『堂津岳というのは、全く目立たない山である。それは高妻・乙妻という圧倒的に鮮やかな高峯の隣に位置するためもあるだろうが、里からほとんど見えないということもその原因だろう。~(略)すべて奥深い人跡稀な山の相を示していた。こんな静かな山がまだ人の群がる北アルプスの対面にあるというのは、本当にうれしいことだと思った』
信州百名山の著者清水栄一はこう記した。
その堂津岳がすぐそこにある。
500メートルほどの藪漕ぎの後、ようやく山頂に達した。
時間は7時39分。駐車場を出てから約3時間。
そこはちょっとした広場になっていて、真ん中にひっそりと三角点があった。
ダケカンバの樹に堂津岳の看板が括り付けられていた。
ここからの眺望は申し分なかった。
雲海が次第に形を変え、高く上がり始めた太陽の光の中で、山々はその輪郭をはっきりさせて行った。
僕はその様を酔ったように見つめていた。
山頂、1,927メートルで僕はそこから見えるすべてのものと一体になっていた。
8時には次の東山へ向かうために元来た道を引き返し始めた。
この藪の中に入っていくのだが、様子が分かっている分、帰りの方が楽だ。
藪の中に咲く花。
藪を抜けると、すっかり晴れ上がった高妻・乙妻が見えた。
奥西山を8時57分通過。
9時半には下降点であるT字路まで帰り着いた。
その時、藪の中でガサゴソと大きな音がした。
僕は慌てて手に持った熊鈴を大きな音で鳴らし続けた。
早朝に大きな熊の姿を見ているだけに、熊だと思った。
熊もタケノコを食料にしている。
何とか、向こうへ逃げてくれればいい。だが、音は反対の登山路の方に近づいてくる。
いよいよ、熊と格闘せねばならない時が来た。
だが、不思議と恐怖心はなかった。
この自然の中で、熊が自ら争いにやってくるとは思えなかった。
それでも身構えていると、姿を現したのはタケノコを手にしたおじいさんだった。
少し話をして、東山へ向かって出発した。
多分向こうのとがったところが山ノ鼻なのだろう。
東山はまだその先にある。
振り返ると先ほど登って来た堂津岳が遠くに見えた。
前方から男性の登山者が現れた。
話を聞くと、山ノ鼻から先は藪がすごくて引き返してきたという。
うーむ、こちらもか。覚悟を決める。
稜線をいったん下ってその先を登り返すと山ノ鼻が近い。
高妻・乙妻がすそ野まで見えた。
山ノ鼻の先はまた下りになって、登り返した先のまたその先が東山。
それもずっと深い藪漕ぎの道。
それでも行くしかない。
手前の偽ピーク。
ようやく東山。
東山、1,849メートル。
1時間余りの藪との戦いの末、ようやくたどり着いた。
時計は11時17分を指していた。
ここまで綴ってきたが、写真が多すぎるのか重くてサクサク動かない。
不本意ではありますが、続きはまた明日。
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