セレンディピティ ダイアリー

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起雲閣

2018年03月09日 | +静岡・愛知

熱海梅園の後は、車で移動して起雲閣(きうんかく)を訪れました。

東武鉄道の根津家の別邸として知られる起雲閣は、1919年に実業家・内田信也氏によって建てられ、1925年に根津嘉一郎氏の所有となりました。1947年に実業家・桜井兵五郎氏によって旅館として生まれ変わり、山本有三、志賀直哉、谷崎潤一郎など、日本を代表する文豪たちに愛されましたが、2000年に閉館。現在は熱海市の施設として公開されています。

美しい日本庭園をぐるりと囲むように、伝統的な日本家屋の本館、和洋の様式・装飾を融合させたレトロモダンな洋館、さらに客室、浴室と続き、なるほど元旅館として運営されたというのが納得の造りでした。どのお部屋からも広々とした庭園が見渡せ、燦々と陽の当たる心地よい空間でした。

玄関のある和風建築の本館は、1919年に内田信也氏によって建てられました。こちらは1階の”麒麟”の間。鮮やかな群青色の壁が目を引きますが、これはのちに旅館を開業した桜井兵五郎氏が塗り替えたものです。桜井氏が加賀の出身であったことから、金沢のお茶屋さんで使われる群青色を取り入れました。

文豪たちが宿泊したという客室の壁は、同じく金沢のお茶屋さんで使われる赤っぽい弁柄色が塗られていました。群青色も弁柄色も、2年前に金沢のお茶屋さんで見て知ったばかりだったので、すぐにわかりました。

本館に続く洋館は、1932年に根津嘉一郎氏によって建てられました。”玉姫”と名づけられているこちらのお部屋はダイニングルームでしょうか。暖炉のある西洋式のデザインですが、天井は日本の神社仏閣のような仰々しい造りになっているのがおもしろかったです。

”玉姫”の間にサンルームが併設されています。床にタイルがモザイクに敷き詰められ、天井と窓は全面ガラス張りのステンドグラスとなっていました。みごとな装飾にうっとりでした。

”玉姫”に続く、”玉渓”の間です。英国チューダー様式を取り入れた山小屋風の造りですが、暖炉の上にはサンスクリット語の装飾があり、オリエンタルな趣がありました。

洋館は、どのお部屋にもみごとなステンドグラスの装飾がありました。

こちらは1929年に根津氏によって建てられたもうひとつ洋館、”金剛”です。

”金剛”には、ローマ風浴室が併設されていました。浴槽が狭いわりに深いのが、日本独特という感じがします。^^

文豪たちが宿泊したという客室をひと通り見学してから、最初の本館にもどって2階に上り、”大鳳”の間を見学しました。ここは太宰治が宿泊したお部屋だそうです。

2階からの庭園と洋館の眺めもすばらしかったです。最後に併設されているカフェでひと休みし、お抹茶と和菓子で小さな旅を締めくくりました。

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熱海梅園の梅

2018年03月07日 | +静岡・愛知

暖かくよく晴れた週末、熱海までドライブに出かけました。

東名高速が珍しくスムーズだと思ったら、高速を下りてから渋滞に遭いました。>< 熱海に着いたのが11時15分頃だったので、親水公園の駐車場に車を停めて、先に早めのお昼をいただくことにしました。青い空、青い海、水温むマリーナの風景に春の訪れを感じました。

熱海の中心街をお昼を求めてぶらぶらしていたら、あちこちのお店に行列ができていてびっくりしました。11時半からの開店に並んでいるようです。事前に調べていなかったのですが、新鮮な魚介が食べたいなーと定食屋さんの「まさる」さんの列に並びました。偶然ですが、話題のフィギュアのザギトワ選手のわんちゃんと同じ名前ですね。^^

ぎりぎり開店第1弾?に入ることができてよかった。私はランチAの海鮮丼定食をいただきました。新鮮な海の幸がたっぷり♪ 美しい盛つけに感動しました。ぶりのお刺身が白身のお魚のようにきれいです。ランチBのフライ定食も意外と人気がありました。相席になってごめんね~とお店のご主人?も感じよく、おいしいランチを満喫しました。

食事のあとは、車で熱海梅園に移動しました。日本一早咲きの梅で知られるこちらの梅園は、1~2月中旬が見頃とのことですが、今なお遅咲きの梅が咲き誇り、とても美しかったです。梅園はゆるやかな傾斜となっていて、園内にはいくつもの庭園があり、川、滝、橋と変化に富んだ風景が楽しめました。

紅・桃・白と色とりどりの梅の花がみごとなグラデーションを作り、園内を霞のように覆っています。

中でも私が一番気に入ったのが、呉服枝垂(くれはしだれ)というピンク色の枝垂梅。お正月に稲取で見た”雛のつるし飾り”を思い出しました。

白梅もきれい!

梅園の一番高いところには足湯があります。私は入らなかったのですが、とても気持ちよさそうでした。

梅のほかに、ピンクと白の馬酔木(あしび)の花が咲いていて、今がちょうど見頃でした。慎ましやかで、小さな鈴のような愛らしさがあって、私も大好きなお花です。

作曲家の中山晋平さんの移築された住宅や、韓国庭園もありました。1~2月には市内を流れる糸川沿いで、日本で一番早咲きの”あたみ桜”が楽しめるそうなので、次回は少し早めに訪れようと思います。

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祈りの幕が下りる時

2018年03月06日 | 映画

北参道でお昼を食べながら、時間があるので映画を見に行こうということになりました。お互いの好みがなかなか折り合わず、双方が歩み寄って?決まったのがこちらの作品。北参道から渋谷まではゆるやかな下り坂なので、散策をかねてぶらぶら歩いていきました。

祈りの幕が下りる時

東京都葛飾区のアパートで、身元不明の女性の死体が発見されます。やがて被害者は滋賀県在住の女性と判明しますが、東京で殺された理由がわかりません。捜査が進む中、被害者は中学の同級生で今は舞台演出家となっている、浅居博美(松嶋菜々子)を訪ねて東京にやってきたことが明らかになります...。

原作は東野圭吾さんのミステリー「新参者」シリーズの完結編。原作がすごくおもしろかったので、映画はいいや...と思っていましたが、期待以上におもしろかったです。事件自体が込み入っているうえに、主人公の刑事 加賀(阿部寛)の家族背景もからむので、どうなることかと思いましたが、きれいにわかりやすくまとまっていました。

物語は、ひとことで言えば平成版「砂の器」。まったくつながりのない複数の事象が、やがてぴたりと一点に結びつく展開は、話を知っていても興奮しました。こういう論理の組み立てのうまさは、さすがは東野圭吾さんだなーと思います。ずしりと重い人間ドラマに、東日本大震災や福島原発事故といった時代背景が生きていました。

原作を読んでいる時は、娘に満島ひかりさん、父親に豊川悦司さんを思い浮かべていましたが^^ よく考えれば、明治座の舞台を仕切る演出家に満島さんでは若すぎますね。松嶋菜々子さんはぴったりのキャスティングだと思いました。華やかな中にも影を感じさせる演技がすばらしかったです。

本を読んだのがずいぶん前のことで、担任の先生のことをすっかり忘れていましたが、博美の相談に乗っているうちに、いつの間にか恋人同士になっていたのですね。先生の家族にとってはひどい話ですが、まったく身寄りのない博美にとって、先生はもっとも信頼のおける大人であり、ひとりで生きていく上で必要な存在だったのだと理解しました。

(追記: 担任の先生の設定は、原作と変えてあったようです)

親子の逃避行は、もっともつらい場面ですが、もっとも心揺さぶられる場面でもありました。映画では説明が割愛されていましたが、博美が手掛けている舞台は曽根崎心中を現代に蘇らせた作品という設定でした。逃避行の最後は、すさまじい人生を歩んできた親子だからこそ理解し合えた究極の愛だったのだと思います。

映画ならではといえば、何度も登場する琵琶湖の風景が印象に残りました。まるで海のように広い湖は、とらえどころのない事件の全容を表していたように感じました。一方、日本橋や人形町の街並は、行きつけのお店や知っている場所がいくつも登場し、ほっと心なごむ風景でした。

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道明寺の桜もちと、抹茶のロールケーキ

2018年03月04日 | 料理

おひな祭りに、道明寺の桜もちを作りました。

道明寺粉と桜の葉の塩漬けはカルディで購入。あんは家にあった粒あんを使いました。

桜もちは、関東では薄皮を使った桜もち、関西では道明寺粉を使った桜もちが主に食されているようです。私自身、大きくなるまで桜もちといえば薄皮のもので、道明寺をいただくことはほとんどなかったのですが、最近は関東でも道明寺をよく見るようになりました。それにあわせて、薄皮の桜もちは長命寺とよんで区別しているようです。

長命寺の桜もちは、海外にいた時によく作っていましたが、道明寺の桜もちを作るのは今回がはじめて。道明寺粉の袋に書いてあるレシピを参考にして作りました。

まずは道明寺粉を分量の水でふやかし、ぬれ布巾を敷いた蒸し器で蒸します。このあと水で溶いた食紅とお砂糖を加えるとありますが、私は先日いただいた仙太郎さんの白い道明寺が気に入ったので、同じように色をつけずに白く仕上げました。砂糖は袋に書いてあった分量よりかなり減らしました。

道明寺の生地にラップをかけておき、その間に粒あんを20gずつ丸めます。道明寺の生地を10等分し、あんを包んで形を整えます。塩抜きして水気をふき取った桜の葉で包んでできあがりです。

桜の葉っぱが大きくて、柿の葉寿司みたいですが^^ なかなかいい感じにできました。長命寺より手間はかかりますが、道明寺の方がきれいに仕上がります。薄皮を同じ大きさ、同じ形に焼くのは慣れないと難しい。道明寺は等分に分けて丸めるだけなので簡単です。

道明寺粉はもち米でできているので、味はおはぎにちょっと似ています。桜の香りがおもちにうつり、春の気分を味わいながらおいしくいただきました。

***

少し前に、抹茶のロールケーキを作りました。

抹茶生地を焼いて生クリームをぬり、端に粒あんをのせます。

あんこが中心にくるようにくるりと巻いてできあがり。

築地本願寺カフェでいただいた”小豆と抹茶の堂島ロール”にヒントを得て作りました。ほろ苦い抹茶生地とあんこがベストマッチでした。

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Bogamari Cucina Marinara

2018年03月02日 | グルメ

代々木に用事ででかけた折に、北参道駅近くにあるイタリアン、Bogamari Cucina Marinara (ボガマリ・クチーナ・マリナーラ) でお昼をいただきました。明治通りから入ってすぐのところにある、一見 山小屋風?のこじんまりとしたレストランです。

こちらはイタリア各地にある港町の魚市場をイメージしたトラットリアで、シーフードを専門としたレストランです。お肉料理を出していないところに、お店のプライドを感じました。色とりどりのお魚がショーケースに並び、好きな材料を好みの調理法でいただけます。沖縄の牧志公設市場を思い出しました。^^

私たちは、4種類から選ぶパスタに、有機野菜のサラダとコーヒーのつくランチセットをいただきました。

最初に運ばれてきたサラダとパン。サラダは何種類もの野菜にツナとゆで卵が入ったニース風サラダ。お店のスタッフが目の前で、ドレッシングをしゃかしゃか撹拌してくれます。^^ 表面をパリッと軽く焼いたイタリアンブレッドもおいしかったです。

私たちが案内されたのは入口に近いテラス風の空間。予約も結構入っていて、あとから来る人たちは断られていたので、早めに行ってよかったです。

こちらのパスタは、”フェットチーネ 牡蠣のクリームソース”。手打ちのひらひらパスタがおいしかったです。牡蠣のシーズンもそろそろおしまいですね。

私は、”オレッキエッテ カジキマグロとパン粉”をいただきました。オレッキエッテは耳の形をしたパスタ。つるっとなめらかな食感でした。パン粉を使うということは、シチリア料理でしょうか。少しつぶすようにしたマグロに、ソースがよく染みていました。

食後の深煎りコーヒーもおいしく、大満足のランチでした。

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陸王

2018年03月01日 | 

埼玉県行田市にある老舗の足袋製造会社が、会社の存続をかけてランニングシューズの開発に挑戦する、ビジネス・エンターテイメント小説です。

池井戸潤「陸王」

埼玉県行田市にある「こはぜ屋」は100年の歴史をもつ老舗の足袋製造会社。社員20数名の小さな会社で、足袋ひとすじに長年がんばってきましたが、和装品の市場縮小に伴い、業績は低下の一途にありました。そこで会社の生き残りをかけ、足袋作りのノウハウを生かして、ランニングシューズ”陸王”の開発に乗り出しますが...。

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池井戸潤さんのお仕事小説が好きなので楽しみにしていましたが、期待通りにおもしろかったです。読んだあとで、昨年秋に役所広司さん主演でテレビドラマ化されたことを知りました。Wikipediaで、縫製課のリーダーに阿川佐和子さん、こはぜ屋を救う会社社長に松岡修造さんといったキャスティングを知り、なるほど~とにやにやしました。

テイストとしては「下町ロケット」に近い、勧善懲悪のサクセスストーリー。地域に根差した特定の強みを持つ零細企業が、資金難や大手ライバル会社の妨害など、さまざまな困難を乗り越えて成功への一歩を踏み出すという爽快な物語です。悪を徹底的に打ちのめすわけでないところが池井戸さんらしく、気持ちのよいストーリーとなっていました。

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手探り状態で新しい事業を始めた企業に、すぐに優れた商品が開発できるはずもなく、こはぜ屋は何度も壁にぶつかりますが、苦あれば楽あり、一難去ってまた一難、捨てる神あれば拾う神あり、そのたびに不死鳥のようによみがえります。そう来たかという意外性のある展開がおもしろく、最後まで飽きることなく引きつけられました。

こはぜ屋がもともと持っていた強みは、100年間培ってきた足袋作りと縫製の技術、小さな会社ゆえの家族のような社員の結束の強さなどがありますが、それだけではトップアスリートを支える最高品質の商品は生み出せません。新たに必要となる素材の開発、専門家からの適切なアドバイス、設備投資に必要な資金も必要となります。

でも最終的に成功の決め手となるのは、結局のところ、人と人との信頼関係につきるのではないかということを、節目節目でかみしめました。これは池井戸作品における、一貫したテーマになっているように思います。

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たとえば社長の宮沢が、理想のソール(靴底)を探し求めてたどり着いた飯山は、かつて倒産して借金取りに追われ、自堕落な生活を送っている世間的には信用度ゼロの男です。ふつうだったらリスクを避けて絶対に近づきたくない相手ですが、宮沢は彼を信用し、こはぜ屋の顧問として迎え入れるのです。

あるいは宮沢の息子の大地は、大学を卒業したものの就職が決まらず、求職活動をしながらこはぜ屋でくすぶっていました。自分が認められないことで自信を無くし、働くことに対して情熱が抱けなかった彼が、陸王の開発に打ち込むことでやりがいと責任を見出し、成長していく姿に清々しい感動を覚えました。

最初に登場した時は、失意のどん底にいた2人が、最後にこれほど化けるとは誰も想像がつかなかったと思います。^^

実業団のランナーである茂木の挫折と苦悩、そしてそこからのドラマティックな復活劇にも心打たれました。こはぜ屋の社員たちは、自分たちの挑戦と茂木の復活を重ねて見ていたと思います。偶然にも本を読んでいたのがちょうどオリンピック期間と重なっていたこともあり、本書に登場するアスリートたちのドラマがよりリアルに胸に響きました。

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