僕の手の中には渡されたばかりの4,000円が乗っていた。
そして僕はいいようのない喜びを感じていた。
目の前には田植えの済んだ田んぼが広がり、その先には残雪の後立山連峰が見えた。
ひょんなことから野沢菜の収穫作業の手伝いに行く羽目になった。
その作業をしていた知人が行かれなくなり、代わりに行くことに何故かなってしまった。
朝6時から作業しているというが、初めてのこととて8時から12時までの4時間。
野沢菜を引き抜きカブの部分を包丁で切り落とし、傷んだ葉を取り除く作業。
7~8人が作業していた。
タイの人も来ていたらしいが、今は他のブドウ農家に行ってしまって手が足りないらしい。
ひたすらしゃがんでの作業なので、腰痛持ちの身には少なからず辛い。
膝を突いたり、立ったり座ったり頻繁に体制を変えながら、なんとか作業を終えた。
そして、時給1,000円の4時間分、4,000円の現金払い。
この感覚は何年ぶりだろうか。
学生の時の土方のバイト以来だろうか。
まさしく日雇いだ。
仕事が終わり、その場で現金でもらう時の喜び。
これは金額ではない。
電気工事の時のバイト代は16,000円だが、これは後日の振込だ。
それほどの感激はない。
自分が働き、その場で報酬をもらう。
その単純な喜びを久しく忘れていた。
今日が2日目。
報酬の4,000円は、昨日の4,000円と合わせて、大事に袋に入れてしまいこんだ。
簡単には使えない気がする。
野沢菜がどんどん育っていて、手が足りない中、簡単にやめるわけにはいきそうにない。
『慣れて来たので、6時からどうかな』という農家のHさんの言葉には『滅相もない』と返しておいた。
しばらくは野沢菜収穫人になることになってしまった。
目論んでいた信州百名山は少し先延ばしせざるを得ない。
区の役員の仕事も忙しく、保育園の柵作りの仕事も頼まれたが、まだ手付かず。菜園の作業も最低限のことしかできていない。
楽隠居や隠遁生活を夢見ていたこの身に、どうしてこんなに仕事が舞い込むのだろうか。
楽はできないようになっているのだな。
それはnobさんのお人柄なのではないでしょうか!