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新聞記者 【監督:藤井道人】志の割にそんなに踏み込めてないような…

2019-07-19 00:06:48 | 映評 2013~
「新聞記者」

参院選前に映評にしようと急いでアップ

バリ左翼の私ですが、この映画に関しては正直言うと志は買うけれど、映画的にはやや低め評価

狙いか偶然か参院選直前のタイミングで公開された、現在進行形の官邸&官僚vsジャーナリストを描いた映画。
フィクションに置き換えてはいるが、いくつかの実在の事件、それも真相は藪の中な事件をあからさまに意識した事件が、本筋とは別に描かれ、2019年の日本の政治への不信感が強く描かれている。

安倍晋三への尻尾振りばかりの芸能界。政治や社会を描いた映画などほとんど作られず、カンヌパルムドールの「万引き家族」が反日映画扱いされる異常な日本。
その中でよくぞここまで現在の日本の官僚のあり方を批判的に踏み込んだものだと、まずそこは評価したい。
あるいはこうした映画を作らずにいられないほど、政治不信がつのる安倍一強時代の日本を象徴する事件かもしれない。

しかし、映画の面白さとして考えた時こんなんでいいんだろうかと思うところも多い。



どっかの週刊誌(多分ゲンダイ)がここまで現政権を批判する映画は前代未聞的な紹介をしていたが、いやいや山本薩夫や熊井啓を知らんのか?と言いたい。そうしたかつての日本映画の骨太な社会派映画と比べた弱々しさ、あるいはアメリカの社会派映画、例えばブラッククランズマンとか、バイスとか、ペンタゴンペーパーズとかと比べた時の、誤解を恐れずに言えばエンタメ的完成度と比べると心もとない。

バリバリ左翼の私が言うのもなんだが、左翼界隈の妄想をそのまま描いただけのような脆さ、右翼のちょっとした論客に簡単に論破されそうな危うさを感じるし、サスペンスとしてドラマとして演技やシナリオの妙を堪能する映画的魅力にも乏しく、右翼連中の考えを改めさせるような力は正直言って弱いのでは…と思ってしまう。

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シナリオ的に私が一番不満というか、弱点と感じるのは、内調(内閣調査室)の描き方だ。
やってることはといえば上司の指示に従い一斉にツイッターに書き込むことで、あれならニートのネトウヨの方がいい仕事しそうだ。
松坂桃李は外務省から内調に回されてきた設定で、外務省での失敗のため閑職に回されたと見るべきなのかもしれないが。
その松坂桃李の上司も、左翼にとってある意味理想のゴリ右翼官僚で、「この国の民主主義はこんなもんでいいんだ」とかなり露骨な右翼発言をする。
実際高級官僚がネットでヘイトしまくってたなんてこともあるので、実際にああいう奴もいるのかもしれないが、悪役としてあまりに短絡的すぎないか。
また、内調の独裁者のようなあの男が全て独断で指示しているようにも見えて、安倍晋三がいう「官僚が勝手に忖度してる」という説明を真に受けてるようにも取れる。
安倍晋三がにやけながら「だって証拠はないでしょう」と言って終了する程度の描き方ではないか。

この映画は霞ヶ関が現政権の不利になる情報の隠蔽や改ざんをあの手この手で行い、マスコミに圧力をかけている…のだろう、という前提で物語を組み立てたが、官僚はなぜそんなことをするのか?どんな損得があるのか?実際政府と直接的な癒着はあるのか(映画を観てると無いようにもとれる)?
大きく言えば日本の政治はなぜそんなことになっているのかという、カラクリを明らかにしようという意図が感じられず、作り手自身も「分からない」とサジを投げてるようにも取れる。
そんな霞がかかったようなもやもやこそ今の日本の実態だと言う意図があるのかもしれないが。

では、そうした社会の仕組みを見せようと言う意図は置いといて、単純に映画としての面白さが詰まっているかと言えば、はっきり言うとそこが一番弱い。

サスペンス的な面白さは松坂桃李が極秘ファイルをスマホで写真に撮るシーンくらい。
ドラマ的な盛り上がりも今ひとつ。
タイトルが新聞記者の割に記事を書いてるシーンが少なく、書くシーンも一瞬で新聞社内の活気や、緊張感が感じられない。
そして申し訳ないが、シム・ウンギョンさんのキャスティングは失敗ではないか?
猫背気味でおどおどして付いていきたいタイプではないし、そんな頼りなさげな彼女が国に楯突く意外性…ってんでもない。彼女は最後まで一本調子で心が動いてないように見える。ややたどたどしい日本語のセリフもなんか聞いてて辛い。彼女の他の作品を観たいとは全然思えず、観るなら韓国語で演技する姿の方が良いと思う。
原作の望月衣塑子記者は菅にあからさまに敵視されても怖じけずガンガン攻める凛としたたくましさがあるのだが、まあ望月さんを映画で再現しようとしてるわけじゃないからいいのだけど。
でもこの映画に駆けつけるイソコファンは、官房長官をイライラさせる女性記者の質疑を期待してたと思うけどな〜

比較するとなんだが、スピルバーグの「ペンタゴンペーパーズ」は情報をもらう、裏を取る、記事を書く、書いた記事を印刷する、その全てに隙間なくサスペンスが詰め込まれ、結末がわかっているにもかかわらず手に汗を握ってしまった。
対して「新聞記者」は実話を下敷きにしつつもフィクションであり結末がわからないのに盛り上がらない。

とっくの昔に終わった事件を描くペンタゴンペーパーズと、現在進行形の政権腐敗を描く新聞記者では単純に比較はできないけれど

これほど安倍政権にノーを突きつける題材とサスペンスを両立できるすごい企画だというのに、なんだかもったいない
結局左翼だけで盛り上がって終わる映画になってしまいそうだ。

とは言えこれほどリスキーな企画にも関わらず参加した松坂桃李をはじめとしたキャスト陣と、スタッフの皆様のことは讃えたい。

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藤井監督とは2012年のダマー映画祭でノミネート監督として同じ舞台に立ったのだが、随分と差がついてしまったものだぜ。
色々批判はしたがこんな勝負企画を商業映画で発表したことに対しては賞賛しかない。
なのにスピルバーグ引き合いに出して作品批判するのなんか負け惜しみ感ハンパない気もするけど、まあ一観客として忖度なしで色々書きました。
野党支持者が大半なんだろうけど、大ヒットしているとのことでまずは良かったです


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追記 7/20

昨日サマーウォーズを観てて、イケメンのおじさんがナツキを見て、一瞬戸惑ってから、ナツキか…という場面があって、「#新聞記者」でも似たような場面があったのに松坂桃李に全く戸惑いがなかったのに違和感だったのを思い出した

「#新聞記者」の松坂桃李は何年かぶりかで会った元上司と遅くまで飲んで酔っ払った上司を家に連れて行く。
奥さんと会うのも久しぶりだったようだ。そこに元上司の高校生くらいの娘が現れる。松坂桃李はこともなげに、よぉみたいな挨拶する

「#新聞記者」で何年かぶりで会った時に娘さんが高校生だったのなら前に会った時は中学かもしかすると小学生だったのでは?
一瞬、あれ?誰この子?…と戸惑った後に、えー!○○ちゃん!?
…と演出すべきだったのでは

だが逆に、そうしなかったということは松坂桃李は比較的最近彼女に会っていたという裏設定があったのかもしれない…だとしても、こうして本筋と関係ないところでモヤっとさせるのはやっぱり演出としてうーーん…

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新聞記者
監督 藤井道人
脚本 詩森ろば、高石明彦、藤井道人
音楽 岩代太郎
出演 シム・ウンギョン、松坂桃李
2019年7月5日 ユーロスペースにて鑑賞


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