大好きなマイク・リーの新作を観るため東京まで行ってきた。
ストーリーはなんてことない。起承転結をていねいに追いかけるだけ。だがストーリーなんてものだけでは決して伝えられない面白さが、この映画にはある。
この映画は堕胎がストーリーの骨格となっているけど、堕胎の是非を問う形はとっていない。
監督マイク・リーはそれが良いとか悪いとかはっきり語るわけではない。問題提起とするには、ヴェラの行った堕胎が医学的に問題なかったかどうか? 当時の法律は? 宗教的側面は? など判断の根拠となる情報を何一つ提示しない。
けれどマイク・リーはそんなことよりもっと重要と考えているものを徹底的に撮る。人間たちの行動や反応だ。
ヴェラは優しいおばちゃんで、堕胎も純粋に良かれと思ってやっていたにすぎない。彼女の家族も、堕胎を斡旋する女性も、堕胎を受ける女たちも、警察も、深い哲学や論理に基づいて行動しているわけではなく、彼ら彼女らなりにそれが普通と思うか、せざるを得ない状況に追い込まれて行動する。
アップ中心のカメラと、普通の切り返しによる編集は、立ち位置もしっかり決まっていそうで、それらはもちろん俳優の芝居を見せるためのものだが、その割に写っている人たちは芝居しているように見えない。上手いとか下手とかでなく、熱演・力演・好演、オーバーアクトとかワザトラシイとか、あるいは「うまいなあ・・」とか、そういう芝居に対して抱く感想がわかないくらい、自然なのだ。俳優たちは何が起ころうとも完璧に役になりきってリアクションする。相当長い期間かけて出演者たちをその気にさせていったと思われる。
1940~50年代(くらいと思われる)のロンドンに暮らしていた人たちが、そのまま映画に移植されたような、リアリティと言えばいいのだろうか?リアルすぎて説明台詞がほとんどないので、時代設定や舞台設定が語られず、ストーリーが判りにくいという欠点はある。だが、ストーリーを語るより、人間たちの反応を追いかけることを最優先する・・・という監督の基本姿勢が頑固に貫かれていて好きだ。
堕胎というテーマを社会的、あるいは歴史的なマクロな視点ではなく、それに関わった人間一人一人のミクロな視点で描いていく。(そう考えると、スピルバーグの「宇宙戦争」と方向性は似ている)
堕胎業の発覚に端を発する家族の崩壊をじっくり見せて、その寂しさとか悲しさに胸うたれるのだけど、それ以上に説得力ある人間たちの反応を見せる演技と演出の上手さを堪能でき、いい映画観たなという満足感を味わった。
主役の気さくなおばちゃんヴェラ・ドレイクを演じたイメルダ・スタウントン。演技を演技と思わせない極めて自然な存在。アカデミー賞ノミネートは当然。結局、受賞はヒラリー・スワンクだったし、受賞も納得の熱演だった。けど「演技上手いなあ」と思わせたヒラリーと、「演技に見えない」イメルダおばちゃん、本当に技術的に優れていたのは・・・?
徹底的に人間の行動や表情を追いかけたため、脇役たちもキャラ立ちしている。
・社交的でテキパキとスーツの仕立てをこなす息子。しかし堕胎を行う母を、激しく非難する。
・純粋に金目当てで、ヴェラの人の良さを最大限に利用して受け取った金をほぼ全部自分の懐に入れ、別に悪びれない「斡旋屋」
・ホームパーティの最中に、ヴェラをしょっぴきにくる刑事
みんな(実際にいたらやな人たちだけど)作品世界に溶けこみ、物語の展開にアクセントを与えていた。
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自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
ストーリーはなんてことない。起承転結をていねいに追いかけるだけ。だがストーリーなんてものだけでは決して伝えられない面白さが、この映画にはある。
この映画は堕胎がストーリーの骨格となっているけど、堕胎の是非を問う形はとっていない。
監督マイク・リーはそれが良いとか悪いとかはっきり語るわけではない。問題提起とするには、ヴェラの行った堕胎が医学的に問題なかったかどうか? 当時の法律は? 宗教的側面は? など判断の根拠となる情報を何一つ提示しない。
けれどマイク・リーはそんなことよりもっと重要と考えているものを徹底的に撮る。人間たちの行動や反応だ。
ヴェラは優しいおばちゃんで、堕胎も純粋に良かれと思ってやっていたにすぎない。彼女の家族も、堕胎を斡旋する女性も、堕胎を受ける女たちも、警察も、深い哲学や論理に基づいて行動しているわけではなく、彼ら彼女らなりにそれが普通と思うか、せざるを得ない状況に追い込まれて行動する。
アップ中心のカメラと、普通の切り返しによる編集は、立ち位置もしっかり決まっていそうで、それらはもちろん俳優の芝居を見せるためのものだが、その割に写っている人たちは芝居しているように見えない。上手いとか下手とかでなく、熱演・力演・好演、オーバーアクトとかワザトラシイとか、あるいは「うまいなあ・・」とか、そういう芝居に対して抱く感想がわかないくらい、自然なのだ。俳優たちは何が起ころうとも完璧に役になりきってリアクションする。相当長い期間かけて出演者たちをその気にさせていったと思われる。
1940~50年代(くらいと思われる)のロンドンに暮らしていた人たちが、そのまま映画に移植されたような、リアリティと言えばいいのだろうか?リアルすぎて説明台詞がほとんどないので、時代設定や舞台設定が語られず、ストーリーが判りにくいという欠点はある。だが、ストーリーを語るより、人間たちの反応を追いかけることを最優先する・・・という監督の基本姿勢が頑固に貫かれていて好きだ。
堕胎というテーマを社会的、あるいは歴史的なマクロな視点ではなく、それに関わった人間一人一人のミクロな視点で描いていく。(そう考えると、スピルバーグの「宇宙戦争」と方向性は似ている)
堕胎業の発覚に端を発する家族の崩壊をじっくり見せて、その寂しさとか悲しさに胸うたれるのだけど、それ以上に説得力ある人間たちの反応を見せる演技と演出の上手さを堪能でき、いい映画観たなという満足感を味わった。
主役の気さくなおばちゃんヴェラ・ドレイクを演じたイメルダ・スタウントン。演技を演技と思わせない極めて自然な存在。アカデミー賞ノミネートは当然。結局、受賞はヒラリー・スワンクだったし、受賞も納得の熱演だった。けど「演技上手いなあ」と思わせたヒラリーと、「演技に見えない」イメルダおばちゃん、本当に技術的に優れていたのは・・・?
徹底的に人間の行動や表情を追いかけたため、脇役たちもキャラ立ちしている。
・社交的でテキパキとスーツの仕立てをこなす息子。しかし堕胎を行う母を、激しく非難する。
・純粋に金目当てで、ヴェラの人の良さを最大限に利用して受け取った金をほぼ全部自分の懐に入れ、別に悪びれない「斡旋屋」
・ホームパーティの最中に、ヴェラをしょっぴきにくる刑事
みんな(実際にいたらやな人たちだけど)作品世界に溶けこみ、物語の展開にアクセントを与えていた。
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人間の反応を追いかける・・・。まさにそうですね。
説教臭い映画より、こういう方がいいです。
なんか、後から効いてくる重厚な映画でした
このおばちゃんは素なんじゃないのってくらい。
こういう善悪のつきにくい問題は考えても答えにはたどり着くことはありませんが考えることも大切ですよね。
確かにこの映画は堕胎の是非についてはほとんど語っていないですね。やはり家族の反応を追うことで家族のあり方を問うているように感じました。
こちらからもTBさせていただきました。これからもよろしくおねがいしますね。
記事、とってもおもしろかったしなるほどと思いました。こういう風な見方もあるということが大変参考になりました。
拙い記事ですが、TBさせていただきます。