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この道は母へとつづく [監督:アンドレイ・クラフチューク]

2008-01-28 01:32:34 | 映評 2006~2008
個人的評価:■■■■□□ (最高:■■■■■■、最低:■□□□□□)

山田洋次型作劇法(「家族」「黄色いハンカチ」「学校2 & 4」参照)で物語を再構築したら傑作になる・・・

2006年度、アカデミー外国語映画賞にエントリーして「フラガール」ともども選考落ちしたロシア代表作品。
この種の映画はツカミで美しい絵を見せれるかどうかが重要だが、果たし、てこの作品のツカミは上々。

車がエンストで止まる。眼前には広大なロシアの荒野。
曇り空。うっすら霧。緑の草や黄色や赤の花々は見当たらず、見渡す限り灰色の荒野。
生命の気配のない死の台地。
しかし美しい。映画撮りたい人がこんなところにカメラ持って通りかかったら、ゾクゾクするような興奮を抱きながら、ひたすら風景を写してしまうだろう。
こんなところで何が起こるのか・・・と思うと、林の中から、ぞろぞろと出てくる子供達。
死の荒野に現れた小さな命の群れ。
むろん、生命感のない荒野は子供達が幸せでないことを容易に想起させる。

全体的に沈んだトーンの映像で物語は進む。
生気のない映像と、母に会うんだ!!という少年の強い意志のぶつかりあい、つまり映像と物語の戦いが感じられて面白い。

だが、物語の前半は悪くはないが、話が中々動かず、観てるこちらにはエモーショナルな興奮が湧いてこない。キャラクタの描き分けなどは見事だが、物語が停滞している。
ようやく後半になって、少年は施設を脱走し母を探す旅に出発する。
少年を捕まえ連れ戻そうとする施設の管理者。マダムとその部下で愛人の男。マダムはいかにもブルジョアな身なり。エイゼンシュテインの「10月」で悪しきブルジョアを象徴する労働者が死ぬのをケラケラ笑って観ているマダムを思い出した。
話がそれたが、逃げる少年と追う施設の人間。スリリングな道中に、さらに少年を襲う様々なアクシデント。施設から連れ出してくれたお姉ちゃんとはぐれ、街の不良にカツアゲされて金はともかく大事な書類(少年が前にいた施設の書類)も一緒に奪われそうになったり
いわゆるロードムービー形式となる後半は急に面白くなる。
山田洋次なら、まず少年が施設を抜け出し母を捜す旅を始めるところから描き出し、旅の合間に回想シーンで、施設での色々な出来事や人物紹介をしていっただろう。
とにもかくにもまず物語を発車させてから後追いで説明をする山田洋次と、時制どおりに、説明→旅と話を進めるアンドレイ・クラフチューク。やっば山田洋次の語り口の方が映画的だと思う。

終盤、少年がマダムの愛人に見つかり追いつめられ、ビール瓶で自分の手首を切って喚く。
愛人は少年の手当をしてやり、2人で腰掛けて話し合う。最近のハリウッドではめっきり見られなくなった煙草を深ーく吸い込む愛人。
2人の間の緊張感はほぐれ、互いを認め合った男同士の信頼感と安心感が漂う。
ちょっと吹き出しそうになるが、こういう描写には弱い。
女に苦労させられてきた男同士の共感だろうか。
マダムに頭の上がらない愛人が、無駄と知りつつそれでも母に会うという少年の強い信念に感動したのか
母より、性の対象の女より、男は血を流してぶつかりあった敵と絆を育むのである。
死ぬ様な思いで生んだ子供を捨てる母。長年育てた子供を金のため西側の金持ちに譲る施設のマダム。
少年は愛より友情と思ってこれから先の新たな人生を生きて行くのかもしれない。
・・・という感想は作者の意図とは違うと思うのだけど、「認め合った2人の男」があまりに印象深かったのでついそんなことを思ってしまったのである。

総合的にはいい映画だったが、山田洋次がリメイクしたらもっと面白くなるだろなあ・・・

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2 コメント

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おはようございます (sakurai)
2008-02-14 08:09:39
あのいかにもロシアっぽい色使いに引き込まれました。
いまどきのロシアがよく見えて、興味深かったですわ。
自虐的なのがいいわあ。
前半のもたもた感もそれなりに監督の性格みたいなのが見えて、こいつきっと、すんげえ細かい男なんだろうなあ、と思って見てましたです。
なんつっても母として、あの子供っす。あいつは反則ですわ。うますぎる。
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コメントどうもです (しん)
2008-02-17 00:47:06
>sakuraiさま

でもああいう子もつと、家出してホントの母を探す冒険旅行に行きそうで、苦労しますよ~

私もロシアの原野で映画撮りたいっす。
ロシアで映画撮った黒澤明の気持ちがわかる気がします。
あんな風景眼前に広がっていたらゾクゾクしますわあ
返信する

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