先日、バングラデユシュ人の知人が日本にはすばらしい秘薬があると話してくれた。「征露丸」のことである。100年以上も前からある日本の家庭の常備薬である。この効能がスバラシイと絶賛していた。名前からして「日露戦争」の時代の薬だ。この事を話すと更に驚いていた。「これほどの秘薬は自国にはない」と言っていた。この話を知人のトルコ人にしたところ彼も同意見であり「この薬は魔法の秘薬であり、日本人が世界で活躍できるのは、こう言う薬まで開発しているからだ」と話してくれた。
日露戦争当時の日本人は事に当たるに、準備をチャンとしていたということである。結果散々であった八甲田山死の行軍も日露戦争の準備であった。帝国日本陸軍工兵隊の父と言われた子爵上原元帥の孫に当たられる方から元帥のお話を聞くに、ものすごく準備万端であったそうだ。「この草は食べられる。この草は薬になる」など自然にも造詣が深かったそうだ。翻って太平洋戦争中の将官や参謀はどうであろうか?彼らの視野は机上にしかなく現場にはなかった。故に「地図上では数センチメートルをなぜ走破できぬ」と密林の行軍の困難さえ理解できなかった。上原元帥のように食べられる密林の植物に詳しければ、多くの兵が飢えに苦しむことも回避できたであろう。そもそも大陸の寒冷地で訓練しかしてない軍を南方の密林に送り込むとは正に机上の発想しかなかったということである。
そのことを元大本営参謀の情報課長であったわが社の相談役に尋ねたことがあった。「マレー半島からシンガポールまで1週間足らずで攻略した後では、『何を理屈を言っている』と誰も過去の成功例に浮かれてまともに物事を検討する『空気』は無かった」そうだ。その後インパール死の行軍は「白骨街道」などと歴史に悪名を残す。彼はこの時の現地の参謀であり、「幾ら意見具申しても慎重論を受け入れる『空気』ではなかった」と話していただいた。
ここで注意すべきは「理屈を言うな」や「空気」と言う言葉である。昨今の部活動の行き過ぎた指導は、科学的でなくそれを指摘すると良く「理屈を言うな」と返答している。戦争に負けた原因を追究しないため未だにこのような事を口にする大人(指導者)が多数いる。そして科学的裏付けの指導をするフランス柔道界に日本柔道会はなかなか勝てなくなってきた。
水交会(旧海軍のOB会)で戦後、「なぜ特攻隊にだれも反対できなかったのか」の自問に、「空気」なる存在が強調された。「仲良く集団で自殺するハーメルンの笛で海に飛び込む鼠ではないか」との声が上がる。組織に異質の人間を排除することの危険性を示唆する。
「準備不足」「論理性の欠如」「反対意見も言えない集団の空気」これらが、敗北の要素である。