******映画史に残る、あみーごVSハサミ女の激闘******
そんな奈緒ちゃんの絶体絶命状態とは全く無関係に、奈緒ちゃんと別れたあみーごは恐怖のど渦中にいます。何故か冒頭で轢きかけた眼帯ゴスロリ女に命を狙われます。
この辺のエピソードは、足刈りの儀式とか、秘密の村とか、それまでの展開と感動的なくらい無関係です。
あみーごは廃棄されたようなぼろっちい公衆便所に隠れます。
トイレの一室に入った彼女ですが、ズシャン!ズシャン!と殺気の漂いまくる足音が近づいてきます。息をのむあみーご。その足跡の主は便所の中に入ってきます。
あみーご視点のカメラは客観視点に切り替わり、裁縫用のハサミをもっとでかくしたようなハサミを持った女性の後ろ姿がフレームインします。
彼女が、何らかの行動に移る前には儀式のように、必ず決めるポーズがあります。
閉じた状態のハサミをスッと横にまっすぐさし出し、ジャキーン!!!と開くのです。
人が観ていようが観ていまいが関係なく行います。恐らく彼女にとって神聖な儀式のようなものなのでしょう。
そのとき、あみーごの携帯が甲高い着信音を響かせます。大ピンチ。
着信音やアラームのせいでピンチになるというシチュエーションは、アクション映画ではよく見られます。「レッドブル」にも「インファナル・アフェア」にもありました。それ自体めずらしいシーンではありませんが、冒頭で提示されたあみーごの「他人のことなどおかまいなし」な設定が生かされた結果と見るべきでしょう。
おそらく彼女は、映画館では携帯をOFFにするなど考えたこともないでしょう。それ以前にあまり映画を見ていないことも冒頭から説明済みですが。
ともかく着信音によりターゲットの存在に気付いた謎の危険人物は行動を開始します。
ホラー系作品に登場する危険系キャラの行動は「0 to MAX, MAX to 0」です。ハーフスピードとか、徐々に速度を上げてとか、ゆとりを持って早めにブレーキかけるとか、そんなことはしません。
ズギュゥゥゥゥン!!、ピタッ! ボッゴォォォォォ!!!!です。
ドアを開ける時、ノブを回してギィィィィ・・なんてしません。
いきなりMAXのキック力で蹴破ります。
ついにあみーごのトイレが蹴破られようとしたそのとき、あみーごはトイレの敷居の下から隣のトイレに身を滑らせ危機を脱します
こんなシーン、「刑事ジョン・ブック 目撃者」にあったな・・・と思いましたが、多分意識してそうしたわけじゃないでしょう。
それにしてもこのシーンであみーごは、こいつ意外と只者じゃないかも・・・と思わせる行動をとります。
殺人鬼がすぐそばをウロウロしている状況でありながら、あみーごは友達の奈緒ちゃんに10数文字ものSOSメールを誤字脱字もなく瞬時に書き上げ送信しています。さすがは現代っ子です。どんな状況でもメールうつ指だけは震えることを知りません。あるいはあみーごが、ああ見えてかなり「闘いなれしたファイター」だったのかもしれません。
ともかく、かろうじて危機を脱したかに見えたあみーごですが、彼女がもっと映画をたくさんみていれば殺人怪人の執念深さを警戒し安心は出来ないはずです
思ったとおりでした。ハサミ女は便所の屋根にどうやってかよじ登り、そのするどいハサミで屋根ごと中のあみーごを串刺しにしようとします。
目の前に貫き通されたでかいハサミをみて、それまで声を殺していたあみーごもついに絶叫します。
あわてて逃げ出すあみーごですが、トイレの出口に先回りしたハサミ女が仁王立ちで行く手をさえぎります。
ついに恐怖と絶望と死と破壊の化身、はさみ女の全身があみーご目線で捕らえられます。
ゴスロリ衣装(恐らくは彼女にとってそれは、聖戦に赴く戦士の装束なのでしょう)を身にまとい、両手にでかいハサミを持っています。いきなり襲い掛かればいいのですが、「ホンモノの地獄を見せてあげるチョキンチョキン」と宣言したことを忘れていません。
江戸時代のはりつけ罪人を処刑する前に、顔の前で二本の槍を交差させる「見せ槍」の儀式よろしく、閉じたハサミをもった両腕を開き、ジャキーン!!と音を立てハサミを開くその仕草は、処刑開始を告げる恐怖と絶望の見せバサミです。
そしてハサミで壁や扉をギャリギャリ引っ掻きながら、猛然とあみーご目がけで襲い掛かってきます。
さて深作健太作品といえば、毎度毎度ハリウッド映画名シーンのプチ再現が見ものです。
「BR2」ではプチ・プライベート・ライアンを、「同じ月を見ている」ではプチ・バックドラフトで、私を楽しませてくれました。
そして今作では・・・なんというか回路のショートしたシザーハンズを見せてくれた訳です。
期待を裏切りません。健太。
もっとも本当に回路がショートしていたのはシザーハンズではなく健太の頭の方なのかもしれませんが・・・
闘いの最中、ハンターと獲物は会話をします。そこでそのハサミ女は、かつてあみーごに彼氏を奪われた女だったことがわかります。しかもあみーごは奪った男をすぐ捨ててしまったらしいのです。
彼女が人のことなどまるで気にかけない自己中キャラであることが、ここでもちゃんと生かされています。
どうやってこの眼帯ゴスロリシザーハンズがあみーごたちの旅行日程を知ったのか、全くの謎ですが、そんなことを気にかけている暇はありません。
あみーごはきゃあきゃあ喚きながら、ハサミ女の攻撃から逃げます。防戦一方です。当然です。ハサミ女のあの神聖なる装束を身にまといし姿と、狂気を宿した目からは、すでに「人」らしさはありません。彼女は復讐を遂げんがため躊躇いなく修羅の道に入っていったのでしょう!!
しかしここであみーごがあっさり殺されてしまっては、曲解してヒッチコックの「サイコ」のオマージュ程度のものにはなるでしょうが、それで済ます健太ではありません。
恐怖にかられ逃げ惑うあみーごは手元に転がっていた洗浄液らしき液体の入った容器ふたつを手にし、ハサミ女に浴びせかけます。
「それがどうした!!!」とハサミ女は高笑いですが・・・突然白い煙がシュワシュワ出て、ジュワーって音まで聞こえてきて苦しそうにのた打ち回ります。
あみーごが手にしていた容器をみると、「混ぜるな危険!!」と書かれた二種類の液体。
おいおい、塩素ガスってあんなにシュウシュウモクモクする?それにあの密閉空間じゃあみーごだってやばいんじゃないの?
・・・などと考える人は、この映画の世界に入り込めていない、現実の常識を映画の世界に持ち込み、自分の知識だけでものを考える、想像力の足りない人です。
いいですか!!ハサミ女が徘徊し、足狩りの儀式が行われ、見た目上キチガイにしか見えない住民たちが住んでいるような村ですよ。
どんなろくでもない液体が転がっていたって不思議ではありません。
プルトニウムが保管されていたり、エボラウィルスの培養施設があったって私は驚きません。
その昔宇宙から来た生物から採取した何でも腐食させる血液が保管されていたとしても、納得できます!
ともかくロクでもない液体を浴びせかけられハサミ女は悶絶。あみーごはかろうじて脱出に成功します。
命からがらハサミ女の強襲を振り切ったあみーごは夜の山をさまよい、材木置き場とおぼしき場所に着きました。
目の前には簡易トイレがあります。すると、なんということでしょう!?
あみーごは何を考えたのか、そのトイレに入ります。見通しの効かない密閉空間。
ホラー、サスペンス系映画ならば「そこに入れば100%ロクな目にあわない場所」です。
しかしその種の映画に疎いあみーごは、いい隠れ場所が見つかったわ・・・とばかり、その簡易トイレに隠れるのです。これから始まる恐怖のことなど知りもせずに・・・
周りの状況が全く見えない狭い閉鎖空間の中で、あみーごは友達の奈緒ちゃんに電話します。
すると、どこからか、ズズズ・・・ズズズ・・・と何かとてつもなくでかく重い物を(そしてそれ以上に重い執念も)引きずりながら近づいてくる音が聞こえます。
息を殺すあみーごですが、再び携帯の着信音が高らかに鳴り響きます。
ついさっき、そのせいで大ピンチになったばかりだというのに!!!
どうです。彼女が他人のことなど気にしない人間であることがよくわかるでしょう。彼女はきっと映画館に行っても携帯をマナーにするとか電源を切るとか、そんなことをしようとは思わない人間なのです。
マナーモードという機能が携帯にあることを知らないのかもしれないし、それ以前に「マナー」という概念が彼女にはないのかもしれません。
ハサミ女は先ほどのピンクの衣装から、黒い衣装にチェンジしています。
武器もちょっと大きめの裁縫ばさみから、特注品と思しき全長2mちかい巨大バサミに変えています。
着替えするなんて余裕だな、ははは・・・などと笑ってはいけません。
先ほども書きましたが、ハサミ女にとってゴスロリファッションは聖戦のための戦闘スーツです。汚れたり破れたり溶けたりした服で戦うことは彼女の聖戦を汚すことになります。
そして何より、ハサミ女はあみーごのことを「たかが崖っぷち元アイドル」と甘く観ていた自分を恥じたのでしょう。
全ての驕りを捨て、持てる最強の奥義を駆使してあみーごを仕留めにかかるつもりになったのです!!!。
敵を知り己を知る。ハサミ女はまぎれもない戦士です。原哲夫先生に漫画にしてほしいです。
あるいは、あの衣装チェンジは、王蟲の血を浴びたナウシカのように、混ぜると危険な液体を浴びて変色しただけなのかもしれません。
ともかくハサミ女はあみーごの隠れる簡易トイレに猛攻撃を加え、ついには簡易トイレをぶっ倒します。コマンドーで電話ボックスを振り回すシュワルツェネッガーをちょっと思い出しましたが、ともかくあみーごの絶叫とともに簡易トイレは横倒しになります。
・・・・そして・・・ついにその時が来ました。
横倒しになったトイレのドアが内側から蹴破られます。
映画の流れが、戦いの空気が、変わったことが、どんなに空気の読めないやつでも確実にわかる名シーンです。
蹴破られ落下するトイレのドア。ピンと垂直に天空に向けられたあみーごの足。
くそまみれ・・・とまでは描写されないのが残念ながら便所の水を髪から滴らせながら立ち上がるあみーご
「もう、頭に来た」
そしてあみーごは、自分のすぐ側にたまたま置いてあったチェーンソーを引っ掴み、なんの戸惑いもなく、ブルルルルルンと起動させます。
あみーごVSシザー女のバトルは第二段階に突入です!!
しかし、なんと素晴らしい脚本でしょう。
あみーごは何の前振りもなく、手慣れた手つきでチェーンソーを起動させます!!!
これこそ映画です!!!
スピルバーグやキャメロンら、巨匠気取りたちは「エクスクロス」を100回くらい見返して勉強し直すべきです。
今一度、スピやキャメの犯し続けたミスを思い返してみましょう・・・
・慣れない船上をフラフラ歩くロイ・シャイダーがつまずいて酸素ボンベにぶつかる。血相を変えてRドレイファスが「気をつけろ!!爆発したらどうするんだ!!」と言う。
・ジュラシックパークに出発する前にジェフ・ゴールドブラムの娘が、私は鉄棒が大得意であるというようなことを話す
・降下準備中の海兵たちを手伝いたいと、シガニー・ウィーバーがパワーローダーを指して「私はこれの二級免許を持っているのよ」などと語る
・ディカプリオがケイトに、唾を遠くまで飛ばす方法を教授する
バカバカしい!!見え見えのフリです!!
健太が監督したらロイ・シャイダーはなんの説明もなしにジョーズの口に何か爆発しそうなものを突っ込んだでしょう。
健太がタイタニックを撮ったら、ケイトはビリー・ゼーンに唾どころかいきなり毒霧くらい吹きかけそうです。
逆にスピやキャメに「エクスクロス」を撮らせたらどうなるでしょう・・・
恐らく、温泉旅行に行くため車で奈緒ちゃんがあみーごを迎えに来たら、あみーごはチェーンソーで木を切り倒している最中で、「ごめーん、もうちょっとで終わるから待ってて~」などというフリのシーンを作ってしまったでしょう。
どうやって20代の女の子の日常描写でチェーンソー扱うことに説得力を持たせるかは、私には想像もつきません。そこはハリウッドの天才ライターさんにおまかせしましょう。
ともかくそんなハリウッド式、前フリとか伏線とかそんな常識を全く持ち合わせていない健太の演出は豪快すぎて体中の血液が沸騰する様な興奮を味わえます。
怒り頂点に達した女、目の前に強敵、すぐ側にチェーンソー、
もう、理屈なんかいらないのです。
チェーンソーを振り回せばいいのです!!!!!!
こうして巨大バサミVSチェーンソーという想像をはるかに絶するバトルが幕を開けます。
お互い死力を尽くして戦うあみーごとハサミ女。
ザキザキに斬り刻んで決着つけてもいいところですが、さっすが健太わかってます。
戦いを締めくくるには刃物やキックは地味すぎます。
夜空に輝く大花火。そう爆発!!
「混ぜるな危険」の反復かと思わせといて、それを壮絶な大爆発へと結びつけます。
夜空に浮かぶオレンジ色の火柱とあみーごの逆転勝利!!映画を観ている観客たちのテンションはトップギア超えてワープスピードに突入です。
「BE TOGETHER」とか「OUR DAYS」とかヘタクソに歌っていたアイドルあみーごはあの爆発とともに消し飛びました。
この時スクリーンに写っていたのは、強敵(トモと読む)小沢シザー真珠を屠った、戦士あみーごです!!!!!!!
エクスクロス 映評 [後編] へ続く
エクスクロス 映評 [前編] はこちら・・・
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そんな奈緒ちゃんの絶体絶命状態とは全く無関係に、奈緒ちゃんと別れたあみーごは恐怖のど渦中にいます。何故か冒頭で轢きかけた眼帯ゴスロリ女に命を狙われます。
この辺のエピソードは、足刈りの儀式とか、秘密の村とか、それまでの展開と感動的なくらい無関係です。
あみーごは廃棄されたようなぼろっちい公衆便所に隠れます。
トイレの一室に入った彼女ですが、ズシャン!ズシャン!と殺気の漂いまくる足音が近づいてきます。息をのむあみーご。その足跡の主は便所の中に入ってきます。
あみーご視点のカメラは客観視点に切り替わり、裁縫用のハサミをもっとでかくしたようなハサミを持った女性の後ろ姿がフレームインします。
彼女が、何らかの行動に移る前には儀式のように、必ず決めるポーズがあります。
閉じた状態のハサミをスッと横にまっすぐさし出し、ジャキーン!!!と開くのです。
人が観ていようが観ていまいが関係なく行います。恐らく彼女にとって神聖な儀式のようなものなのでしょう。
そのとき、あみーごの携帯が甲高い着信音を響かせます。大ピンチ。
着信音やアラームのせいでピンチになるというシチュエーションは、アクション映画ではよく見られます。「レッドブル」にも「インファナル・アフェア」にもありました。それ自体めずらしいシーンではありませんが、冒頭で提示されたあみーごの「他人のことなどおかまいなし」な設定が生かされた結果と見るべきでしょう。
おそらく彼女は、映画館では携帯をOFFにするなど考えたこともないでしょう。それ以前にあまり映画を見ていないことも冒頭から説明済みですが。
ともかく着信音によりターゲットの存在に気付いた謎の危険人物は行動を開始します。
ホラー系作品に登場する危険系キャラの行動は「0 to MAX, MAX to 0」です。ハーフスピードとか、徐々に速度を上げてとか、ゆとりを持って早めにブレーキかけるとか、そんなことはしません。
ズギュゥゥゥゥン!!、ピタッ! ボッゴォォォォォ!!!!です。
ドアを開ける時、ノブを回してギィィィィ・・なんてしません。
いきなりMAXのキック力で蹴破ります。
ついにあみーごのトイレが蹴破られようとしたそのとき、あみーごはトイレの敷居の下から隣のトイレに身を滑らせ危機を脱します
こんなシーン、「刑事ジョン・ブック 目撃者」にあったな・・・と思いましたが、多分意識してそうしたわけじゃないでしょう。
それにしてもこのシーンであみーごは、こいつ意外と只者じゃないかも・・・と思わせる行動をとります。
殺人鬼がすぐそばをウロウロしている状況でありながら、あみーごは友達の奈緒ちゃんに10数文字ものSOSメールを誤字脱字もなく瞬時に書き上げ送信しています。さすがは現代っ子です。どんな状況でもメールうつ指だけは震えることを知りません。あるいはあみーごが、ああ見えてかなり「闘いなれしたファイター」だったのかもしれません。
ともかく、かろうじて危機を脱したかに見えたあみーごですが、彼女がもっと映画をたくさんみていれば殺人怪人の執念深さを警戒し安心は出来ないはずです
思ったとおりでした。ハサミ女は便所の屋根にどうやってかよじ登り、そのするどいハサミで屋根ごと中のあみーごを串刺しにしようとします。
目の前に貫き通されたでかいハサミをみて、それまで声を殺していたあみーごもついに絶叫します。
あわてて逃げ出すあみーごですが、トイレの出口に先回りしたハサミ女が仁王立ちで行く手をさえぎります。
ついに恐怖と絶望と死と破壊の化身、はさみ女の全身があみーご目線で捕らえられます。
ゴスロリ衣装(恐らくは彼女にとってそれは、聖戦に赴く戦士の装束なのでしょう)を身にまとい、両手にでかいハサミを持っています。いきなり襲い掛かればいいのですが、「ホンモノの地獄を見せてあげるチョキンチョキン」と宣言したことを忘れていません。
江戸時代のはりつけ罪人を処刑する前に、顔の前で二本の槍を交差させる「見せ槍」の儀式よろしく、閉じたハサミをもった両腕を開き、ジャキーン!!と音を立てハサミを開くその仕草は、処刑開始を告げる恐怖と絶望の見せバサミです。
そしてハサミで壁や扉をギャリギャリ引っ掻きながら、猛然とあみーご目がけで襲い掛かってきます。
さて深作健太作品といえば、毎度毎度ハリウッド映画名シーンのプチ再現が見ものです。
「BR2」ではプチ・プライベート・ライアンを、「同じ月を見ている」ではプチ・バックドラフトで、私を楽しませてくれました。
そして今作では・・・なんというか回路のショートしたシザーハンズを見せてくれた訳です。
期待を裏切りません。健太。
もっとも本当に回路がショートしていたのはシザーハンズではなく健太の頭の方なのかもしれませんが・・・
闘いの最中、ハンターと獲物は会話をします。そこでそのハサミ女は、かつてあみーごに彼氏を奪われた女だったことがわかります。しかもあみーごは奪った男をすぐ捨ててしまったらしいのです。
彼女が人のことなどまるで気にかけない自己中キャラであることが、ここでもちゃんと生かされています。
どうやってこの眼帯ゴスロリシザーハンズがあみーごたちの旅行日程を知ったのか、全くの謎ですが、そんなことを気にかけている暇はありません。
あみーごはきゃあきゃあ喚きながら、ハサミ女の攻撃から逃げます。防戦一方です。当然です。ハサミ女のあの神聖なる装束を身にまといし姿と、狂気を宿した目からは、すでに「人」らしさはありません。彼女は復讐を遂げんがため躊躇いなく修羅の道に入っていったのでしょう!!
しかしここであみーごがあっさり殺されてしまっては、曲解してヒッチコックの「サイコ」のオマージュ程度のものにはなるでしょうが、それで済ます健太ではありません。
恐怖にかられ逃げ惑うあみーごは手元に転がっていた洗浄液らしき液体の入った容器ふたつを手にし、ハサミ女に浴びせかけます。
「それがどうした!!!」とハサミ女は高笑いですが・・・突然白い煙がシュワシュワ出て、ジュワーって音まで聞こえてきて苦しそうにのた打ち回ります。
あみーごが手にしていた容器をみると、「混ぜるな危険!!」と書かれた二種類の液体。
おいおい、塩素ガスってあんなにシュウシュウモクモクする?それにあの密閉空間じゃあみーごだってやばいんじゃないの?
・・・などと考える人は、この映画の世界に入り込めていない、現実の常識を映画の世界に持ち込み、自分の知識だけでものを考える、想像力の足りない人です。
いいですか!!ハサミ女が徘徊し、足狩りの儀式が行われ、見た目上キチガイにしか見えない住民たちが住んでいるような村ですよ。
どんなろくでもない液体が転がっていたって不思議ではありません。
プルトニウムが保管されていたり、エボラウィルスの培養施設があったって私は驚きません。
その昔宇宙から来た生物から採取した何でも腐食させる血液が保管されていたとしても、納得できます!
ともかくロクでもない液体を浴びせかけられハサミ女は悶絶。あみーごはかろうじて脱出に成功します。
命からがらハサミ女の強襲を振り切ったあみーごは夜の山をさまよい、材木置き場とおぼしき場所に着きました。
目の前には簡易トイレがあります。すると、なんということでしょう!?
あみーごは何を考えたのか、そのトイレに入ります。見通しの効かない密閉空間。
ホラー、サスペンス系映画ならば「そこに入れば100%ロクな目にあわない場所」です。
しかしその種の映画に疎いあみーごは、いい隠れ場所が見つかったわ・・・とばかり、その簡易トイレに隠れるのです。これから始まる恐怖のことなど知りもせずに・・・
周りの状況が全く見えない狭い閉鎖空間の中で、あみーごは友達の奈緒ちゃんに電話します。
すると、どこからか、ズズズ・・・ズズズ・・・と何かとてつもなくでかく重い物を(そしてそれ以上に重い執念も)引きずりながら近づいてくる音が聞こえます。
息を殺すあみーごですが、再び携帯の着信音が高らかに鳴り響きます。
ついさっき、そのせいで大ピンチになったばかりだというのに!!!
どうです。彼女が他人のことなど気にしない人間であることがよくわかるでしょう。彼女はきっと映画館に行っても携帯をマナーにするとか電源を切るとか、そんなことをしようとは思わない人間なのです。
マナーモードという機能が携帯にあることを知らないのかもしれないし、それ以前に「マナー」という概念が彼女にはないのかもしれません。
ハサミ女は先ほどのピンクの衣装から、黒い衣装にチェンジしています。
武器もちょっと大きめの裁縫ばさみから、特注品と思しき全長2mちかい巨大バサミに変えています。
着替えするなんて余裕だな、ははは・・・などと笑ってはいけません。
先ほども書きましたが、ハサミ女にとってゴスロリファッションは聖戦のための戦闘スーツです。汚れたり破れたり溶けたりした服で戦うことは彼女の聖戦を汚すことになります。
そして何より、ハサミ女はあみーごのことを「たかが崖っぷち元アイドル」と甘く観ていた自分を恥じたのでしょう。
全ての驕りを捨て、持てる最強の奥義を駆使してあみーごを仕留めにかかるつもりになったのです!!!。
敵を知り己を知る。ハサミ女はまぎれもない戦士です。原哲夫先生に漫画にしてほしいです。
あるいは、あの衣装チェンジは、王蟲の血を浴びたナウシカのように、混ぜると危険な液体を浴びて変色しただけなのかもしれません。
ともかくハサミ女はあみーごの隠れる簡易トイレに猛攻撃を加え、ついには簡易トイレをぶっ倒します。コマンドーで電話ボックスを振り回すシュワルツェネッガーをちょっと思い出しましたが、ともかくあみーごの絶叫とともに簡易トイレは横倒しになります。
・・・・そして・・・ついにその時が来ました。
横倒しになったトイレのドアが内側から蹴破られます。
映画の流れが、戦いの空気が、変わったことが、どんなに空気の読めないやつでも確実にわかる名シーンです。
蹴破られ落下するトイレのドア。ピンと垂直に天空に向けられたあみーごの足。
くそまみれ・・・とまでは描写されないのが残念ながら便所の水を髪から滴らせながら立ち上がるあみーご
「もう、頭に来た」
そしてあみーごは、自分のすぐ側にたまたま置いてあったチェーンソーを引っ掴み、なんの戸惑いもなく、ブルルルルルンと起動させます。
あみーごVSシザー女のバトルは第二段階に突入です!!
しかし、なんと素晴らしい脚本でしょう。
あみーごは何の前振りもなく、手慣れた手つきでチェーンソーを起動させます!!!
これこそ映画です!!!
スピルバーグやキャメロンら、巨匠気取りたちは「エクスクロス」を100回くらい見返して勉強し直すべきです。
今一度、スピやキャメの犯し続けたミスを思い返してみましょう・・・
・慣れない船上をフラフラ歩くロイ・シャイダーがつまずいて酸素ボンベにぶつかる。血相を変えてRドレイファスが「気をつけろ!!爆発したらどうするんだ!!」と言う。
・ジュラシックパークに出発する前にジェフ・ゴールドブラムの娘が、私は鉄棒が大得意であるというようなことを話す
・降下準備中の海兵たちを手伝いたいと、シガニー・ウィーバーがパワーローダーを指して「私はこれの二級免許を持っているのよ」などと語る
・ディカプリオがケイトに、唾を遠くまで飛ばす方法を教授する
バカバカしい!!見え見えのフリです!!
健太が監督したらロイ・シャイダーはなんの説明もなしにジョーズの口に何か爆発しそうなものを突っ込んだでしょう。
健太がタイタニックを撮ったら、ケイトはビリー・ゼーンに唾どころかいきなり毒霧くらい吹きかけそうです。
逆にスピやキャメに「エクスクロス」を撮らせたらどうなるでしょう・・・
恐らく、温泉旅行に行くため車で奈緒ちゃんがあみーごを迎えに来たら、あみーごはチェーンソーで木を切り倒している最中で、「ごめーん、もうちょっとで終わるから待ってて~」などというフリのシーンを作ってしまったでしょう。
どうやって20代の女の子の日常描写でチェーンソー扱うことに説得力を持たせるかは、私には想像もつきません。そこはハリウッドの天才ライターさんにおまかせしましょう。
ともかくそんなハリウッド式、前フリとか伏線とかそんな常識を全く持ち合わせていない健太の演出は豪快すぎて体中の血液が沸騰する様な興奮を味わえます。
怒り頂点に達した女、目の前に強敵、すぐ側にチェーンソー、
もう、理屈なんかいらないのです。
チェーンソーを振り回せばいいのです!!!!!!
こうして巨大バサミVSチェーンソーという想像をはるかに絶するバトルが幕を開けます。
お互い死力を尽くして戦うあみーごとハサミ女。
ザキザキに斬り刻んで決着つけてもいいところですが、さっすが健太わかってます。
戦いを締めくくるには刃物やキックは地味すぎます。
夜空に輝く大花火。そう爆発!!
「混ぜるな危険」の反復かと思わせといて、それを壮絶な大爆発へと結びつけます。
夜空に浮かぶオレンジ色の火柱とあみーごの逆転勝利!!映画を観ている観客たちのテンションはトップギア超えてワープスピードに突入です。
「BE TOGETHER」とか「OUR DAYS」とかヘタクソに歌っていたアイドルあみーごはあの爆発とともに消し飛びました。
この時スクリーンに写っていたのは、強敵(トモと読む)小沢シザー真珠を屠った、戦士あみーごです!!!!!!!
エクスクロス 映評 [後編] へ続く
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