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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

ジャーヘッド

2006-02-18 15:45:03 | 映評 2006~2008
サム・メンデスという監督がよくわからない。
非常に不完全な映画を作る人だ。善悪も正誤もわかってない頭の中もやもや状態をそのまま映像化しているような気がする。
想像力の働く余地が非常に大きく、分析のしがいはあるのかもしれないが、映画自体は大した主張も無い。しかし毎回(といっても3作しか撮ってないけど)カメラがおもしろく、キャスティングも見事にはまってて、そういう表面的な楽しさは確実に提供してくれる。
今回も砂漠の美しい映像に恍惚すら覚える(「アラビアのロレンス」を意識したであろう、陽炎たちのぼる地平線の向こうから人がキャラバン隊が現れるシーンなど)。しかし、ロレンスが砂漠の美しさがロレンスの純粋さを表し、後半戦いが凄惨になってくると美しく撮られなかったような、映像と物語のシンクロが無い。

サム・メンデスは何をしたかったのか?
退屈でマンネリな面白い事も刺激的なことも何も起こらない日常・・・をアメリカンビューティで描いたが、今作では同じ事を湾岸戦争の戦場に拡大する。
戦闘は起こらない。主人公は誰も殺さず、誰にも殺されず、誰も傷つけず、傷つけられず、何もせず無傷で帰還する。
一兵卒にとって、現代戦はただただする事がなく暇で退屈なものだ・・・ということか。
湾岸戦争についても、戦争についても、この映画は何ら新しい知識を提供しない。テレビで観るのと同じ、いつの間にかミサイルは落とされていて、いつの間にか民間人が死んでいて、いつの間にか油田が爆破されていて、時々見方の誤射を受け、運が良ければ爆撃で敵の施設が木っ端みじんになるところを目撃できる。それだけ。
戦争とは怠惰なものなのかもしれない、というそこだけ。

パロディ化され作品に組み込まれる「フルメタル・ジャケット」、基地のシアタールームで「地獄の黙示録」が上映され"ワルキューレの騎行"のシーンをノリノリで観ている兵士、主人公の友人に彼の妻から贈られてくるビデオ「ディア・ハンター」はタイトルが映るとすぐハメ撮り映像に切り替わる。
いずれもベトナム戦争にもの申していた映画だったが、過去の遺物となったそれら(ベトナム戦争自体もひっくるめて)は、茶化されるのみ。(オリバー・ストーンの映画が出てこないのは何故か? ストーンが事あるごとに「ベトナムはまだ終わっていない」とか言うからか? ストーンが麻薬所持で逮捕されたから世間体を気にしているのか? 単にメンデスは彼や彼の映画が嫌いというだけか? )

つば飛ばして戦争反対!!と叫ぼうにも、ブッシュ批判キャンペーンを繰り広げようにも、あるいは逆に独裁者を倒すため闘った兵士たちを讃えようにも、どういう主張をしようにも戦争のことなんか何も知らないから主張のしようがない。そこでインテリな監督は、何の主張も、何の意見も、仮説も推論も正誤も善悪も一切存在しない戦争映画を撮った。
美しい砂漠の映像に心奪われ、それなりに堪能したものの、結局のところ毒にも薬にもならない、砂漠のように不毛な映画であった。

あまりに何もせずに帰ってきた主人公は「僕はまだ砂漠にいる」とか言う。ただただ時間潰ししただけという、ある種の失望感。
死んだ人、負傷し失明した人も足を切断した人もいる、精神を病んだ人もいるだろうに何を贅沢なことで悩んでいるのか?
ただ戦争にスリルを求めているだけなのではないか? それはいいとして、サム・メンデスはそんな主人公を通して何を伝えたかったのか?
主人公が犯罪に走るとかすれば判りやすかった。
何億ドルもかけて、ただ悶々とする奴をいっぱい作っただけ。
二次大戦やベトナムと比較すると、湾岸戦争を肯定し賛美しているともとれる

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2 コメント

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湾岸 (kossy)
2006-02-20 12:28:48
90年の湾岸戦争を肯定する人はアメリカのみならず世界的に多いですよね~

ブッシュ批判は最初のほうの台詞にチラッと出てきたのみで、それほど反戦を謳ってるわけでもない。

アメリカの若者はこの映画を観てどんな風にとらえているのか気になります。
返信する
コメントどうもです (しん)
2006-02-23 00:18:50
>kossyさま

戦争でもなんでも主張しないことが美学と思ってるちょっと変わった監督だと思います。

それに観念の人ですかね

復讐という観念があるから銃撃戦は棒立ちでいい(ロード・トゥ・パーディション)

戦争という観念があれば、戦争シーンはいらない。

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