自主映画制作工房Stud!o Yunfat 改め ALIQOUI film 映評のページ

映画作りの糧とすべく劇場鑑賞作品中心にネタバレ徹底分析
映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

サントラ評「アベンジャーズ・エンドゲーム」アラン・シルベストリ

2019-08-31 12:55:03 | 映画音楽
実は先月アベンジャーズ・エンドゲームのサントラを買って以来、毎日のように聴いている。暇さえあれば聴いている。週末のランニングでも疲れてくじけそうになった私にあと1kmの勇気を絞り出してくれている。
これまでアラン・シルベストリのサントラをこんなに聴き込んだことはなかった。
それは「アベンジャーズ・エンドゲーム」という映画に感動し、曲を聴きながら思い出しているのもあるけれど、映画を離れてなお光り輝く強い音楽性に惹きつけられているからだ。



ハリウッドにはアカデミー賞一回もとってないなんて信じらんなーいって作曲家が結構いて、ダニー・エルフマン(シザーハンズ)にトーマス・ニューマン(ショーシャンクの空に)、ジェームズ・ニュートン・ハワード(シックスセンス)、マーク・アイシャム(クラッシュ)。
ベイジル・ポールドゥリス師匠(ロボコップ)のようについにオスカーフォルダーになる前に逝ってしまわれた方もいる。
そのくせマイケル・ジアッチーノ(カールじいさんの空飛ぶ家)とかスティーブン・プライス(ゼログラビティ)のように大して才能ない奴があっさり取ってしまったりもする。

アラン・シルベストリもまた無冠の巨匠の1人だ。
中学の頃、私が映画館通いをするきっかけになった映画が「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で、その音楽担当がシルベストリだった。もう34年も前の映画だ。
やっぱり今でもアラン・シルベストリの楽曲単位での最高傑作はバック・トゥ・ザ・フューチャーのテーマだ。多分誰でも知ってるあの曲。いまでも聞くだけで過去や未来に飛んでいけそうな気がする映画音楽史上に残る名曲だと思う。

バック・トゥでアカデミーの候補にすらならなかったシルベストリは、やっぱり何を書いてもバック・トゥと比べたら…みたいな感じになって受賞から遠のいたのではないかとすら思う。
シルベストリはアカデミーにノミネートされた回数もその輝かしいキャリアと比べれば驚くほど少なく、私の記憶だと2回かせいぜい3回。
そんな事があっていいものだろうか。

しかし理由は分かんなくもなく、シルベストリはともかくアクション活劇の人なのだ。
ロバート・ゼメキス作品は全部手がけているが、それ以外だと「プレデター」とか「デルタフォース」とか「ボディガード」とか「ハムナプトラ2」とか「特攻野郎Aチームザ・ムービー」とか、いくら傑作とは言っても普通は賞から遠くなる作品ばかりを好んで手がけている節もある。

そして2010年代になってシルベストリのゼメキス作品以外でライフワークと呼べるシリーズが生まれる。そうマーベルシネマティックユニバース(MCU)、いわゆるマーベルコミックスのヒーロー映画だ。
といっても手掛けたのはキャプテンアメリカの一作目と、アベンジャーズと、インフィニティウォーとエンドゲームの4作。思ったより少ない。だが、シリーズの要となる4作品を手掛けたのはやはり強い。
シリーズ締めくくりの2作品に呼ばれたのはやはりアクション映画の巨匠としての実力を買われたからであろう。
いろんな作曲家が様々な楽曲を提供してきたMCUにおいて、作曲家たちもまた映画音楽アベンジャーズであってリーダー格のアラン・シルベストリは、さしずめキャプテンアランといったところだ。
(そう思うと、人間として深く尊敬できるが、正直頭は悪そうなキャプテンアメリカと通じる部分がある気がする…)

だいたいジェリー・ゴールドスミスもジェームズ・ホーナーもポールドゥリス師匠もいない今のハリウッド、ハンス・ジマーはきどった雰囲気音楽しか書かなくなったし、ジョン・ウィリアムズとエンニオ・モリコーネはヨボヨボのおじいちゃんだし、もうバリバリのアクション音楽書ける奴なんてアラン・シルベストリくらいしかいないのである。
ブライアン・タイラーごときがアクション音楽の巨匠につこうなんて10年早いんである。

だからこそスピルバーグもアクションバリバリの「レディプレイヤーワン」ではご高齢のジョン・ウィリアムズには大変だろうとアラン・シルベストリに依頼したのだ。

そんなバック・トゥ以来アクションコメディーに特化する様な作曲活動を続けてきアラン・シルベストリだけが、アクションバカマエストロの称号をジェリー・ゴールドスミスから引き継ぐ資格を持っているのだ。

アクションバカっぷりはアベンジャーズ最終章でも大いに発揮されている。
テーマらしいテーマといえば、エンドクレジットにかかる超名曲「Man on End」と、アイアンマンの◯◯式(自主規制)のシーンにかかったと思しき「Thd Real Hero」(なんていい曲名だ!)くらいだが、その2テーマだけで3時間の長丁場を押し切る強引さは晩年のジェリー・ゴールドスミスさながらではないか。

それでいて音楽は決して単調にはならず、泣かせ。胸熱。ピンチ。怒り。嘆き。逆転。といったヒーローとヴィランたちのあらゆる感情と情景が怒涛のごとく雪崩れ込む。
叙情的にして叙事的な壮大なる音楽の最終決戦となっている。
アベンジャーズ・エンドゲーム はキャプテンアメリカやアイアンマンのヒーローとしての総括だけでなく、アクションバカマエストロ・アラン・シルベストリの半生の総括ともなっている。

アラン、あなたのこれまでの作曲家としての道は何一つ間違っていなかった!
いやデルタフォースとかプレデター2とか間違ったチョイスも無いではなかったが、キャプテンアメリカとアイアンマンが仲違いをするという間違いを乗り越えたように、アランも数々の間違いもまた飲み込んでエンドゲームという1つの到達点に達したのだ。

アカデミー賞やカンヌ狙いの高尚な映画や、深い哲学性とか、社会へのメッセージとかそんな作品への楽曲提供を拒むようにして、格闘、爆発、宇宙、スーパーテクノロジー、地球の危機みたいな作品のためだけに駆け抜けたアランのブレなさ加減はエンドゲームでついに誰も到達し得ない境地に達したように思えた!

これまでアラン・シルベストリの作品単位での最高作は「アビス」か「ボディガード」だと思ってた。しかし今は疑う余地なく「アベンジャーズ・エンドゲーム」だと断言できる。
楽曲単位の最高作はそれはやっぱりバック・トゥ・ザ・フューチャーのテーマは別格ですごいけど、アベンジャーズの「MAN ON END」もそれと並ぶくらいの超名曲だと言って良い。

ああ、お願いだ、アメリカ映画界よ、アラン・シルベストリにアベンジャーズ・エンドゲームでアカデミー賞の栄誉を与えてくれ。この作品はアカデミー作曲賞の歴史に恥じない傑作なんだ。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ALIQOUI Film制作「巻貝たち... | トップ | 巻貝たちの歓喜 松本上映 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画音楽」カテゴリの最新記事