しゅぷりったあえこお nano

ブログ版 シュプリッターエコー

猫婆日記 6…猫に驚いた猫のこと

2016-03-06 16:51:00 | 猫の町
 猫のわたしがこんなこと言うの変ですけど、猫という生き物をはじめて見たときは、それはもう、天地がひっくりかえったかと思うほど、心底びっくりしたんです。
 こんな不気味なものがこの世の中にいるのか、と。

 夏になりますと、わが家は入り口のドアをあけて、風を入れることにしてるんです。
 マンションですからドアは廊下に向かって開くんですが、廊下が大きくとった吹き抜けをコの字型に囲むかたちになっていて、ですから風がふんだんに屋上から吹き下りてくるんです。
 入り口には籐で編んだ屏風を立てて、すると風がひゅうひゅうと入ってきて、リビングと居間を横切り、ベランダへ抜けていくんです。
 それで、その屏風の陰がわたしには絶好のお昼寝の場所になるんです。
 真夏でも涼しさを通り越して寒いくらいなんですよ。

 で、その日もそこで気持ちよく昼寝にふけっていたんですが、なにかいつもと違う気配がして、籐の隙間から廊下を覗いてみたんです。
 すると向こうからも黒い大きな目ん玉がこっちを覗きこんでいて、その顔の怖かったことといったら。
 頭にはふたつの耳がツノみたいに立っていて、口がもう耳まで裂けているでしょう。
 毛むくじゃらで、針のようなヒゲが何本も突き出ていて。 
 食い殺すぞ、っていう感じ。
 わたし、飛びあがりざま、もう夢中で二つの部屋を走りぬけてベランダのところまで逃げたんです。

 ところが。青くなってちぢこまっているわたしをしり目に、みよこさんたら、笑うは、笑うは。
 「おまえ、猫のくせして、猫が怖いの」と言っては、また、あはは、あはは、と笑うんです。
 ええっ、と思いましたよ。
 あれが猫?

 わたしはねえ、わたしたち猫族もてっきりみよこさんやサトシさんとおんなじ顔をしてるもんだと思い込んでいたんです。
 わたしは雌だからみよこさんに似てるだろうとそう信じてきたんです。
 だって2LDKの部屋からほとんど出ることなくずっと過ごしてましたから、見るのは人間ばかりでしょう。
 猫も人間も形は同じで、ただ言葉だけが少し違う、とそんなふうに考えていたんです。
 それで平和に暮らしていたんです。

 そこへたまたま外猫の一匹がなにかの拍子に迷い込んで、廊下を渡っていきしなにわたしを見つけたんですね。
 おや、こんなところにも仲間がいる、というわけで。

 
 わたしも、まあ、とんだ深窓の佳人だったわけですねえ。

 でもよく考えたら、毛でたっぷりとおおわれたわたしたち猫の顔のほうが、やっぱり立派に見えますね。
 目や鼻の配置が少しくらいおかしくても、毛のおかげでみんな風格ゆたかに見えますし。
 人間の顔はのっぺりしていて、かわいそうに、醜く生まれついたりすると、もう隠しようもないでしょう。
 神さまは人間にいちばん残酷だったんじゃありません? 

最新の画像もっと見る

コメントを投稿