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映像作品とクラシック音楽 第70回 「伊福部昭 SF交響ファンタジー第3番」 〜もしかして思想性の強い曲?〜

2022-09-17 08:58:00 | 映像作品とクラシック音楽
前回伊福部昭SF交響ファンタジー第2番を紹介したのに続きまして、今回は第3番の紹介です。こちらも第1番、第2番とともに1983年に初演されました。

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冒頭、不安げなフルートの弱い音から始まり突如として伊福部節とでも言うような大迫力の演奏が割り込んできます。『怪獣総進撃』のオープニング、東宝マークからタイトルの流れの短い曲です。映画だとこの後有名な怪獣総進撃マーチに続くのですが、マーチ部は第1番で散々やったのでここではありません。
オープニングに続けて今度はティンパニがドンドコドンと景気良く、リズミカルに叩かれます。バーバリズムというよりこれはメカニズムと言ってもいい雰囲気で、巨大なメカが動く様を表現した曲です。『キングコングの逆襲』よりメカニコングのテーマです。
メカコングではありません。メカニックコングだと長いのでメカニコングになったのでしょうか?映画では007シリーズのスペクターを彷彿とさせる悪の組織の、その首領ドクター・フー(演じるは仮面ライダー死神博士でお馴染みの天本英世さん)がキングコングを参考にして作った鉱石採掘用ロボットです。終盤東京タワーでキングコングとメカニコングがよじ登りながら戦う場面は、今観てもすごい迫力の名シーンです。

ちなみに『007ドクター・ノー』が1962年で、『キングコングの逆襲』が1967年なので、まあまあ影響されたのかもしれません。

曲の話に戻って、よくよく聞けば主旋律は第1番の中盤を彩った「バラゴンのテーマ」と同じなのですが、リズム一つで全く別の曲にしてしまうところはなかなかの職人ですね。

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さてメカニコングのテーマに続いては、打って変わって心休まるロマンティックナンバー…かと思いきや、なかなかくせものな曲なのですが、やはり『キングコングの逆襲』からキングコングと映画のヒロインであるスーザンとのラブテーマと言いますか、まあコングの片想いなんですが。
しかしこの曲はとても面白いです。
優しいラブバラードの中に全く似つかわしくないティンパニの激しい連打が差し込まれます。キングコングのワイルドさを表現しているわけですが、美女と野獣のラブテーマとは言えこんな表現、1976年版キングコングのジョン・バリーも、2005年版キングコングのジェームズ・ニュートン・ハワードも思いつかなかった、伊福部昭の独創的にして見事なラブテーマとなっていて必聴です。彼の作曲した数々の愛のテーマの中でも群を抜いて秀逸な曲だと思います。

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さて、キングコングの愛のテーマの後は、SF特撮映画ならこう言う曲を聴きたいと思うような、勇壮なる伊福部マーチになります。
はい、「海底軍艦マーチA」となります。別アレンジのマーチBがこの後かかるのですが、それは置いといて…
ちなみにマーチA、マーチBとは言ったものの劇中での使用順はB→Aだったりします。

マーチAは、港湾都市に現れ破壊のかぎりをつくす人類の恐るべき敵ムー帝国の軍艦に、空から翔けつけた海底軍艦轟天号が攻撃を仕掛けるシーンの曲です。ムーのバトルシップにいる工作員の男が「あ!海底軍艦だ!」と言った直後に鳴り始めます。テンション上がるシーンでした。

続けてまた伊福部マーチ、キングコング対ゴジラより「コング輸送作戦」のマーチです。
キングコングを「赤い実」の薬で眠らせた防衛軍が、コングを気球にくくりつけて、ゴジラのもとまで運ぼうという作戦のバックにかかっていた曲です。
この曲も実にカッコいいのですが、後でかかる「地球防衛軍マーチ」と似たメロディもあります。
さらに言うと伊福部昭クラシック好きな方なら「ピアノと管弦楽のためのリトミカ・オスティナータ」のメロディも聴けて楽しめること間違いなしです。

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さて続けての曲はまた『キングコング対ゴジラ』より「大ダコ対キングコング」です。
日本でのキングコングの初対戦相手はゴジラでなく大ダコでした。渋…
本物のタコをミニチュアセットに入れて撮影したものです。キングコングは村を守るため大ダコと戦うのです。
撮影後タコはスタッフが美味しくいただきました…かどうかは知りません。
曲はコングテーマ→接続部→大ダコテーマ→接続部→大ダコテーマという流れになります。ここでのコングのテーマと大ダコのテーマを交互に鳴らすという、この後の伊福部映画音楽における怪獣ライトモティーフ作曲法を初めて確立した曲だったと言えるかもしれません。
にしてもタコのテーマがいいですね。ヌメヌメとのたうつ不気味なやつ感がすごくよく出ていて、タコのテーマのくせに何気に名曲です。

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そして曲は締めくくりの伊福部マーチ2連発へと突入します
まずは海底軍艦マーチBです。
工作員によって破壊された発進ドックをなんとか脱出した海底軍艦轟天号が出撃するシーンの曲です。
田崎潤演じる神宮寺大佐の名セリフ「海底軍艦はムー帝国撃滅のため出撃します」に続けてかかる気持ちの良いアレンジが施された海底軍艦マーチです。
ちょいと補足しますが、なぜ上記のそれだけ聞くとなんてことなく思えるセリフが名セリフなのかと言いますと、物語のそれまでの流れによるものなのです。
神宮寺という男は日本海軍の生き残りで、日本の敗戦を認めず、再び日本を軍事的に世界に冠たる国にするべく海底軍艦を建造したのです。
かつての恩師から世界の危機を救うため海底軍艦の力を貸してほしいと言われても、頑として断るのです。海底軍艦は世界のため(アメリカやソ連など大戦での日本の敵対国も含めた世界のため)ではなく、日本のために作ったのだと。
その彼が、基地を破壊されたり娘を連れ去られたりと私怨もあったにせよ、世界のために戦う決意を示したセリフが前述のものでした。
私は『海底軍艦』は偏屈なナショナリズムの持ち主が、グローバリズムに目覚める物語として高く評価しています。

そして曲は切れ目なく伊福部マーチの傑作「地球防衛軍マーチ」に突入します。
『地球防衛軍』は個人的には本多猪四郎監督作品では『ゴジラ』『マタンゴ』とあわせて三大傑作だと思っています。
地球征服を企てる宇宙人ミステリアンに対して全世界が一つとなって戦うのですが、軍事色はそこまで強くなく、科学者たちがアイデアを出し合って反撃兵器を考案し作っていく様がとても好きです。
この名曲は作品中の随所でかかります。
まずは中盤、ミステリアンのロボ兵器モゲラが村を襲っているところに、自衛隊が到着するところでかかります。避難する人々を誘導しつつ橋に爆薬を仕掛けてモゲラを橋に誘導するのです。で橋が爆破されてモゲラは落下して機能停止。弱…と思いましたが、モゲラはもともと兵器でなくて土木工事用のメカなので仕方ないかもしれません。

それからクライマックス。富士山麓(東宝特撮あるある→富士山麓が決戦の場になりがち)に建設されたミステリアンのドーム基地を取り囲むように、地球防衛軍の攻防一体型兵器マーカライトファープが配置され、ミステリアンの光線を跳ね返しつつ、彼らが熱に弱いことを利用した熱線砲を撃ち込んでいきます。
ここでもモゲラが落とし穴を掘ってマーカライトファープ1台を行動不能にする戦果を上げますが、落ちてきたマーカライトファープに潰されて自らも行動不能に。弱…

ちなみに「地球防衛軍マーチ」のメロディは一部で「コング輸送作戦」のメロディとのかぶりが見られます。
つまり、第3番中盤の「海底軍艦マーチA」と「コング輸送作戦」の流れと、終盤の「海底軍艦マーチB」と「地球防衛軍マーチ」の流れは対になっているというわけです。
そして曲は次第にテンポを上げていき怒涛の迫力となって終わります。
いつ聞いてもスカッとする終盤です。

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さて、ここまで伊福部昭SF交響ファンタジー第3番の解説を書いていて、気づいたことがあります。
それはこの曲が第1番や第2番と違って、なにか思想性というか、一つのテーマを持って選曲されているのではないか?と言うことです。

アメリカ生まれの怪獣ヒーローのキングコング絡みの曲が4曲もあり、『海底軍艦』も『地球防衛軍』もグローバリズムの映画でした。
そういえば『怪獣総進撃』だって世界中を襲う怪獣たちが最後は力を合わせてキングギドラを倒す映画でやっぱりグローバリズムの映画ととれるわけです。

そうです。第3番のテーマは「世界」ではないでしょうか。

伊福部昭は日本ならではの音楽を追求した方でありましたが、だからと言って日本人のためだけに音楽を作っていたわけではありませんでした。変に世界を意識せずに日本的である事を突き詰める事でむしろ世界に通用する音楽にしていたのです。
そういえば同じ時代の映画作家たち、黒澤明も小津安二郎も日本らしさを突き詰める事で、世界の巨匠になりました。
伊福部昭と関係の深かった熊井啓監督なども日本のさらに内へ内へという視点で映画を撮っていました。
一方で伊福部昭の音楽を愛した本多猪四郎監督や谷口千吉監督などは明らかに世界を見据えて映画を撮っていたと思います。

日本の文化や風土は大切にしつつも、だからと言って世界を見る視点は必要だと、伊福部昭の音楽からはいつもそんなことを感じるのですが、SF交響ファンタジー第3番はかなり意識的に世界に目を向けた選曲だったのではないかと思うのです。
比較的に第1番と第2番はお気に入り曲を並べただけの雰囲気がありましたが、第3番からはあえてのテーマ性を感じてしまうのです。
もちろんこれは曲想とかでなく、東宝特撮映画を愛し、楽曲が使われた映画の内容を知っているからそこから勝手に連想しているにすぎないのですが、それでもなんでも伊福部昭がこっそりと隠したテーマを見つけ出したような悦に浸れて良い気持ちになれます。

そんなところで、またまた無駄に熱く語ってしまいましたが、伊福部昭の音楽は最高ですね。
それではまた、素晴らしい映画と音楽でお会いしましょう!

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