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映画作りの糧とすべく劇場鑑賞作品中心にネタバレ徹底分析
映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

キネマ旬報ベストテン2006 [キネ旬でも読めない、キネ旬通っぽい濃いベストテン解説付き]

2007-02-10 13:37:07 | 映画賞
第80回キネマ旬報ベスト・テンが発表(2007年1月10日)
読者ベストテン、個人賞は2月発売のベストテン特集号で

2月5日発売の決算号で、読者ベストテン発表。追記します。

【2006年度日本映画ベスト・テン】
1位 『フラガール』
2位 『ゆれる』
3位 『雪に願うこと』
4位 『紙屋悦子の青春』
5位 『武士の一分』
6位 『嫌われ松子の一生』
7位 『博士の愛した数式』
8位 『明日の記憶』
9位 『かもめ食堂』
10位 『カミュなんて知らない』
次点 『ストロベリーショートケイクス』
以下、選外からいくつか
12位 『やわらかい生活』(映画芸術1位)
17位 『時をかける少女』
22位 『花よりもなほ』(高崎映画祭作品賞)
76位 『闇撃つ心臓』(私の2005年度第2位)
93位 『恋する日曜日』(私の2006年度第2位)


【2006年度外国映画ベスト・テン】
1位 『父親たちの星条旗』
2位 『硫黄島からの手紙』
3位 『グエムル 漢江の怪物』
4位 『ブロークバック・マウンテン』
5位 『麦の穂をゆらす風』
6位 『太陽』
7位 『カポーティ』
8位 『グッドナイト&グッドラック』
8位 『クラッシュ』
10位 『マッチポイント』
次点 『ユナイテッド93』
以下、選外からいくつか
12位 『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』(私の2006年度第1位)
14位 『うつせみ』(私の2006年度第5位)
14位 『サラバンド』(私の2007年度ベストワン候補)
16位 『ミュンヘン』
25位 『ブロークン・フラワーズ』
29位 『ホテル・ルワンダ』
41位 『ナイロビの蜂』
51位 『リトル・ミス・サンシャイン』
69位 『レディ・イン・ザ・ウォーター』
113位 『パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト』


【2006年度文化映画ベスト・テン】
1位 『あの鷹巣町の その後』
2位 『蟻の兵隊』
3位 『プージェー』
4位 『六か所村ラプソディー』
5位 『ありがとう 奈緒ちゃん 自立への25年』
6位 『今、有明海は 消えゆく漁撈習俗の記録』
7位 『ヨコハマメリー』
8位 『三池 終わらないやま炭鉱の物語』
9位 『ディア・ピョンヤン』
10位 『戦争をしない国 日本』

監督賞=根岸吉太郎「雪に願うこと」
脚本賞=西川美和「ゆれる」
主演女優賞=中谷美紀「嫌われ松子の一生」ほか
同男優賞=渡辺謙「明日の記憶」
助演女優賞=蒼井優「フラガール」ほか
同男優賞=香川照之「ゆれる」ほか、笹野高史「武士の一分」ほか
新人女優賞=檀れい「武士の一分」
同男優賞=塚地武雅「間宮兄弟」
外国映画監督賞=クリント・イーストウッド「父親たちの星条旗」「硫黄島からの手紙」

【2006年度読者選出日本映画ベスト・テン】
1位 『フラガール』
2位 『ゆれる』
3位 『武士の一分』
4位 『かもめ食堂』
5位 『嫌われ松子の一生』
6位 『博士の愛した数式』
7位 『紙屋悦子の青春』
8位 『雪に願うこと』
9位 『THE有頂天ホテル』
10位 『明日の記憶』
次点 『手紙』

【2006年度外国映画ベスト・テン】
1位 『硫黄島からの手紙』
2位 『父親たちの星条旗』
3位 『クラッシュ』
4位 『ブロークバック・マウンテン』
5位 『ホテル・ルワンダ』
6位 『グエムル 漢江の怪物』
7位 『ユナイテッド93』
8位 『ミュンヘン』
9位 『ナイロビの蜂』 
10位 『麦の穂をゆらす風』
次点 『マッチポイント』

読者選出日本映画監督賞=李相日「フラガール」
読者選出外国映画監督賞=クリント・イーストウッド「硫黄島からの手紙」

******私の所感*****
【日本映画】
1位「フラガール」、3位「雪に願うこと」・・・去年の1位「パッチギ!」2位「三丁目の夕日」を思い出す。最近ベタドラマに弱いキネ旬?
ただ去年の場合「パッチギ!」と「三丁目」は強力なアンチも存在して、お互いに貶しあってるようなところもよく見られた(パッチギを貶す一派には映画以前に韓国・朝鮮が嫌いな人が多かったが・・・)が、今回の「フラ」と「雪願」にはそのような反発は見られない。
むしろアンチが多いのは2位「ゆれる」、6位「嫌われ松子の一生」だった。(どちらも映画芸術で荒井晴彦氏がけなしまくっていたけど)この二作はそうしたアンチの存在のためにやや票が伸びなかったのでは、と推測。それでも低予算「ゆれる」の2位は大健闘と言っていいだろう。
ところで無難なベタドラマが上位をかっさらうのは、それだけ日本映画が質的に物足りなかったからではないかとも思う。
5位に山田洋次の「武士の一分」が入っているのが個人的には意外だった。それだけ山田洋次監督に人気があることを物語っているが、同時に無難な巨匠作品が上位にくるのも若手・中堅の頑張りが足りないからでは・・・と思う。
4位「紙屋悦子の青春」(私は未見)も巨匠黒木和雄監督の作品。黒木監督は昨年他界され、これが遺作となった。過去にも相米真二監督の遺作「風花」、キューブリックの遺作「アイズ・ワイド・シャット」などもランクインしている。ありがとうの意味をこめて点数が甘めになるのかといえば、そうでもなく、伊丹十三の遺作はランク外だったりする。単に実力のなせる技であったと思いたい。なんにせよ黒木監督の見事な有終の美でありました。
これら上位作含めて、全般的に他の映画賞(ヨコハマ映画祭とか朝日ベストテンとか、報知とか)とあまり代わり映えのない10本
唯一、「カミュなんて知らない」が個性的。この作品は未見だが、監督の柳町光男はキネ旬ではベストテンの常連である。
女性監督の映画が二作品ランクイン。「ゆれる」(西川美和監督)と「かもめ食堂」(荻上直子監督)。女性監督の作品のランクイン自体が外国映画含めてもめずらしいのに、二作品のランクインはキネ旬史でもめずらしい。1977年の「ねむの木の詩がきこえる」(宮城まり子監督)、「遠い一本の道」(左幸子監督)のランクイン以来のことである。

【外国映画】
クリント・イーストウッドは三年連続のベストワン。しかも三年目はワンツー・フィニッシュという、前人未到の偉業を成し遂げてしまった。
二年以上連続のベストワンを達成した監督は過去に5人
 小津安二郎(1932年「生まれてはみたけれど」、33年「出来ごころ」、34年「浮草物語」)
 ジャック・フェデー(1936年「ミモザ館」、37年「女だけの都」)
 ジュリアン・デュヴィヴィエ(1938年「舞踏会の手帳」、39年「望郷」)
 今井正(1956年「真昼の暗黒」、57年「米」)
 イングマール・ベルイマン(1961年「処女の泉」、62年「野いちご」)

ワンツー・フィニッシュを決めたのは過去に3人
 田坂具隆(1938年 1位「五人の斥候兵」2位「路傍の石」) 
 木下惠介(1954年 1位「二十四の瞳」2位「女の園」)
 今井正(1957年 1位「米」2位「純愛物語」)

三年連続もワンツーフィニッシュも外国映画では初めて。
ついでに、イーストウッドのベストワン獲得回数はこれで五回目(「許されざる者」「スペースカウボーイ」「ミスティック・リバー」「ミリオンダラー・ベイビー」「父親たちの星条旗」 )。外国映画の監督でのベストワン獲得回数は歴代単独1位となった。(二位はチャップリンで四回(戦前含む)、3位はフェリーニとデュヴィヴィエの三回)
そういうわけでイーストウッドはキネ旬においては、まぎれもない巨匠中の巨匠となったのである。

そうかと思えば10位「マッチポイント」のウディ・アレンは、これでベストテン入選10回目。外国映画の戦後の入選回数では歴代二位。(1位はウィアム・ワイラーで11回、フェリーニも10回入選。ベルイマン9回、トリュフォーとデビッド・リーンが8回。ただし戦前も含めると10回くらいは他にも何人かいそう。)
外国映画で10回も入選するのはとても大変なことなのである。二大巨匠にサンドイッチされた今年のベストテンは映画史的な重みというか、美しさを感じる。

三位は韓国の誇る天才ポン・ジュノの「グエムル」(私は未見)。モンスター映画がなんでさ、と思うかもしれないが、過去に「ジョーズ」も「エイリアン2」も「ガメラ」も「キングコング」もランクインしているから別に珍しいことじゃない。

意外にもこれが初入選のソクーロフの「太陽」。昭和天皇という題材が日本の評論家にうけたのか、あるいはあんなコメディの才能があるなんてビックリというサプライズでの入選か。いずれにせよ、外国映画ベストテンに日本語映画が二作もランクインしたのも珍事である。
キネ旬ベストマニアとしては話題の多い今年のベストテンだが、外国映画の方も他の映画賞とあまり代わり映えしなく、意外性がないのが残念。「太陽」がサプライズだったのかな

【文化映画ベストテン】
文化映画に特に基準はない。ドキュメンタリーや短編映画、教育映画など、商業として成り立たなさそうな作品を10人くらいの審査員で選ぶ。当然あまり観る機会のない作品が多いが、「菌と植物の共生」(99年)とかそんなタイトルの映画がランクインされてると観たくなってしまう。どんな映画だよって
しかし文化映画ベストワンとる作品はけっこう面白かったりする。94年ベストワンの「渡り川」なんてドキュメンタリーの傑作である。
さて今年のベストテンは2位『蟻の兵隊』(朝日ベストテン映画祭7位)、7位『ヨコハマメリー』(ヨコハマ映画祭6位)など(私はどちらも未見)文化映画どころか普通に日本映画ベストに入るのではとも予想される世評の高い作品が目立つ。きっと日本映画ベストテンでも20位くらいにランクされているんだろう。
そんな例年にない強豪ぞろいの中ベストワンをとった『あの鷹巣町の その後』という作品は、どんなに面白いのだろう。もし機会があれば観てみたい。

【個人賞】
助演男優賞は香川さんと笹野さんのどっちかだろうと思っていたら・・・どうも同数票ということらしい。今年の場合、この結果で良かったように思う。どちらも本当にいい。
キネ旬の個人賞は選者一人一票で選ぶため、票割れが起こりやすく、助演賞など1位といっても6~7票だったりする。同点受賞も初めてではない。主演か助演かも明確な基準はなく主演として投票した人がいるために助演賞受賞を逃すということはよくある。今年の場合、香川さんなど主演票もいくつかあったのではないだろうか?
笹野さんの同点受賞を除けば、作品、監督、演技4つは報知映画賞ともろかぶり(外国映画賞もだ)。
脚本賞が西川さん。とるなら監督賞だと思ってた。むしろ脚本は色々とつっこみどころもあるような気がするが。
満遍なく票を集める映画が1位をとり、熱狂的ファンのいる映画が順位は下げるけど個人賞をとるという感じだろうか?
クリントは三年連続5回目の監督賞。二作入賞させて監督賞とれなかった人は少ないので、当然の結果だけど、もはや伝説だ。

*****
選外作品から
「ホテル・ルワンダ」の、観客と評論家の温度差はなんなんだろう
「時をかける少女」もキネ旬だとやや冷淡
外国映画12位はうれしい。
14位のベルイマンが選外になったのが残念。入選していればアレンと並んで10回目だったのに。傑作だったけどなあ

*****
読者選出でもイーストウッドは3連覇。1位2位の逆転は起こっているが、なんとなく理解できる。より情感に訴える硫黄島が観客に響き、メッセージ性の強い星条旗を評論家が推す感じ。
日本映画1位は当然の「フラガール」。
「ゆれる」の2位が意外だけど、キネ旬読む人たちはミニシアターをよく見るということでしょうか
今年の不思議は「博士の愛した数式」で、どの賞でも10位~5位くらいの位置につけている。それほどの映画だったろうか?

*****
去年のキネ旬ベストテンの結果は→こちら

その他の映画賞の結果は、こちらから→2006年度国内映画賞一覧

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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんばんは。 (ココ(ココのつぶやき))
2007-02-13 00:10:00
お邪魔します。詳しい解説ありがとうございました。私がいいと思った映画がかなりベストテンに入っていたので、嬉しかったです。私はウディ・アレンが大好きで、ほとんどの作品を見ています。ウディが10回もランクインしていたとは!「マッチ・ポイント」を見ても、まったく年齢を感じさせないセンスのいい映画で、さすがと思いました。
その他、「ゆれる」の西川さんもたいした才能の持ち主ですよね。彼女のほかの作品も見ようと思っています。「かもめ食堂」は見逃していましたが、これから見ます。
「メルキアデス・エストラーダ・・・」も12位に入っていてよかったですね。
今年はどんな作品に出会えるのか、楽しみです。
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コメどうもです (しん)
2007-02-11 01:33:39
>lackofwardsさま
まあ、読者選出でも3連覇だし、実際、3年とも傑出していたってことでいいんじゃないかと思ってます

>aq99さま
トゥモロー・ワールドは32位でした。
ちなみに「007カジノ・・」は18位でした。

だから映画ファンが過剰反応しているかもしれない「ホテル・ルワンダ」ですが、そんな事情を知らずに観た私は素直に感銘受けてたものです
返信する
2下旬号は高い! (aq99)
2007-02-10 16:57:25
本誌読むより面白いですわ~。
もう買わなくて、立ち読み(西川女史の顔見とこ)でいいや!

「ホテル・ルワンダ」は、映画ファンたちの手で上映されたことが、ひっかかってるんでしょう。
SFファン大絶賛の「トゥモロー・ワールド」は何位でしたか?
「紙屋悦子」は、正直、遺作だから~と思ってたんですが、見てビックリしました。前2作を見てなかったから、こんな作風になってたの知りませんでした。

アカデミー賞も檄文楽しみにしてま~す!
返信する
TBありがとうございます (lackofwords)
2007-02-08 12:56:05
イーストウッド3連覇の特殊性をどう表現すればいいか、あまり長々とデータを披瀝しても仕方ないと思い、あんな感じでまとめましたが、すべてはしんさんのおっしゃる通り、作品を見れば分かることだと思いますね。

硫黄島2作品、早く観たいです。。。
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コメントどうもです (しん)
2007-01-13 03:03:40
>aq99さま
我ながらこんなに書けるとはと、自分で自分にびびっています。
投票に際してはリストが贈られるらしいので、硫黄島投票にはさほどの影響はなかったかと思います。
むしろ、読者ベストテンでは、そういう混乱がありそうです。
読者ベストテンでは硫黄島は対象外だと思うので、クリント四年連続読者選出1位もあり得ますね

3年連続で、アンチ・クリントもけっこう生まれているようですが、クリントばかりを褒める評論家やファンをけなすより、クリントを越えられない他の映画人をけなすべきでしょうね。何より映画が雄弁に偉大さを語っているのですから
アカデミーで硫黄島は候補になるんでしょうか?
なれば初の日本語映画の作品賞候補です。アカデミーオタクでもある私でした
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いや~ (aq99)
2007-01-12 22:48:28
こんだけキネ句ベスト10マニアとは・・・。
今度「TVチャンピォン」でキネ句ベスト10選手権がありますように・・・。

それはそうと、今年の「星条旗」1位は、「~手紙」を邦画に入れたり、あるいは来年扱い(確か正月映画はその年のベスト10に含めないという時期があったと記憶してますが)にしたりで、混乱をきたしてるんではないかと思います。
どのように票を入れたか、特に「星条旗」に入れて「~手紙」に入れてない人がいるか、いたとしたらどんな理由か見てみたいです。

それにしても楽しい季節になりましたね~。
アカデミー賞まで楽しいわ!
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コメントどうもです (しん)
2007-01-12 02:03:53
>lackofwordsさま
たしかに、気持ち悪いくらい評価されていますが・・・観ればそれも納得なんですよね。どう考えたって傑作なんだもん
ただ世評から考えれば「硫黄島」が1位かなと思ってたのですが、微妙に意外な結果でした。
こうして立て続けに評価されれば、「ペイルライダー」とか「トゥルー・クライム」とかが再販で安く市場に出回って、我ら消費者がおいしい思いできるかもしれませんね
返信する
はじめまして (lackofwords)
2007-01-11 11:16:34
ビデオチェック派なのでほとんどが未見です。

私もイーストウッドの3連覇に興味を持ったのですが、戦前の記録はまったく知りませんでした。
ともあれ、戦前の選考委員の数は現在と比ぶべくもないでしょうから、イーストウッドの凄さが改めて感じられるところです。一寸気味悪いですが。

決算号でその詳細を確かめるのが今から楽しみですノシ
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