私が死んだあとであなたが読む物語

基本的には「過食症患者の闘病記」、と言っていいでしょう。

「悪の教典」 貴志祐介

2012年03月21日 21時36分40秒 | 読書感想
注意、多少ネタバレの節ありです。


共感能力に欠けた男性教師を主人公にしたお話です。

この「共感能力に欠けた」という特異性が肝になるわけです。

他人が傷ついているのを見て自分も心痛めるということがない。

故に人を傷つけることに一切臆さない。

となると、まるで感情のないロボット人間で冷徹な殺人鬼ってことになりそうですが、別にそんな感じもしません。

それは、小説内では「感情を模倣しているから」ってことになってます。

そのため感情のない人間には見えず、むしろ自由に感情を装えるため人に好かれる。

そんな特異な人間が次はどんな行動をとるのか、そこに注目しながら、一方でこの男の暴走を誰がどう止めるのか、そんな期待を込めながら読み進めることになります。

後半、「新世界より」のような冒険ものの色が強くなりますが、著者はきっとこういったのを描くことが好きなんだろうと思います。

また、この著者の愛読者たちはきっとそういった描写を楽しみに彼の作品を読んでいるのだろうと思います。

たしかに、後半の皆殺し、おもしろかったです。

でも、そうなってからは蓮実の特異な性質に対する何らかの答えみたいなものはもう蔑ろになってしまいます。

それならまだ、蓮実の過去を挿みながら物語が進んでいるそれまでの部分の方が、なんとなくこの小説の魅力のような気がします。