あたしの名前?
あら、言ってなかったかしら、まだ。
ユメ。
夢をゆめみるのあの夢のユメ。
女主人のみよこさんの連れ合いのサトシさんがつけました。
大震災の年の夏に神戸のこの家にもらわれてきたでしょう。
芦屋のお屋敷でどんなふうに呼ばれていたか、はっきりとはもう思い出すことができません。
ダリアとか、ヒマワリとか、ボタンとか、そんな名だったかもしれません。
愛護協会のお姉さんの車でガレキの町をノロノロ走って、この家にやってきました。
もうその日のうちにサトシさんがユメとつけてくれました。
どうしてユメに? と訊ねられると、ヒトシさんはいつもこんなふうに答えています。
街はもうすっかり壊滅状態でしたので、そのまっただなかで復活を夢みながら、と。
きれいな答えなのは確かです。
訊ねたひともそれですんなり納得します。
でも、きれいなだけ、たぶんいくらかの嘘も混じっているのです。
ほんとうは何も考えずにつけたんだと思います。
ふっと思いついたことを、そのまますっとつけたんです。
まちがいなくそんな雰囲気だったのです。
「ユメにしよう」とサトシさんが言って、「いいわね」とみよこさんがすぐ乗って、それであっさり決まりました。
震災からの復活を夢みてというのは、そのときの空気から言うと、あとからの理由づけだったと思います。
でも、まあ、ふっと思いついたということが、逆にこの名前の深さを語っているのかもしれません。
街全体に絶望の空気が漂っていて、それでひとびとの心の底にそこから脱出したいという強い希望が生まれていたのは確かです。
絶望の街というのは、大きな希望の街でもあったのです。
だって最も大きな絶望の時って、最も大きな希望の時でもあるでしょう?
生き物であればこれはみんなそうなんじゃないかしら。
底に生まれたその希望がサトシさんの心にもふっと浮かんできたんです。
だとすると、とっても深いところから昇ってきた名前だとも言えるでしょう、これ。
すっと軽く出てきたことが、実は考えに考えたものよりもずっと重いことだったってこと、それはよくあることでしょうし。
いずれにしても、あたし、まあ、気に入ってます、この名前。
よろしくね。
あら、言ってなかったかしら、まだ。
ユメ。
夢をゆめみるのあの夢のユメ。
女主人のみよこさんの連れ合いのサトシさんがつけました。
大震災の年の夏に神戸のこの家にもらわれてきたでしょう。
芦屋のお屋敷でどんなふうに呼ばれていたか、はっきりとはもう思い出すことができません。
ダリアとか、ヒマワリとか、ボタンとか、そんな名だったかもしれません。
愛護協会のお姉さんの車でガレキの町をノロノロ走って、この家にやってきました。
もうその日のうちにサトシさんがユメとつけてくれました。
どうしてユメに? と訊ねられると、ヒトシさんはいつもこんなふうに答えています。
街はもうすっかり壊滅状態でしたので、そのまっただなかで復活を夢みながら、と。
きれいな答えなのは確かです。
訊ねたひともそれですんなり納得します。
でも、きれいなだけ、たぶんいくらかの嘘も混じっているのです。
ほんとうは何も考えずにつけたんだと思います。
ふっと思いついたことを、そのまますっとつけたんです。
まちがいなくそんな雰囲気だったのです。
「ユメにしよう」とサトシさんが言って、「いいわね」とみよこさんがすぐ乗って、それであっさり決まりました。
震災からの復活を夢みてというのは、そのときの空気から言うと、あとからの理由づけだったと思います。
でも、まあ、ふっと思いついたということが、逆にこの名前の深さを語っているのかもしれません。
街全体に絶望の空気が漂っていて、それでひとびとの心の底にそこから脱出したいという強い希望が生まれていたのは確かです。
絶望の街というのは、大きな希望の街でもあったのです。
だって最も大きな絶望の時って、最も大きな希望の時でもあるでしょう?
生き物であればこれはみんなそうなんじゃないかしら。
底に生まれたその希望がサトシさんの心にもふっと浮かんできたんです。
だとすると、とっても深いところから昇ってきた名前だとも言えるでしょう、これ。
すっと軽く出てきたことが、実は考えに考えたものよりもずっと重いことだったってこと、それはよくあることでしょうし。
いずれにしても、あたし、まあ、気に入ってます、この名前。
よろしくね。
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