二葉鍼灸療院 院長のドタバタ活動日記

私が日頃行っている活動や、日々の鍼灸臨床で感じたことなどを綴っていきたいと思います。

不妊症に対する鍼灸最前線 聴講 ~専門鍼灸師が実践する有効な治療方法とは?~

2020年12月12日 | 不妊症

 少し前になりますが、第51回現代医療鍼灸臨床研究会(令和2年10月25日)にて、「不妊症に対する鍼灸最前線」というテーマで講座がありましたので、オンラインライブで参加させていただきました。

 午前中の基礎講座は聴講できなかったのですが、聴講した分を3回に分けて学んだ点や私の意見等も書いていきたいと思います。

 

 第1話(今回)専門鍼灸師が実践する有効な治療方法とは?」【シンポジウム】

 第2話 不妊症の病態と東洋医学(漢方・鍼灸)が果たす役割【教育講演】

 第3話 不妊症に対する鍼灸治療ー諸外国における臨床研究の現状と課題を中心としてー【基礎講座】
     ※聴講できませんでしたが資料より

 

第1話【シンポジウム】

1.女性不妊に対する臓腑経絡病証のアプローチ

 明治国際医療大学 はり・きゅう学講座  田口 玲奈 先生

2.不妊治療における中髎穴刺鍼の応用

 明生鍼灸院  木津 正義 先生

3.腹部・頸部圧痛改善による不妊症へのアプローチ

 アキュラ鍼灸院  徐  大兼 先生

4.腰仙部と下肢へのアプローチによる不妊症に対する鍼灸治療

 東京有明医療大学非常勤講師

 せりえ鍼灸室  小井土 善彦 先生

 

 上記の講師の皆様は、不妊治療をされている専門クリニックと連携あるいはクリニック内で鍼灸を実践されている先生方であり、そのあたりは私の理想とするところです。クリニックで連携するには、鍼灸が何に効果が期待でき、どのような効果を実際出せるのかを明示する必要があります。

 不妊症に限らず、病院やクリニックで鍼灸を実践されている所はカンファレンス等で、医療ベースの話の中で一人の患者をチームとして捉えていくことが必要であり、その環境の中で東洋医学の長所を活かしているのだろうと考えます。また、それが求められているのだと思いますが、それを実践されている先生方の話は貴重だと感じ参加しました。

 鍼灸院で妊娠しやすい身体づくりの施術を行ない、クリニックの不妊治療を実施する中で鍼灸治療期間中に体調が改善され妊娠、出産できた。これは当院でもよくあるケースです。クリニックでも、患者さん個人個人で詳細な診察を行ない、採卵や移植がうまくいかなかった場合は、様々な治療の工夫を行なっております。
 ここで考えなければいけないのは、鍼灸について何を目的に施術計画を行なうのか、そして、鍼灸は妊娠や出産という一大イベントを迎えるにあたり、どこに効果的に働いているのかを考えることです。

 患者さんの体調が良くなった!という満足度とともに、医学的にはどう妊娠に繋がったのか。
 また、20%~50%のご夫婦は不妊(妊娠を希望し、1年以上、夫婦関係があるにも関わらず妊娠に至らない状態)の原因が不明という報告がある中、この原因不明な部分の背後にあるものを改善できれば妊娠率や出産率が増加するのではないか・・・など考えるときりがありません。体調が改善しても結果が出ない場合も多くあります。

 だから様々な情報を取り入れ、自身の鍼灸臨床と照らし合わせ、少しでも参考になる情報があれば深掘りし、取り入れることができるものは取り入れていきたいと思っております。それが患者さんの利益にも繋がります。一組でも多くのご夫婦の笑顔を増やすための歩みです。

 

 さて、時間も経っておりますのでメモや記憶を辿りながら先生方の講義の中で得たものを覚え書きしておきたいと思います。自身の臨床の再考となることもございましたので収穫がありました。

 

【田口先生】

症例や研究結果を示していただきながら解説。

週1~2回の施術を3ヶ月間実施した症例では気血水スコア(寺澤先生作成)が有意に改善。とくに気虚・気うつ・気逆などが改善。

症例数は少なかったが37歳以上、37歳未満に分けて妊娠率を調査したところ有意とまでは行かなかったが、37歳以下では妊娠率向上の影響が示唆され。37歳以上では妊娠率には影響があったと思われるが妊娠維持が不能(流産)の例が多かった。

鍼治療の研究で血清の抗酸化力を調べた研究では、鍼治療を行なうと抗酸化力が増加し、生体の酸化ストレスを緩和させた。これは患者さんの不安を和らげ、気分の改善に繋がっていることが示唆。

また、これまでの研究から子宮内膜の肥厚やプロゲステロン濃度や卵巣血流の増加もみられらた。

症例を重ねて、鍼灸ではここまでできるよ、この状態は無理だよという適応と限界を明確にし最良の方法を追求する。

 

【木津先生】

鍼灸治療を1年以上継続しても妊娠に至らない18例、また胚移植を2回以上行なっても妊娠に至らない患者8例に仙骨の部分にある中髎穴刺鍼を行なったところ、前者で7例が、後者で4例が妊娠。後者では子宮動脈の血管抵抗も測定され有意に減少した。

中髎穴刺鍼は、子宮周囲の環境不良が疑われる症例の選択肢の一つであり、骨盤内臓器の循環改善が期待できる。

伊佐治の研究では、中髎穴刺鍼で男性の精子運動率が増加と報告。精漿中のPSAの値が増加しており、交感神経を介して前立腺の血流に良好な変化が起きたことを考察。また精巣血流の測定では、血管抵抗値の減少、血流速度が増加しており、副交感神経を介しての血管拡張作用だと考察。

患者の年齢、基礎疾患、体型などの個人的背景は様々であり、運動、食事、睡眠などの生活習慣改善をあわせて指導し、妊娠しやすい体づくりを目指すことが重要。

不妊治療を行なう年齢が上がっている。40代の妊娠、出産希望者が増えているからこそ、そこに鍼灸の価値もあるのではないかと考える。

 

【徐先生】

自律神経、免疫作用、血液循環、これらは生殖に関することだけに作用しているわけではなく生命を維持するため全身的に作用している。その観点から、生活習慣や患者さん自身の人生を見直してみることも大切。

不妊治療では甲状腺機能低下や慢性子宮内膜炎など不妊に影響を及ぼす状態を見つけ治療を行なう。これ自体は大切なことだが、なぜそのような症状が出現するに至ったのかを見つめることも必要。

先生の考えとして、妊娠そのものはカラダという大きな観点からはオプション機能と考える。まず優先すべきは自分の命。命を守るだけの備えが自分のカラダにあるかどうか。妊娠は自己の防御機能により抑制され、妊娠できないということも一理あるのではないか(これに関しては私も同意見でございます)。

妊娠、出産希望のご夫婦は、専門クリニックや婦人科での検査は必須。卵管閉塞や無精子症でいくら鍼灸を行なっても効果はない。私達にできること、できないことを知って患者さんにアドバイス。

心のケアは鍼灸師が行なうだけでは不十分かもしれないので、必要な場合は専門家を紹介してあげることも方法の一つ。

提携している京野アートクリニックで反復不成功の患者に鍼灸を実施すると妊娠率向上、流産率低下がみられたが、まだ症例数が少ないため、今後も症例集積を行なう。

頸部の筋肉・筋膜の圧痛や緊張を取ることは、脳神経の活動が良好になり迷走神経の作用向上の効果も期待され、交感神経過緊張改善の観点からも重要と考える。

腹部、特にみぞおち付近の筋緊張をとることは太陽神経叢の作用からも重要と考える。

 

【小井土先生】

妊娠力の低下は出産力の低下。

統合医療の一部として鍼灸を積極的に取り入れている森本 義晴 医師(HORACグランフロント大阪クリニック 院長、院では受胎鍼を実施)は、森をみる専門家として鍼灸師に期待を寄せている。

41歳の方で、腸管子宮内膜症のある患者の症例を紹介。東洋医学的、現代医学的両面から患者を捉えていくことが必要。

妊娠を希望して四年の間に21回の採卵、11回の移植、途中、何度かの流産を繰り返し44歳で出産。戻した時の胚は鍼灸治療三ヶ月経過後に行なった採卵による胚であった。

施術中、鍼灸をしながら刻々と身体は変化する。これをしっかり確認する。

妊活期間が長くなるほど女性は精神的に参ってくる。そのメンタルヘルスを支えていくという点においても鍼灸は非常に素晴らしい施術である。

 

 まとめ 

不妊症に対する鍼灸に関してのエビデンスという点においては、まだ現在の評価システムでは信頼性には欠ける。

しかし、患者の背景は皆違い、原因不明の不妊が多い。その部分の可能性を広げ妊娠あるいは出産の確率を高めるため、鍼灸を取り入れている医療機関も存在する(今回も医療機関と連携する講師)。

カラダの表面に現れる筋緊張や反応を改善するために鍼灸を実施することで、局所的には子宮や卵巣の循環改善、全身的には酸化ストレスを軽減し、自律神経機能を良好にすることで、カラダ自体の生命の力を上げることができる。そこからの妊娠、出産。

鍼灸を行なっているからそれでいい!ではなく、できる限り生活習慣改善のアドバイスや養生をススメることが重要。

妊娠、出産を臨み一年以上妊娠できないご夫婦は必ず専門クリニックや婦人科での検査は受けて欲しい。

鍼灸でできること、できないことを施術者が自覚する。

鍼灸は男性の精子機能の改善にも可能性のある施術。

 

 以上、長くなりましたが第1話を終了します。

 もし、妊活を行なっているご夫婦で鍼灸に興味のある方、カラダ作りに鍼灸を取り入れたいと考えられている方は、是非、ご連絡ください。ご相談承ります

 最後までお読みいただき、ありがとうございます

 

二葉鍼灸療院(金沢)

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