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女王陛下のお気に入り 【監督:ヨルゴス・ランティモス】

2019-07-14 11:03:30 | 映評 2013~

「ロブスター」日本公開が2016年で、この時劇場では観れなかったが、妻が観てきて、なんかざわついていた。
そしたらその年のアカデミー賞で脚本賞で候補になり、アメリカでもヨルゴス・ランティモスがざわつき始めた
今年になって、友人もまた最近はヨルゴス・ランティモス推しと言っていて、あちこちでざわついている

そうすると今度はアカデミー賞で作品賞監督賞ノミネート。ざわつきが止まらない。

そんなヨルゴス・ランティモスのオスカー候補作「女王陛下のお気に入り」


物語としては、王の寵愛を得ようと対立する2人の女の争奪ゲームで、特別目新しくはない。
巨匠だったころのチャン・イーモウの「紅夢」とか思い出したが、あちらの方がもっと情感があった。
「女王陛下のお気に入り」は同性愛要素を持たせているところに現代性があるのと、クズな男どもを差し置いて女の感情で国家をまわす面白さと、なんといってもキャスティングの魅力が大きい。
とはいえ、ヨルゴスの最高傑作ではないだろうし、彼のこの映画にかける熱量も低く感じる。そのクールさが魅力でもあるが。
英国女王の映画というと、シェイクスピアと同時期のエリザベス女王と近代のビクトリア女王、あと現エリザベス女王が扱われることが多いが、アン女王というわりとマイナーな方を扱って、だから割と好き放題描いちゃうところは面白い。
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アン女王の肖像。なんとなくオリビア・コールマンに似てる

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ロブスターとちがってSFでもファンタジーでもないけれど、悪口でなくリアリティのない女王生活では戦争や政治や法律や税金の方がよほどSFでファンタジーに思える。
増税も、立法も、戦争の政治的決断も、戦略上の決定も、すべて女王の寵愛のためと、女王の気分によって決められる。
王宮とその周りの庭に限定された舞台は、当時の戦時下におけるイギリス国民の生活も、政治的な活気もなにも感じない。
戦争とも生活とも無関係に飾られた落ち着いた室内の中で、政治の話も戦争の話も現実感の全くない、虚構のように響く。
しかし確実に税制を変えたり、戦争を継続したりすることは国民生活に大きな影響を及ぼすのだが、女王始め王宮の人たちはそのような想像力を持たない。いや待たせないようなシステムとして当時の王政による政治システムがあったのかもしれない。

ロブスターは誰もジョークを言わないし、笑わせようともしてないが、明確にギャグ映画だった。人間は本質的にギャグなんだ。
「女王陛下のお気に入り」も同様に、人間の本質的なギャグ性を笑わせずに描いている。

あの不気味な振り付けのダンス。あの時代の歴史考証の上でのことなのかもしれないけど、虫かカニか、あるいはロブスターのように見える。そういえば劇中でロブスターも出てきた。
自作との微妙なリンケージというか、遊び。

キャスティングは非常に素晴らしく、レイチェル・ワイズの実績と実力に裏打ちされた堂々とした佇まいが、ぽっと出の若い野心家エマ・ストーンに揺るがされる構図は、現実の2人の映画界における立ち位置を象徴しているようで面白い。
そんな2人を差し置いて、さらにはオスカーで本命視されていたグレン・クローズをも差し置いて、オスカーを獲得したオリビア・コールマン。
イギリス王室の人間を演じたらオスカーの近道ジンクスの例をまた一つ作ってしまった。しかし一方でこの割と王室ディスり映画で、嫌味なく世間知らずで政治に無関心でしかし自分の権力を認識している女王を演じながら、どこか可愛げを残すところが素晴らしい。


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「女王陛下のお気に入り」
2019年5月31日 ユジク阿佐ヶ谷にて鑑賞
監督・脚本 ヨルゴス・ランティモス
撮影 ロビー・ライアン
出演 オリビア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ

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