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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

「サトウくん」「白鳥が笑う」「いなべ」(よしもと企画「あなたの街に住みますプロジェクト」の短編映画3作品)

2018-02-02 12:37:29 | 映評 2013~
よしもとクリエイティブ・エージェンシーの「あなたの街に住みますプロジェクト」による地域発信映画3作品を新宿k'sシネマで鑑賞

その街に住みたくなるかと言われると微妙な内容だが、むしろ若手映画作家に自由に撮らせたその企画に乗っかった菰野町、苫小牧市、いなべ市の各自治体の器の大きさに感銘を受けて、映画に理解のある素晴らしい町だな!と思った。

よしもと企画ということで、各作品ともテレビでよく見る人気のお笑い芸人が、主役や脇役でちょこちょこ登場。しかも、みんなふざけずに本気の芝居をしていて、そういう姿も胸を打つ

3作中『サトウくん』と『いなべ』の2作は本当に見る者の心を揺さぶるような力作で必見です。

いか各作品の感想
若干ネタバレ

三重県菰野町映画『サトウくん』
佐々木想監督作品

ちょい役でキングコング西野出演
他の2作と違いヨシモト芸人はメインではなく、添え物程度
主役は少年2人。
贔屓と言われるかもしれないが、短編3作の中では、これが群を抜いて面白かった。
きちんと現代社会に物申しているというか、現代社会および現代日本への批評になっている。
たった15分なのに、台詞も少ないのに、カット割り細かくないのに、映画密度が高い
主人公の「サトウくん」はどうも地球に飛来した宇宙人らしい。
町はかつては「スペース饅頭」なども売り出して宇宙人で潤っていたらしい。しかし何かがあり、サトウくんと両親は収容施設に入れられる。
サトウくんは施設を脱けだして、もう1人の主人公の少年ヒジカタくんに会うためにかつて住んでいた町に来たのだ。
かつてサトウくんを追い出した町の人たちがざわめき出す。

そんなストーリー。
どこか2017年のアキ・カウリスマキ監督「希望のかなた」を彷彿とさせるところがある。(とはいえ制作は「希望のかなた」より1年以上前)
ヨーロッパの難民問題を扱う映画を日本で撮るなら的なSF風刺映画。

ちょっと話はそれるが、「難民問題」とあえて書いたが、問題なのは難民ではない。
難民が来て困るとか、治安が悪くなるとか、仕事を取られるとか、ヨーロッパにおいてそういう事よりももっと問題なのが、難民の増加による、極右の台頭、ナショナリズムの高揚、自国ファーストを唱える勢力が勢いを増したり、排斥運動やヘイトスピーチなどの人権侵害の発生などが問題なのだ。
日本は難民認定が恐ろしく少なく、現政権は世界のそうした問題に目を背けながらアメリカと組んで世界を力で抑えつける仲間になろうとしている。

この映画は宇宙難民を描く事で日本が知らぬ存ぜぬを決め込む難民問題を日本に現出させている。
ラストの人々の声に混じって次第に大きくなる「ニッポン!ニッポン!」の掛け声は紛れもなくこの国への皮肉であり警鐘だ。
サトウくんという名前は言うまでもなく日本人の代表的な苗字であり、サトウくんは日本人になりたかった宇宙人なのだ。しかし日本人は外来者を排除しようとしたのだ。
とは言え映画に出てくる町の人たちは、あからさまな右翼っぽい人たちはいなくて、むしろ気の良さそうなどこにでもいるおっちゃんやおばちゃんたちだ。
監督はこうした単体では「普通」で「無害」で「善良」な人たちが、いざ集団となると、差別をし、排斥する者たちに変貌していくことの恐怖なり批判なりをこの映画で訴えたかったに違いない。
実際監督ご本人が「集団に対する不信感」と舞台挨拶で口にしていた。

舞台挨拶の様子。中央が佐々木監督。

この映画はわかりやすい欠点もある。
絶対に風光明媚な風景を想定していたロープウェイや高原のシーン。大雪どころか吹雪と言ってもいい天候での撮影となっている。
外国人の女の子が観光名所の一つの立て札の前で写真撮ってよーと言うところ、写真どころじゃないだろ、早く避難しないと死ぬぞって思うほどの雪模様。絵面が気になって内容が入ってこない。
ロケ地も近鉄沿線の町だから例年なら冬とはいえあそこまで雪が降ることはないのだろう。
多分予算かスケジュールかその両方の理由で、うん10年に一度の大雪にぶち当たってしまっても撮影延期はできなかったのだと思う。

しかし、才能ある映画作家は強運を呼び込む引力を持っている。
地獄のような雪景色で撮影を敢行したことが功を奏し、その後のシーン、この映画のクライマックスと言えるお風呂のシーンがとてもとても暖かく感じられるのだ。
大雪は計算外だったろうけど、その後のお風呂の暖かさもまた計算外。
計算外こそ、実写映画を作る魅力で、いい監督ほど、計算外が結果として良い方向に行くものだ。

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北海道苫小牧市映画『白鳥が笑う』
奥山大史監督
FUJIWARAの原西主演

途中で、白鳥のくる沼のすぐ上空を飛行機が飛び、ジェットの轟音が轟くところ。苫小牧は千歳に近く、東京に向かう飛行機が頻繁に飛ぶコースだと思うので、そのようなシーン設定はリアリテイある、と思った。
二つの欠落した家族の話。ある家族の息子と、別のある家族のお父さんの話。苫小牧のご当地キャラらしき「とまチョップ」の着ぐるみを着るお父さん(原西)、担任の先生(?)と彼の関係を知った少年のかっとなった行動が、父と娘失われた時間を埋めるつかの間を呼ぶ
面白いけど、詩的な雰囲気を出そうとしてか、本筋と関係のない場面が長く無駄カットが多い感じ。
ポットのお茶かスープかなんかを飲むカットが長い
とまチョップが小屋から出て来てフレームアウトするまでが長い
とまチョップの去るカットが長い
エンドクレジットも長い
そうした無駄に尺を使うシーンがある一方で、「先生」に対する生徒の想いの描写不足で、少年の行動がイマイチ理解できない。
ついでにクライマックスの音楽が安っちい感動曲でむしろ興ざめ。

「サトウくん」と続けて上映されたために、映画の密度の薄さが際立ってしまった気がする。
「サトウくん」も語りの少ない映画だったが、あちらは本来語るべきことがたくさんあるのに、それを空気としてまとわせるだけでスルーしていく。それにより、語られない重さを映像に刻んだ。
「白鳥が飛んだ」の場合は単に語るべき要素がないから語らないだけ。
子供達がいい顔してるから
林を歩くとまチョップの画がいいから
原西さんと子供たちが遊ぶ画がいいから
せいぜいその程度の理由で長々と撮っているに過ぎず、早い話が編集が下手で、そもそもホンが薄いのだ。
いい画といい演技だけでは、いい映画はできない。
原西さんや主人公の少年など演技はみんな素晴らしい!

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三重県いなべ市映画『いなべ』
深田晃司監督作品。

ハイキングウォーキングの松田主演。彼の芝居がものすごくいい。
物語としても素晴らしく、語られる死生観も深く美しい。
内容としては先が読める感は否めないが、それでも、予想通りの展開にも関わらず、いざそれが明かされた時の感動。
おそらく、抑制された様々な演技、ポツリポツリ語られる姉弟の過去、随所に散りばめられた「命」と「死」のメタファーが、溜まりに溜まった色んなものが一気にけれど静かに解放され、パタパタとモヤモヤしていたものが明確になっていくから、だと思う
「雨月物語」の感動に近い(なんて言うとほぼネタバラシか)が、ある意味で極上のミステリーだ。
流石の巧さだった。

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新宿での上映は本日まで
みなさんぜひ!


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