先月DVDで見た映画の感想です。アメリカ版”万引き家族”という声も聞こえてきましたが、なるほど映画を見て納得しました。偶然ですが、万引き家族と同じく、花火が借り物の幸せの象徴として登場するのも興味深く思いました。
フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法 (The Florida Project)
6歳のムーニー(ブルックリン・プリンス)と母親のヘイリー(ブリア・ヴィネイト)は、住む家を失い、今はフロリダのディズニーワールドに近い安モーテルで暮らしています。大人たちの深刻な状況をよそに、ムーニーはモーテルで暮らす他の子供たちと、いたずらしたり、遊んだり、アイスクリームを食べたり、毎日楽しくすごしていましたが...。
アメリカに在んでいた頃、子供がまだ小さい時分に、毎年フロリダのディズニーワールドを訪れるのを楽しみにしていました。飛行機だけでなく、時にドライヴ旅行で行くこともあったので、映画に登場するようなパステルカラーのキッチュなモーテルが街道沿いにあったことはなんとなく記憶に残っています。
ただ当時は、モーテルで暮らしている人がいるとは知りませんでした。アメリカでは2008年のリーマンショックを機に、住む家を失い、モーテルでその日暮らしをせざるを得なくなった人たちが急増したそうです。映画「ドリームホーム 99%を操る男たち」(99 Homes)でも、そうした人々の姿が描かれていました。
観光地のモーテルは宿代も高いだろうと思いますが、その分観光客相手の商売ができるというメリットがあるのでしょう。母親のヘイリーはいったいどうやって生計を立てているのか。本作は、6歳の少女ムーニーの目を通して、社会の底辺ともいうべき暮らしが少しずつ浮かび上がってきます。
食べ物は、ダイナーで働く友人アシュリーから残り物をこっそり分けてもらい、時にはフードバンクの配給トラックがモーテルに来ることもあるようです。ヘイリーもどこかで仕事を見つければいいのに...とつい思ってしまいますが、彼女がやることといったら、安く仕入れた香水を観光客に高く売りつける詐欺まがいの行為。
やがてある事件がきっかけで、友人アシュリーから見限られたヘイリーは、モーテルの宿代にも事欠くようになり、ついには怪しげなサイトにプロフィール写真を登録し、モーテルの自室に客を招き入れるようになります...。
映画ではヘイリーの転落人生が、ムーニーの視点で間接的に描かれますが、賢いムーニーですから、母親が何かよくないことをしていることは、薄々気がついていたでしょう。そして毎日をつかのま楽しくすごしながらも、いつかこの生活に終わりが来ることを予感していただろうと思います。
そういえば、万引き家族ではラスト近くの安藤サクラさんの涙のシーンが印象的でしたが、本作でも、ムーニーを演じるブルックリン・プリンスちゃんの涙が強烈なインパクトを残しました。ラストはちょっぴりファンタジーのようで...大好きな「テルマ&ルイーズ」を思い出しました。
映像やカメラワークが独特で、ショーン・ベイカー監督がインスタグラムで見つけたというブリア・ヴィネイトの存在感も抜群。弱者を優しく見守るウィレム・デフォー演じるモーテルの管理人は、なぜか大杉連さんを思い出しました。^^ 昨年のベストに入れようか悩んだくらい、心に残った作品です。