野沢尚の遺稿シナリオだからヨイショするわけではないが、シナリオ構成は素晴らしかった。
執拗なまでにたっぷりと時間を割いて描かれる、冒頭の東京までの4時間のドライブ。主人公の女の子にとって、それは妙に強烈な印象となって脳裏に焼きつき、時々発作的にその4時間がプレイバックされる。ドライブの最中のどうでもよさげな些細な出来事が後々になって微妙にアレンジされて繰り返され、主人公の怒りと善意の葛藤を表現し緊迫感を高める。
一家惨殺事件で難を逃れ生き残った女の子は、その惨殺犯で死刑確定した男の娘に、最初は好奇心から近づき、やがて憎悪に燃え殺人計画を遂行させようと誘導していく。悲惨な事件の生き残りという情報しかない前半は、同情、哀れみ、あるいは諦めの気持ちで被害者の娘の行動を見守るよう観客に仕向ける。
しかし女の子たちの物語と同時進行で父親たちの物語が語られていく。そして一家惨殺事件の背景が次第に明らかになっていくにつれ、主人公の女の子に対する感情も変化させられる。
あの悲惨な事件は、平和で善良な家族がとち狂った殺人鬼に皆殺しにされた、という単純な図式の事件ではないことが明らかになると、感情移入の対象が次第に加害者の娘へと移る。被害者と加害者の逆転を見せつけ、ワイドショーネタになりそうなセンセーショナルな事件の奥深さを見せつける。
いよいよ殺人遂行となった時、同時進行していた父親たちのストーリーも佳境に入る。すなわち一家惨殺事件のシーンに移る。親たちの過ちと、娘たちの犯罪が同時進行しクライマックスの緊迫感は単純に倍になる。憎悪が暴力を呼び、暴力が次の憎悪を呼ぶ、暴力と憎悪の連鎖。それは世代をも超えて連鎖していく。
しかし脚本家は人間の善意を信じている。未来ある若い世代に希望を抱いている。父親たちの過ちを繰り返すことなく、彼女たちは理性と勇気をもって憎悪を断ち切る。ラストの女の子二人のキスは、少々、やり過ぎだったかもしれんが、憎しみ合いをやめて、お互いを許し合い信じ合おうとする2人の成長を祝福する。人間賛歌で締めくくる。
素晴らしいストーリーだったと思うし、構成も見事だった。
俳優について言えば、内山理名と水川あさみは可愛いけど、特別素晴らしい演技ってわけではない。それよりも2人の父親、緒形直人と小日向文世の芝居が素晴らしく、特に緒形直人は正直今までそんないい役者とは思っていなかったけど、今作では「鬼気迫る」という表現のぴったりくる表情を見せる。
そんな感じでシナリオはいいし、俳優も頑張っているし、いい映画になる条件はほぼ揃っていたにも関わらず、この映画は二時間サスペンスに毛が生えた程度の完成度という印象が強い。
テレビ規模のスケールの企画でテレビ感覚で演出しているからだ。
スケジュール重視。さっさと撮って、はい次のシーン、という雰囲気がみなぎっている。
面倒くさいから1~2カットで済ますようなシーンも多く、主役の女の子から不安、恐怖、憎悪といったエモーショナルな要素を汲み取ろうという意思が感じられない。だから女の子2人の演技はたいした事ないなどという感想を抱かせるのだ。
緒形直人がせっかくギリギリまで追いつめられた表情をしているというのに、彼が復讐のため小日向文世の家を破壊するシーンの拍子抜けするほどチマチマした壊し方はなんだろう。惨殺シーンの手抜きは何だろう。家が廃墟に変わり果てるくらい怒り狂ってほしかった。せめて「血と骨」くらいバキバキにセットをぶち壊してくれれば、緒形直人の表情との相乗効果で衝撃的なシーンとなったろうに。
そのくせ、都会が水没するイメージシーンとか、ポストプロダクションで済む部分には凝ってみたりする。そんな無くてもいい特撮なんかより追いつめられた人間たちの心の奥底からの叫びが聞きたいんだよ。
ま、あまり大ヒットが狙えるストーリーではないから、あの程度の規模での映画化が限界だったのかもしれんが、シナリオが良かっただけにかなり残念な映画である。
演出で一つ褒めるとしたら、効果音の使い方か。やたら音が大きい。不安に襲われ口数が少なくなった時、普段は意識しない小さな音が、妙に大きく聞こえるものだ。時計の秒針の音とか、車のウィンカーのカチカチって音とか・・・
この効果音の使い方は、珍しいわけではないけど、ちょっと勉強になった。
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自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
執拗なまでにたっぷりと時間を割いて描かれる、冒頭の東京までの4時間のドライブ。主人公の女の子にとって、それは妙に強烈な印象となって脳裏に焼きつき、時々発作的にその4時間がプレイバックされる。ドライブの最中のどうでもよさげな些細な出来事が後々になって微妙にアレンジされて繰り返され、主人公の怒りと善意の葛藤を表現し緊迫感を高める。
一家惨殺事件で難を逃れ生き残った女の子は、その惨殺犯で死刑確定した男の娘に、最初は好奇心から近づき、やがて憎悪に燃え殺人計画を遂行させようと誘導していく。悲惨な事件の生き残りという情報しかない前半は、同情、哀れみ、あるいは諦めの気持ちで被害者の娘の行動を見守るよう観客に仕向ける。
しかし女の子たちの物語と同時進行で父親たちの物語が語られていく。そして一家惨殺事件の背景が次第に明らかになっていくにつれ、主人公の女の子に対する感情も変化させられる。
あの悲惨な事件は、平和で善良な家族がとち狂った殺人鬼に皆殺しにされた、という単純な図式の事件ではないことが明らかになると、感情移入の対象が次第に加害者の娘へと移る。被害者と加害者の逆転を見せつけ、ワイドショーネタになりそうなセンセーショナルな事件の奥深さを見せつける。
いよいよ殺人遂行となった時、同時進行していた父親たちのストーリーも佳境に入る。すなわち一家惨殺事件のシーンに移る。親たちの過ちと、娘たちの犯罪が同時進行しクライマックスの緊迫感は単純に倍になる。憎悪が暴力を呼び、暴力が次の憎悪を呼ぶ、暴力と憎悪の連鎖。それは世代をも超えて連鎖していく。
しかし脚本家は人間の善意を信じている。未来ある若い世代に希望を抱いている。父親たちの過ちを繰り返すことなく、彼女たちは理性と勇気をもって憎悪を断ち切る。ラストの女の子二人のキスは、少々、やり過ぎだったかもしれんが、憎しみ合いをやめて、お互いを許し合い信じ合おうとする2人の成長を祝福する。人間賛歌で締めくくる。
素晴らしいストーリーだったと思うし、構成も見事だった。
俳優について言えば、内山理名と水川あさみは可愛いけど、特別素晴らしい演技ってわけではない。それよりも2人の父親、緒形直人と小日向文世の芝居が素晴らしく、特に緒形直人は正直今までそんないい役者とは思っていなかったけど、今作では「鬼気迫る」という表現のぴったりくる表情を見せる。
そんな感じでシナリオはいいし、俳優も頑張っているし、いい映画になる条件はほぼ揃っていたにも関わらず、この映画は二時間サスペンスに毛が生えた程度の完成度という印象が強い。
テレビ規模のスケールの企画でテレビ感覚で演出しているからだ。
スケジュール重視。さっさと撮って、はい次のシーン、という雰囲気がみなぎっている。
面倒くさいから1~2カットで済ますようなシーンも多く、主役の女の子から不安、恐怖、憎悪といったエモーショナルな要素を汲み取ろうという意思が感じられない。だから女の子2人の演技はたいした事ないなどという感想を抱かせるのだ。
緒形直人がせっかくギリギリまで追いつめられた表情をしているというのに、彼が復讐のため小日向文世の家を破壊するシーンの拍子抜けするほどチマチマした壊し方はなんだろう。惨殺シーンの手抜きは何だろう。家が廃墟に変わり果てるくらい怒り狂ってほしかった。せめて「血と骨」くらいバキバキにセットをぶち壊してくれれば、緒形直人の表情との相乗効果で衝撃的なシーンとなったろうに。
そのくせ、都会が水没するイメージシーンとか、ポストプロダクションで済む部分には凝ってみたりする。そんな無くてもいい特撮なんかより追いつめられた人間たちの心の奥底からの叫びが聞きたいんだよ。
ま、あまり大ヒットが狙えるストーリーではないから、あの程度の規模での映画化が限界だったのかもしれんが、シナリオが良かっただけにかなり残念な映画である。
演出で一つ褒めるとしたら、効果音の使い方か。やたら音が大きい。不安に襲われ口数が少なくなった時、普段は意識しない小さな音が、妙に大きく聞こえるものだ。時計の秒針の音とか、車のウィンカーのカチカチって音とか・・・
この効果音の使い方は、珍しいわけではないけど、ちょっと勉強になった。
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言葉もよく知らないため、どう表現したらいいかわからない…ということが、こちらの記事では的を射ています。とても参考になりました。原作は既読で観賞しましたが、キャストのイメージ等も悪くなかったと思います。
すいません。別にプロじゃないです。アマです。
キャストのイメージはたしかに良かったです。女優をもっといじめて、ぎりぎりの表情引き出してほしかったですが
私としては非常にいい作品でした。
話的にも重い話でしたが、暗くなりすぎたり残酷になったりせずに丁度良かったです。
大嫌いな内山理名が良く見えてしまうぐらいよかったです。
ただ、小学校時代の堀北真希の方が可愛かったです。
この時の内山理名はよかったですね。
「大奥」でえらくブスメイクしてるなあと思いましたが、メイクじゃなさそう・・・