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大奥 [監督:林徹]

2007-01-06 01:33:17 | 映評 2006~2008
シナリオがへぼ過ぎて全くノレない、ぬる~い映画である。

映画版だけに豪華なセットや衣装は堪能できる。群集シーンの迫力も、歌舞伎小屋が焼け落ちるスペクタクルも見ごたえはある。カメラがいい。ちゃんと広いセットを広く見せようと、左右に空間をたっぷりとった構図や、奥行きのある絵作りを心がけている。だから一応は豪華絢爛江戸城大奥時代絵巻という看板通りの作品にはなっている。
しかし、いくら映像が良くても肝心のシナリオがぼろぼろなので、空虚な着物ショーにしかなっていない。

まず、冒頭の大奥内における派閥対立の説明からしてがっかり。まず派閥対立は当然あるのだという前提で、物語が始まる。女優たちにそれっぽい台詞を喋らせて、あとはナレーションで説明するだけで、対立の見せ方が表面的である。
先代将軍が亡くなり、幼い家継が将軍を継ぐあたりから物語を始めれば、女たちの対立の源流を見せることができたろうに
仲間由紀恵演じる絵島の若くて頭も切れるという設定もナレーションで語られるのみ。彼女が切れ者であることを印象づけるエピソードがある方がよいし、何より先代将軍の側室で幼君の母である月光院(井川遥)との精神的な絆が育まれたことを示すエピソードもないことは致命的だ。
このへんもひっくるめて、もう少し過去の時点から話を始めて丁寧にキャラ紹介をすべきだったのだ。

テレビシリーズ3シーズンで人気を博したキャストをずらり揃えたのはいいのだが、印象的な見せ場を各人にふってやることもできず、ただ時間ばかりを無駄に消費して物語のテンポを悪くしている。

西島秀俊演じる生島が女たらしのテクニシャンであることもわからない。杉田かおるを抱かないのはわかるけど、仲間由紀恵の口説きもイマイチやる気を感じなく、歯切れが悪い。ようするに意気地なしなのか、ウブな男なのか。
2人の密通シーンもさらりとキスするだけ。そりゃもちろん仲間由紀恵がぬぐはずないけど、あまりに物足りない2人の愛し合い。
2人が愛し合っていく過程も深みはなく、恋を知らない女がイケメンにのぼせ、意気地なしの男が世間知らずで高貴な美人に惚れて、結局一夜だけの交わりでお互いのことよく知る時間もなかった筈。せめて一夜の愛の営みの中で、体だけでなく心も通わせるようなロマンチックな会話でも交わしてほしかった。
その密通がいかにしてバレたかも全く描かれない。映画を見る限り何の物的証拠もない。状況証拠だけで充分だったのだろうが、ちゃんと密通が露見される過程が描かれないと緊張感がない。

不義密通の罪で生島とともに死刑にされかける絵島だが、幼い将軍の一声で減刑。量刑は法が定めるものであって統治者が決めるものではない。年端もいかない幼君の独断で罪人が裁かれていいのか?少なくとも殿に何かしら進言する者がいなくては。当時の統治制度に問題を投げかけても仕方ないが、今言いたいのは絵島は危機を脱するのに自分の力も才覚も何も使っていないし、将軍も何も判らずにダダこねだけ。そんなんで命が助かっても、「ああ良かった・・・」とは思えても、感動はできないだろう・・・

エピローグにも脚本家の力の無さが現れる。
流刑となる絵島の駕篭を月光院が止め、風車を彼女に渡す。生島が獄中で最後まで手放さなかったものだという。
たしかに生島が風車を買うシーンが2度もあったし、絵島とのデートの時に生島が買った思い出の品でもあるかもしれない。しかし、風車の思い出は絵島よりむしろ風車売りの少女とのものではないか?あの娘のことをずっと思っていたという物語ならラストの風車も意味があるが、観客には判っていても絵島にはあまり思い出のないアイテムを最後に持ってきて何になるというのか?
せめて初デートの時、絵島が風車を買い生島にプレゼントしたのであれば、ラストの意味も深いものになったのに。あるいは2人がもっと頻繁に密会していて、その目印に使っていたのが風車であったとか、それくらいの使われ方でなくては最後に持ってくる意味がない。
少なくとも、月光院に風車を渡された時絵島は「は?これなんでしょう?・・・ああ、そういえば・・・」くらいの感慨しか湧かないはずだ。

ダメな脚本からは決していい映画は生まれない、ということを改めて思い知った空虚な大奥空騒ぎ。
いやあ、つまらなかった・・・というたしかな感触を得た私は、今後、フジ=亀山ブランドの映画を見るのを躊躇することになるだろう。

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2 コメント

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どうもです (sakurai)
2007-01-15 08:16:17
いやーー、本、本当にしょぼかったですね。ウス!
でも見る前からそのモードで、さらに西島君見に行って、着物の柄を見に行こうと思った私にはそれなりの満足感がありました。あの着物は早々見れない。金魚の柄の打ち掛けなんぞ、絵描いてる友禅師の姿が目に浮かびました。
今、松本に住んでる姉が昔友禅染の修行してたもんで。
なるべく見る前にいろんなことを考えないで見ようと心しているのですが、出来ませんね。
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コメントどうもです (しん)
2007-01-22 01:20:10
>sakuraiさま
好きなあの人、この人が江戸時代っぽいかっこしてる~と、それだけを見るつもりで観れば、そこそこ楽しめますよね。制作サイドもそれだれを提供するつもりで作っている志の低い映画なので、そういう意味では成功作なのかもしれませんね。
あんなセットで撮影してみたいなあ・・・とか、あんな衣装揃えて女優たちに着せてみたいなあ・・・とか、そういう羨ましさはありました。
でも脚本がなあ・・・
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