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フライト・プラン

2006-02-20 02:30:56 | 映評 2006~2008
ジョディは大勢の前で、乗客の一人を誘拐犯かつハイジャック犯だとわめきたてる。その人が「アラブ人」だからというだけの理由である。名誉毀損はモチロンのこと、人種差別である。しかもジョディは一乗客にすぎず捜査の権限だってない。さらに言えば、彼女は、ラストに至っても犯人呼ばわりしたアラブ人男性に対し一言の謝罪も無い。なんて女だ!!!!!!
・・・・・・・・とムカついてはみたものの・・・
私は予告編でショーン・ビーンが「ジョディの訴えを信じず、彼女を狂人扱いする機長の役」と知った時から、彼が誘拐犯に違いない、と思ってずーーっと見ていた。「ショーン・ビーンだから」というだけの理由である。名誉毀損はモチロンのことショーン・ビーン差別であった。とても恥ずかしいことだ。
I'm sorry, Mr. Sean Bean.

ところで犯人役のピーター・サースガートであるが、またこれが退屈そうな眠そうな顔をしているものだからこっちまで眠くなるし、あんな犯罪のプランニングをするにはちょいと知性を感じない顔というか・・・おっとっと、これも見た目で人を判断しています。

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さて、今更言うまでも無いが、映画に限らず物語というものは"省略"と"強調"により成り立つ。ストーリーの矛盾、不明点、納得いかないとこなどを突っ込むのもいいが、そもそも全てを描いてるわけではないので、むしろ描かれなかった部分に何があったのかに思いを馳せてみるのもいい。

映画「フライト・プラン」で犯人で立てたプランは、ものすごく綿密に計画されたもので、限りなくゼロに近いハズの成功率でありながら果敢に挑戦し成功一歩手前までいったその豪胆さを評価すべきである。

この犯罪計画で犯人が前提としているのは、
飛行機の内部構造ににやたら詳しい女がパニクって機内を大混乱に陥れる・・・ように仕向ける
 
 まず前提からして相当有り得ない計画だが、有り得るような計画ではすぐにボロが出てしまうものだ。

 女を暴走させるために犯人が選んだのは、「娘が消える」という状況。
 しかも娘がいるという話自体が彼女の妄想である、と周囲の人に信じ込ませなければならない。

 そこで娘が死亡しているという記録の捏造を行うわけだが、勿論そんな面倒な情報操作を飛行機の離陸後にやれるハズもない。
 離陸前に行っておく必要がある。
 どうやって記録捏造を成功させたのか、映画では全部省略しているから知る由もないが、電子情報やネットワーク、役所や病院の書類管理方法、飛行機からそうした情報を確認する方法・・・などなど犯人は相当高度な専門知識を持っていたのであろう。

 計画は離陸前から既に動いている。記録捏造までやったらもう後戻りはできない。娘を誰にも気づかれずに連れ去る必要がある。それどころか、娘の姿さえ誰にも見せてはならないのだ。
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 娘の目撃者が名乗り出ては計画は失敗だ。従ってジョディ親子は誰よりも早く飛行機に乗り込み、他の客が来る前にさっさと席につき、しかも歩き回ったり他の客に話しかけたりする間も与えず離陸直後に親子そろって熟睡してもらわなければならない
 一体どんなスーパートリックを使ってジョディ親子がそうするよう仕向けたのか、脚本では全部ハショッテいるので知る由もないが、観客のイマジネーションを膨らませる。
 早く飛行機に乗らなきゃという強迫観念を植え付け、親子そろって精神不安定状態にし、連日の睡眠不足な状況をわざと作り、場合によっては離陸直前に何らかの方法で睡眠薬を飲ませるなど・・・全て計算づくなのだ!!!す・・・凄い!!!!
 しかもタクシーが渋滞に巻き込まれたりしてもならない。飛行機に乗り遅れるのは勿論、飛行機に一番乗りできないだけで計画は失敗だ。多分あのタクシー運転手も犯人の仲間で、世界最高クラスのドライビングテクニックを持った運び屋かなんかだったのだろう。
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親子二人そろって熟睡させた上で、娘を堂々と連れ去るが誰も気付かない。ジョディがあれだけ騒げば、誰か一人くらい「ああそういえば女の子を抱えて出て行った人が・・・」とか言い出しかねないのに、誰も名乗り出てこない。
 とにかくこの犯罪計画のポイントは「ジョディの訴えを裏付けるような証言をする人が一人も出てこないこと」である。
 何らかのトリックを使ったに違いないのだ!!!
 もしかして、やかましい子供連れを前列の座席にわざと配置して、ジョディたちが熟睡している後方の座席に意識がいかないようにしたのかもしれない。
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前列のやかましい子供たちがラストの辺りで「僕たち女の子を見たって言ったのに・・・」と発言。
 犯人にとってはかなり危ない状況であった。子供たちがちょろちょろ歩き回ってショーン・ビーン機長に「ねえねえおじちゃん、僕見たよ。女の子見たよ」などと言い出したら計画は失敗である。
 きっと犯人は何らかのトリックを使って、その子たちや両親に暗示をかけたのだ。「席を離れたらガミガミ怒鳴る(怒鳴られる)」と。
 どのようなトリックだったのか、映画では全部省略されているから知る由もないが、犯人は心理学にも精通している上、ターゲット以外の人にもトリックをかけるほどの用意周到さだったのだ。
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フライトアテンダントの選択も犯人にとって重要だ。
客席に案内するアテンダントがしっかり者ではいけない。
「娘さんを見たんだかどうだか正直言ってあやふやで・・・」と自信無げに言うような人を配置するように仕向けなければならない。
自信たっぷりに「断言します。娘さんをご案内しました。5歳くらい、身長は***、髪の色は***、目の色は***」などとアテンダントが機長に報告したら計画は失敗である。
一体どうやって、自信無げなアテンダントに飛行機一番乗りしたジョディの娘に気を止めさせないようにしたのか映画では全部省いているから知る由も無いが、犯人はよほど綿密な計画を立てていたのだろう。
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 さてさて、まんまと娘を連れ去った犯人だが、まだ充分ではない。
 ジョディが「あーあ、全く・・・ま、そのうち戻ってくるわ・・・」などと思って、また眠りだしたり、くつろいだり、雑誌を読んだり映画を観たりされてはいけない。
 彼女が狂ったように飛行機中を機械室や荷物室まで徘徊しなければならない。
 「映画」に関しては「つまらない映画だよ・・・」と犯人自身が語ることでジョディに「映画でも観よう」などと思わせないように心理操作をかけている。そういえば、雑誌がないんだとか誰かが言ってた気もする。
 娘が視界から消えただけでパニックに陥るような心理操作。
 それをいつどこでどのようにかけたのか、脚本では全部省略されているから知る由もないが・・・・・
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 そういえば、死体と棺を確保するためジョディの夫を事故にみせかけ殺害するという、これだけでもかなり難しいことをさらっとやってのけた事も言っておかねばならない。夫殺害の時点ですでにあれだけのことを計画していたのだ。
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・・・・絶対に有り得ない!!!
それだからこそ、凄い犯罪なのだ!!!

あれやこれや犯人に聞きたいことは山ほどあった。クライマックスで犯人は少しだけ種明かしをする。
他の客に気づかれずに娘を連れ出した方法だ。
「誰も他人のことなど興味ないから簡単だった」
それだけかよ!!?!!そんなはずねーだろ!!!
多分あまりに綿密かつ複雑な計画だったので話すのがめんどくさくなったのだろう。
犯人が逮捕され取調べを受ければ明らかになるだろう
しかし!!!しかし!!!ああ・・・
その必要があったとは思えないのだが、ジョディは怒りのあまり犯人を爆殺してしまう!!
直情的にハイジャックまがいのことまでやってしまった彼女なら、あの行動は実際やりかねない。
しかし様々な謎を知る男は火柱と爆煙につつまれ、ラストは娘を抱え威風堂々、ケレン味むんむん溢れるヒロイズムで登場するジョディ。
犯人のトリックも、大衆の面前で犯人呼ばわりしたアラブ人への謝罪も、元夫の遺体がどうなったのかも興味なく、ただひたすらに娘の心配だけをしている、究極の母親像を我々に見せ付ける。
なぜ彼女が現在は飛行機エンジニアリングの会社員ではないのかがわかった気がする。
あとは共犯だったフライトアテンダントの供述で多くの謎が一つでも解明され、かつそれが闇に葬られないことを願うばかりである。
ついでに、少々偏執的に娘を溺愛あるいは過保護、あるいは過度の心配性な気がするジョディ親子。あの親子に将来何もないことを祈る。
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そうは言っても全部人間が計画した事に落ち着けようとした本作は、やはり消化不良というか、残尿感の残る映画となった。
息子が消え、息子がいたという記録も消え、誰も母親の訴えを信じない・・・という非常に似通ったプロットの映画が2005年に公開されていた。その映画は全部を宇宙人かなんかのせいにしていたが、今にして思えば、その方がよほど納得のいく説明であった。意外と名作だったのかもと思った。
その映画のタイトルは記憶からフォーガットンしてるんだけど・・・

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3 コメント

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ショーン・ビーン (kossy)
2006-02-20 12:34:55
彼をキャスティングすることによって確実にミスリーディングできる。筋やトリックでごまかすんじゃなくて、俳優によって混乱させる手法だったかと思います。

彼が悪役になる映画って、ほとんどが最初のほうでわかってしまうものが多いと思っていたので、途中からは安心して見れました・・・
返信する
びっくりフライト新記録 (にら)
2006-02-22 09:09:17
おそらく、犯人はこの計画を過去に何度も挑戦して、その都度「子供が目撃される」「母親が騒がない」「アテンダントが堀ちえみ」「機内上映が『フォーガットン』」等の失敗を繰り返しては、途中で挫折してきたんだと思います。

それが今回、いろいろな好条件が重なったことで、屈辱的な過去を塗り替えて、記録を伸ばしたんじゃないでしょうか。



「記録、それはいつも儚い」



そもそも、カネ目的でこんなスカスカな計画を立てるはずがありません。「こんなスカスカな計画がどこまで上手く行くか」が目的なんです。いわば、最後には必ず海面に落ちることを運命付けられているにも拘らず、記録に挑戦し続ける「鳥人間コンテスト」の出場者みたいなものです。



「次の記録を作るのは、あなたかもしれない」



煙の向こうからジョディが現われるあのシーンに、志生野温夫氏のナレーションが聞こえるのはそのためです。



チャレンジボーイこと轟二郎さんの健闘に盛大な拍手を送りつつ、若い人には意味不明なコメントを書いてしまったことを反省して、TBありがとうございます。
返信する
コメントどうもです (しん)
2006-02-23 00:28:14
>kossyさま

そうですね。私も見事にだまされました。見かけで判断してるのお前じゃねーか!!と監督に笑われた気がしました。

でも、あのショーン・ビーン、シナリオで描いてないところで物語と関係ない殺人をやっていたかもしれません



>にら様

30代前半の私は書いてある内容がほぼパーフェクトに意味明瞭です。

インターネットの書き込みでなければ、あのテーマ曲を聞かせてあげたいところです。

しかし、記録更新したその時が死の瞬間だったとは、そう考えると壮大なヒューマンドラマです。

爆死するときの彼は恐怖ではなく、自己ベスト更新の恍惚を感じていたんですね。

きっとあの共犯のアテンダントは、リポーターかジャッジだったんでしょうね。

記録といえば、ジョディもそうなることを予想していたかのように動きやすい服を着ていたことが気になります。

ひょっとしてヤラセでは・・・という疑惑もわきますが、ヤラセでなく演出なんだ、だって映画だもんと実もふたもない結論に達したところで、コメントありがとうございました。
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