2007年度日本映画で個人的には圧倒的ぶっちぎり1位の超名作の映評です。
見終わった直後、この映画制作には絶対に関わっていない映画館の館長さんに、「今日は素晴らしい映画をありがとうございました」とマジで言ってしまったほど感動しました。
しかし世評は決して高くはありません。
キネ旬でも映画芸術でも日本アカデミーでもことごとく無視されています。
今年のアカデミー外国語映画賞には「それでもボクはやってない」がエントリーされるそうですが、私ならためらいなく「エクスクロス」を出品します。
ちなみに我が松本市では二週間で打ち切り、しかも最後の一週間は昼間一回だけの上映
松本では瞬殺された感のある映画ですが、下手な邦画100本観るより、はるかに激しい興奮と感動を味わえる必見の名作です!!!!!!
私はこの映画をマジで愛する人のために異様にそして必要以上に詳細な作品解説を記しました。当然ネタバレです。
なお、もの凄くノリノリで書いていたら、10000字を余裕で超えてしまったので、映評は前編・中編・後編の三部構成にしてあります。
******アバンタイトルだけでこんなに書ける******
まず映画が始まるやいなや、携帯電話の着信音がバイブの振動音とともに鳴り響きます。
ここでポイントになるのは、その着信音が携帯を買ったときのデフォルト設定の「着信音1」であるというところです。この電話の持ち主は間違いなく今時の若い女の子ではない!!今時の娘なら流行りの歌でも着メロに設定しているハズだ!!!・・・と観る者全てに確信させておきながら、後々にわかるのですが、その携帯の持ち主は20代の女の子だったのです。
そ・・・そんなバカな・・・という意外な展開。深作健太は一流のだましテクニックを持っているのかもしれません。
まあ、考えてみれば、今時の普通の女の子が、あんな辺ぴで異常な温泉郷に来るはずがありません。まともな感性の持ち主ではなかったのです。しかし、最初の犠牲者となった彼女のそんな異常さを私たちは喜ばなくてはなりません。
そのおかげで、これからの、超絶面白い映画を楽しむことができるのですから・・・
さて、いろんな意味でやばそうな「足狩りの儀式」が画面に映し出され、観客たちを恐怖と絶望のどん底に叩き落とそうと努力したところで、話の本筋が始まります。
******物語の出だしにおけるキャラ描写について******
二人の女の子、松下奈緒と鈴木亜美(以降あみーごと記載)の二人が、温泉旅行に向かっています。
今時の女の子が二人だけで、若者の激少なそうな人里離れた温泉郷などにいくものだろうか?という疑問はさておき、この冒頭のシーンでこの二人の物語上重要な性格設定が描写されていることに気付かなくてはなりません。
この二人はあきらかに、映画も漫画も、特にホラー系の映画はまともに観た事がないということが描写されます。
見るからに不気味でほんとの死体っぽい案山子が何体か並んでいるような村。
住人たちは明らかに健常者とは異なる異常な動き方と喋り方で、人を見た目で判断するのはいけないことですが、キチガイのように思えます。
私が知る限りそういう村に若くて綺麗な女性が足を踏み入れて、恋と友情と笑いと涙の青春物語が展開した映画やドラマや漫画や小説は一つもありません。
大抵はそういう村に入った女の子たちはひどい目にあい、最悪の場合死んだり、もっと最悪な場合生きたまま別の生物へと変身し仲間を食ったりします。
あの二人が少しでもホラー系の映画を見ていたなら、村に一歩足を踏み入れた瞬間、危険を察知して帰ることでしょう。
しかしその種の映画や漫画をろくに見ていなかったに違いない彼女たちは、明らか過ぎる危険サインを見逃し、村の奥へ奥へと入っていってしまいます。
特にあみーごのキャラ描写にも注目しましょう。
トンネルを抜けた二人の車の前に、車道の真ん中に一人の女がフラリと現れ、あやうくその女を轢きかけますが、間一髪急ハンドルで事なきを得ます。普通ならここで、あの人大丈夫かしら?まさか轢いちゃった?と心配するものですが、あみーごは急停止した車から猛然と駆け出し「何やってんのよ!!!」といきなりブチ切れです。基本的に自分さえよけりゃよく、人の迷惑考えないキャラであることが、この行動一つでわかります。この「人の迷惑考えない」ゆえの行動パターンが後に彼女に大ピンチを招くことになります。
ところで轢かれかけた女性ですが、若くスタイルのいい女性のようですが、彼女は平然と立ち尽くしうろ覚えですがあみーごを睨み、こんな台詞を言います
「本当の地獄を見せてあげる。チョキン、チョキン」
言われたのがあみーごでなくケンシロウならば、相手のすさまじい殺気と闘気に気付き、すぐさま戦闘モードに入るところでしょうが、人のこと気にしないあみーごは、そのアカラサマに怪しい女をほっといて村の奥へと車を走らせます。引き返せばよかったのに・・・
******松下奈緒ちゃんの遭遇する「足刈り」の恐怖!!******
さてドリフのコントみたいな挙動を真剣に演じる俳優たちによる不気味な村人たちに歓迎されつつ、2人は宿のログハウスに到着します。
そして「温泉に行く」という台詞を聞いた時点で男性観客の90%くらいが期待or予想した通りに、入浴シーンとなります。
しかし事務所方針とか色々大人の事情はあるのでしょうが、いくら露天風呂とはいえ女二人だけでタオルをまいて入浴しているのはなんとも残念です。
最初の犠牲者
奈緒ちゃんとあみーご
ポール・ヴァーホーベン先生なら、ためらいなく陰毛丸出しでその辺を歩き回らせたでしょう。
そんで二人はささいなことで喧嘩して別行動をとることになります。彼女たちがホラー映画をよく観ている人だったら、このような怪しさ充満の村で単独行動をとることが如何に危険なことかすぐに判る筈ですが、幸か不幸か彼女らはホラー映画には詳しくないことは前述の通りです。
学校の先生が遠足の時、一人でどっかにいっちゃいけません!!!ときつく叱るのは何故だか知ってますか?
脱走した連続殺人鬼や、深い悲しみを背負った不死身の怪人や、種の存続にしか興味のない異星生物に襲われる危険性が極めて高くなるからなんですよ!!
風呂を出て一人になった彼女を、蛇やカエルを盛りつけた不気味な夕食が、ドドン!!というショッキングな効果音付きで迎えます。それが奈緒ちゃんを蝕む恐怖の最後のサインとも知らずに・・・彼女は、見知らぬ人と電話で長話をします。その人は声から察するに、感情的だが修羅場なれしていそうな、いかにも声優っぽい感じの人です。きっと、たった1日の間に24回ものクライマックスを迎える経験を何度も積んでいるのでしょう。
そして、もう前フリはいいや、さっさと始めようぜ、と言わんばかりに村中が一斉に停電し、人を見かけで判断してはいけないことは百も承知ですが、見かけ上キチガイにしか見えない人たち100人くらいに、彼女のログハウスは包囲されてしまいます。
なんと!!この村では、旅の女の左足を切断したうえ、その娘を祠に監禁するという、とても野蛮な風習が行われていたのです!!!
もし、その昔に諸葛孔明先生がこの村を通りかかっていたら・・・「なんと野蛮な風習だ。なんとかしなくては・・・」と考え、小麦粉をねって足の形にしたものを代わりに供えさせ、『これが「饅足」の語源である』と横山先生が漫画に書いていたことでしょう。その場合、足刈りの儀式をするべく襲いかかる野蛮な村民たちに、孔明の配置した伏兵が攻撃を仕掛ける時は「ジャーンジャーン」と銅鑼の音が高らかに鳴っていたでしょう。話がそれました。
ともあれ、ようやく自分が危険な状態にいることに気付いた奈緒ちゃんは、浴衣を脱ぎ捨て私服にばっちり着替え靴もはいて、ログハウスから脱走します。ホラー映画を観ていないことは既に明白となっている彼女ですが、脱出した後の行動しやすさも冷静に考えて行動しているところをみると、「大脱走」とか「ショーシャンクの空に」とか脱走系映画はマメにチェックしていたのかもしれません。
その後、異常者集団のような村人たちの執拗な追跡から逃れながら、彼女は友達にメールをうちます。他人の携帯ですが、相手は親友ですから、メアドなんて当然そらで言えるくらいに覚えていました。
「 たすけとイp」みたいな文面のメールをうったなら、ちょっとはリアリティが出るのですが、彼女は(見かけ上)キチガイ(みたい)に見える数十人の人間から隠れながら、10数文字の文面を誤字脱字もなくしっかりと打ち込んで友達に送信します。さすが現代人です。
一方友達のあみーごからも、丁寧で誤字脱字のない10数文字のメールが送られ、彼女もなんか知らんけど窮地に立たされていることがわかります。
そのころ、そのあみーごは・・・
エクスクロス 映評 [中編] へ続く
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見終わった直後、この映画制作には絶対に関わっていない映画館の館長さんに、「今日は素晴らしい映画をありがとうございました」とマジで言ってしまったほど感動しました。
しかし世評は決して高くはありません。
キネ旬でも映画芸術でも日本アカデミーでもことごとく無視されています。
今年のアカデミー外国語映画賞には「それでもボクはやってない」がエントリーされるそうですが、私ならためらいなく「エクスクロス」を出品します。
ちなみに我が松本市では二週間で打ち切り、しかも最後の一週間は昼間一回だけの上映
松本では瞬殺された感のある映画ですが、下手な邦画100本観るより、はるかに激しい興奮と感動を味わえる必見の名作です!!!!!!
私はこの映画をマジで愛する人のために異様にそして必要以上に詳細な作品解説を記しました。当然ネタバレです。
なお、もの凄くノリノリで書いていたら、10000字を余裕で超えてしまったので、映評は前編・中編・後編の三部構成にしてあります。
******アバンタイトルだけでこんなに書ける******
まず映画が始まるやいなや、携帯電話の着信音がバイブの振動音とともに鳴り響きます。
ここでポイントになるのは、その着信音が携帯を買ったときのデフォルト設定の「着信音1」であるというところです。この電話の持ち主は間違いなく今時の若い女の子ではない!!今時の娘なら流行りの歌でも着メロに設定しているハズだ!!!・・・と観る者全てに確信させておきながら、後々にわかるのですが、その携帯の持ち主は20代の女の子だったのです。
そ・・・そんなバカな・・・という意外な展開。深作健太は一流のだましテクニックを持っているのかもしれません。
まあ、考えてみれば、今時の普通の女の子が、あんな辺ぴで異常な温泉郷に来るはずがありません。まともな感性の持ち主ではなかったのです。しかし、最初の犠牲者となった彼女のそんな異常さを私たちは喜ばなくてはなりません。
そのおかげで、これからの、超絶面白い映画を楽しむことができるのですから・・・
さて、いろんな意味でやばそうな「足狩りの儀式」が画面に映し出され、観客たちを恐怖と絶望のどん底に叩き落とそうと努力したところで、話の本筋が始まります。
******物語の出だしにおけるキャラ描写について******
二人の女の子、松下奈緒と鈴木亜美(以降あみーごと記載)の二人が、温泉旅行に向かっています。
今時の女の子が二人だけで、若者の激少なそうな人里離れた温泉郷などにいくものだろうか?という疑問はさておき、この冒頭のシーンでこの二人の物語上重要な性格設定が描写されていることに気付かなくてはなりません。
この二人はあきらかに、映画も漫画も、特にホラー系の映画はまともに観た事がないということが描写されます。
見るからに不気味でほんとの死体っぽい案山子が何体か並んでいるような村。
住人たちは明らかに健常者とは異なる異常な動き方と喋り方で、人を見た目で判断するのはいけないことですが、キチガイのように思えます。
私が知る限りそういう村に若くて綺麗な女性が足を踏み入れて、恋と友情と笑いと涙の青春物語が展開した映画やドラマや漫画や小説は一つもありません。
大抵はそういう村に入った女の子たちはひどい目にあい、最悪の場合死んだり、もっと最悪な場合生きたまま別の生物へと変身し仲間を食ったりします。
あの二人が少しでもホラー系の映画を見ていたなら、村に一歩足を踏み入れた瞬間、危険を察知して帰ることでしょう。
しかしその種の映画や漫画をろくに見ていなかったに違いない彼女たちは、明らか過ぎる危険サインを見逃し、村の奥へ奥へと入っていってしまいます。
特にあみーごのキャラ描写にも注目しましょう。
トンネルを抜けた二人の車の前に、車道の真ん中に一人の女がフラリと現れ、あやうくその女を轢きかけますが、間一髪急ハンドルで事なきを得ます。普通ならここで、あの人大丈夫かしら?まさか轢いちゃった?と心配するものですが、あみーごは急停止した車から猛然と駆け出し「何やってんのよ!!!」といきなりブチ切れです。基本的に自分さえよけりゃよく、人の迷惑考えないキャラであることが、この行動一つでわかります。この「人の迷惑考えない」ゆえの行動パターンが後に彼女に大ピンチを招くことになります。
ところで轢かれかけた女性ですが、若くスタイルのいい女性のようですが、彼女は平然と立ち尽くしうろ覚えですがあみーごを睨み、こんな台詞を言います
「本当の地獄を見せてあげる。チョキン、チョキン」
言われたのがあみーごでなくケンシロウならば、相手のすさまじい殺気と闘気に気付き、すぐさま戦闘モードに入るところでしょうが、人のこと気にしないあみーごは、そのアカラサマに怪しい女をほっといて村の奥へと車を走らせます。引き返せばよかったのに・・・
******松下奈緒ちゃんの遭遇する「足刈り」の恐怖!!******
さてドリフのコントみたいな挙動を真剣に演じる俳優たちによる不気味な村人たちに歓迎されつつ、2人は宿のログハウスに到着します。
そして「温泉に行く」という台詞を聞いた時点で男性観客の90%くらいが期待or予想した通りに、入浴シーンとなります。
しかし事務所方針とか色々大人の事情はあるのでしょうが、いくら露天風呂とはいえ女二人だけでタオルをまいて入浴しているのはなんとも残念です。
最初の犠牲者
奈緒ちゃんとあみーご
ポール・ヴァーホーベン先生なら、ためらいなく陰毛丸出しでその辺を歩き回らせたでしょう。
そんで二人はささいなことで喧嘩して別行動をとることになります。彼女たちがホラー映画をよく観ている人だったら、このような怪しさ充満の村で単独行動をとることが如何に危険なことかすぐに判る筈ですが、幸か不幸か彼女らはホラー映画には詳しくないことは前述の通りです。
学校の先生が遠足の時、一人でどっかにいっちゃいけません!!!ときつく叱るのは何故だか知ってますか?
脱走した連続殺人鬼や、深い悲しみを背負った不死身の怪人や、種の存続にしか興味のない異星生物に襲われる危険性が極めて高くなるからなんですよ!!
風呂を出て一人になった彼女を、蛇やカエルを盛りつけた不気味な夕食が、ドドン!!というショッキングな効果音付きで迎えます。それが奈緒ちゃんを蝕む恐怖の最後のサインとも知らずに・・・彼女は、見知らぬ人と電話で長話をします。その人は声から察するに、感情的だが修羅場なれしていそうな、いかにも声優っぽい感じの人です。きっと、たった1日の間に24回ものクライマックスを迎える経験を何度も積んでいるのでしょう。
そして、もう前フリはいいや、さっさと始めようぜ、と言わんばかりに村中が一斉に停電し、人を見かけで判断してはいけないことは百も承知ですが、見かけ上キチガイにしか見えない人たち100人くらいに、彼女のログハウスは包囲されてしまいます。
なんと!!この村では、旅の女の左足を切断したうえ、その娘を祠に監禁するという、とても野蛮な風習が行われていたのです!!!
もし、その昔に諸葛孔明先生がこの村を通りかかっていたら・・・「なんと野蛮な風習だ。なんとかしなくては・・・」と考え、小麦粉をねって足の形にしたものを代わりに供えさせ、『これが「饅足」の語源である』と横山先生が漫画に書いていたことでしょう。その場合、足刈りの儀式をするべく襲いかかる野蛮な村民たちに、孔明の配置した伏兵が攻撃を仕掛ける時は「ジャーンジャーン」と銅鑼の音が高らかに鳴っていたでしょう。話がそれました。
ともあれ、ようやく自分が危険な状態にいることに気付いた奈緒ちゃんは、浴衣を脱ぎ捨て私服にばっちり着替え靴もはいて、ログハウスから脱走します。ホラー映画を観ていないことは既に明白となっている彼女ですが、脱出した後の行動しやすさも冷静に考えて行動しているところをみると、「大脱走」とか「ショーシャンクの空に」とか脱走系映画はマメにチェックしていたのかもしれません。
その後、異常者集団のような村人たちの執拗な追跡から逃れながら、彼女は友達にメールをうちます。他人の携帯ですが、相手は親友ですから、メアドなんて当然そらで言えるくらいに覚えていました。
「 たすけとイp」みたいな文面のメールをうったなら、ちょっとはリアリティが出るのですが、彼女は(見かけ上)キチガイ(みたい)に見える数十人の人間から隠れながら、10数文字の文面を誤字脱字もなくしっかりと打ち込んで友達に送信します。さすが現代人です。
一方友達のあみーごからも、丁寧で誤字脱字のない10数文字のメールが送られ、彼女もなんか知らんけど窮地に立たされていることがわかります。
そのころ、そのあみーごは・・・
エクスクロス 映評 [中編] へ続く
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