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映像作品とクラシック音楽 第66回 もう一度『2001年宇宙の旅』~ハチャトゥリアンの「ガイーヌのアダージョ」~

2022-08-11 16:46:00 | 映像作品とクラシック音楽
お久しぶりです
クラシック音楽と映像作品シリーズ、前回投稿から1ヶ月も経ってしまいました。
じつはその間に新しい住人として猫2匹が加わりまして、まあドタバタしていたわけです。

久しぶりの投稿は、このシリーズの第一回で書いた『2001年宇宙の旅』についての2回目の投稿となります。
前回は、主にアレックス・ノースの幻のオリジナルスコアについて書きました。
また2001と言えば、ツァラやドナウが有名なわけですが、それらについての投稿でもありません。
映画の第三章の冒頭部にかかるハチャトゥリアン作曲のバレエ「ガイーヌ」より「ガイーヌのアダージョ」についてです。

ガイーヌのかかるシーンとそこまでの展開をざっくり紹介しますと

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まず壮大なツァラの冒頭部がかかってタイトル
猿たちがうっきうっきと水場の取り合いをしていると、あるグループの猿たちの前に長方形の石板が出現
なんか知らんけどその石板に触れた猿はちょっと賢くなって、死んだ動物の大腿骨が敵をぶちのめすのに丁度いいことに気づき、その骨で武装した猿の一団が、まだ知恵のついてない猿どもを撃退。
勝利に喜びウッキーと骨を空に投げ上げ、その投げ上げられた骨を写すカットが、ぷいっと宇宙船の映像に切り替わるという、映画史上もっとも大胆なジャンプカットを決めて、物語は第二章へ。

フロイド博士の乗るスペースシャトルは、ドナウの調べにのって優雅に宇宙ステーションにドッキング。
フロイド博士は2001年ともなれば電話もこれくらい進化しているだろうと考えられた巨大ビジョン付きテレビ電話で娘と会話したのち、月の地下から掘り返された謎の長方形の石板を視察に行く。
スタッフと一緒にTikToKにアップでもしようとしたのかみんなで石板前でにっこりポーズして記念撮影しようとすると、ピィィィィィと耳をつんざく音波が鳴って(真空の月面だから多分宇宙服のスピーカーから鳴りだしたのだと思いますが)

で、第三章「JUPITER MISSION」
月の事件から18ヶ月後の字幕とともに、ガイーヌのアダージョが厳かに奏でられます。
ディスカバリー号が手前から奥へとゆっくりと移動していくショットに、その映像上でのディスカバリー号の移動スピードと一致するようにゆっくりとアダージョが奏でられます
ちなみに映像ではゆーーっくり飛行するように見えるディスカバリーですが、18ヶ月で地球から木星まで移動したとすると、ほぼボイジャーと同じスピードということになり、だとすると時速6万キロというとんでもないスピードだったわけです。
映像はディスカバリーの船内に切り替わり、球形の船体内に作られた円環状のオペレーションルーム(回転で生じる遠心力を人口重力として利用)を、運動不足解消というか体力維持のためにランニングしているフランク・プール副長を写します。
ここもキューブリックの大好きな移動撮影(といっても動いているのは円形のセットで役者は回転に合わせてその場で足踏み、てことはカメラも止まっっているわけで、厳密には移動撮影とはいえません)で、無人のルームをひたすら走る彼を背後から、あるいは正面からとらえます。
船内は恐ろしく清潔で、3人ほど冷凍睡眠装置で眠っているミイラのような棺のようなものが見えます。
18ヶ月、とくにやることもないので、走って退屈しのぎをしているのでしょう。

この、生活感どころか生命感もないような、怖いくらいに整然としひっそりとしたディスカバリー船内の描写に、ガイーヌのアダージョがとてもマッチしています。
このシーンを見るたびに言いようのない悲しみみたいな気持ちが沸き上がってきます。個人的にはドナウよりも心に刺さる音楽の使い方でした。

第一回の投稿でも書きましたが、ここで使われている音源はロジェストヴェンスキー指揮レニングラードフィルの演奏のものです。

ガイーヌのアダージョ使用シーン(YouTubeより)


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ハチャトゥリアンさんは2001年公開当時(1968)は存命でした。
バレエ「ガイーヌ」ロシア語読みだと「ガヤネー」は1939年の作品(初演は1942年)で、ストーリーを読むと、めちゃくちゃつまらなさそうな典型的共産主義プロパガンダっぽい内容です。

---Wikipediaより引用---
コルホーズの会長であるオヴァネスの娘である主人公ガイーヌは、地質学的な秘密を発見しようとしてソビエト軍の領地に密かに侵入しようとする不審者を捕らえる手伝いをしている。そんな中、情愛あるガイーヌは友人である若きアルメンの手伝いにやってくる。アルメンのライバルであるギコは心ならずも敵の手伝いに人生を費やす。しかし最後にはすべてが丸く収まり、バレエのフィナーレは人々の友情と、ソビエト連邦の国々を祝福して終わる。
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ああそうですかよかったですねって感じの物語ですが、まあ私はこれのバレエ版は観たり聴いたりしたことありません。
むしろバレエとしてより、組曲化され純音楽作品としての方が有名だと思います。
中でも「剣の舞」は、誰でも知ってるクラシックトップ10に入るであろう超有名曲ですね。
けれどもその中でも当時はっていうか今でも結構マイナーなガイーヌのアダージョを使うあたり、キューブリック監督のクラシック音楽・現代音楽への造詣の深さがうかがえます。

私は剣の舞より2001年で使われたアダージョ目当てで、組曲「ガイーヌ」の入ったCDを買いました。
ロジェストヴェンスキー版は見つけられなかったので、色々さがしてハチャトゥリアン自らが指揮したウィーンフィル演奏のアルバムを買いました。
ガイーヌの曲は組曲をさらに抜粋してたったの5曲ですが、まあガイーヌのアダージョだけで十分満足です。
ハチャトゥリアンの代表曲ともされる交響曲2番も素晴らしい曲でした。ソ連の作曲家としてはショスタコ、プロコに比べると地味な印象のハチャさんですが(かつてのスタローン、シュワルツェネッガーに対するチャック・ノリス的な立ち位置・・・って例えがわるいですね)、じっくり聞くほどに味の出る才人であるのは間違いありません。

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余談ながら、これも第7回で書いたことですが、ジェームズ・ホーナーが『エイリアン2』のオープニングシーンおよびエンドクレジットでこのガイーヌのアダージョそっくりな曲を書いていまして、彼なりのソ連系作曲家へのリスペクトを感じます(もしかするとジェームズ・キャメロンが2001年のあのシーンみたいのって注文した結果なのかもしれません。エイリアン2のオープニングも冷凍睡眠のシーンだし・・・)

エイリアン2 メインタイトル曲(1分くらいからガイーヌのアダージョっぽいメロディ)

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ちなみに第一回の投稿内容はこちら
第1回 『2001年宇宙の旅』

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というところで、久しぶりの投稿でした
それではまた、素晴らしい映画とクラシック音楽でお会いしましょう!!


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