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映画作りの糧とすべく劇場鑑賞作品中心にネタバレ徹底分析
映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

90年代ベスト 外国映画監督編

2008-03-13 19:59:41 | 私の映画年間ベスト
90年代の私的映画ランキング(90年代総括)に続き、90年代外国映画の監督(私的)ベストランキングを・・・

90年代マイベスト監督(外国映画編)
 
90年代監督ベスト5
 1位 ジェームズ・アイヴォリー (日の名残り、ハワーズ・エンド、サバイビング・ピカソ)
 2位 ジョン・ウー (ハード・ターゲット、ハード・ボイルド 新・男たちの挽歌、ワイルドブリット)
 3位 ウォン・カーウァイ (恋する惑星、天使の涙、欲望の翼)
 4位 クリント・イーストウッド (許されざる者、マディソン郡の橋、ルーキー、目撃)
 5位 侯孝賢 (フラワーズ・オブ・シャンハイ、悲情城市)

ジェームズ・アイヴォリー
私的90年代ベスト作品の監督であるが、90年代の10年間を通して考えると、活躍は90年代前半まで。
それ以降もわりとコンスタントに作品を発表していってはいるのだが、日の名残りをピークに急速に衰えていった感は否めない。
それでもフォスター三部作と日の名残りにはまり、アイヴォリーを追いかけることに費やした10年だったということで思い入れの強さは並々ならぬものがある。結論として、彼は非常に凡庸で、上品さをまといながら、むっつり変態くさい気持ち悪さを内包した、映画作家として探り甲斐のある男だった。
日の名残りの後はジェファーソン・イン・パリス、サバイビング・ピカソといった作品で主にフランスを舞台に作品を作る。
伝統と格式の世界に、そんなものにさして関心はない人物(大抵はアメリカ人)が投げ込まれ、価値観が崩れていく中、未来へと羽ばたく人がいたり伝統に固執するものがいたり・・・そんなアイヴォリー作品全般に感じる物語構成は、日の名残り以降も継続される。
それでも彼の作品から輝きが消えるのは、イギリス以外を舞台にしたことによるのではなかろうか。
イギリスの曇り空、雨、そういった陰気さが、作品世界にマッチしていた。
しかしフランス、特に南仏の陽光のもとでは、伝統と格式という重さも、開放的華やかさの前にいとも簡単に崩壊しそうな弱さが感じられる。

ジョン・ウー(呉宇森)
93年、レンタルビデオの片隅に置いてあった「ハードボイルド 新・男たちの挽歌」を借りたのが、私の心の師匠となる2人の人物ジョン・ウーとチョウ・ユンファとの出会いであった。
詳しくは↓の記事を
[ハードボイルド 新・男たちの挽歌 映評}
ウーが最も輝いていたのは 挽歌1 & 2、狼、ワイルドブリット、ハードボイルドを撮っていた80年代後半から90年代初頭の時期であった。この五本は何度も何度も繰り返し見た。
中国返還を控えた香港から表現の自由を求めて(?)ハリウッドに飛んだジョン・ウーは、名刺代わりに一発「ハード・ターゲット」を作り、少なくとも私とヴァン・ダムの2人は熱狂させた。
「ハード・ターゲット」は物語と呼べる様なものはほとんどない、ただのアトラクションショーのような映画だが、それゆえ純粋にウーのテクニカルな部分を堪能することができた。
しかしその後がいけない。
「ブロークン・アロー」も「フェイス/オフ」も私にはダメだった。
設定に凝った物語など、ウー映画に必要とは思えなかった。
「ブロークン・アロー」も「フェイス/オフ」も一対の光と影のような似ているが対極にあるもの同士の対決を描いた映画だった。
だが香港時代のウー映画の良さは、対決にあったのではない。
倒すべき敵はそれほど強調されず、むしろ、認め合い、理解し合う過程をドラマティックに描いていた。
香港時代の90年か91年に撮った「ワイルドブリット」は例外的にクライマックスが「対決」シーンとなる映画だったが、これは逆に、厚い友情で結ばれていた筈の2人が、殺し合いをする物語であった。勧善懲悪なハリウッド時代の映画と同一視はできずむしろ、香港時代ウー作品の構成にヒネリを加えたものと言える。
いくら「ブロークン・アロー」のハンス・ジマーのテーマ曲が映画史ものの名曲でも、「フェイス/オフ」でオーバー・ザ・レインボーをBGMに銃撃戦するシーンが美しくても・・・香港時代のユンファ、レスリー、トニー、ティ・ロン、ダニー・リーらによって描かれた、友情と絆と誇りの物語の美しさにはまるで敵わなかった。
2000年代になっても(「M:I:2」は実は大好きだが)、「ウィンド・トーカーズ」とか、往年の輝きが全く感じられない作品を放ち、私を失望させた。
それでも私にとって90年代の映画ファンとしての思い出を語る上でジョン・ウーは絶対外せない人物だ。
90年代ジョン・ウーで評価できるのは「ワイルド・ブリット」「ハードボイルド」「ハード・ターゲット」の3作のみ。
それで充分ではないか

王家衛(ウォン・カーウァイ)
ぞくぞくするような会話。
クリストファー・ドイルのかっこいい映像
それらにぴたりハマる、トニー、レスリー、フェイ・ウォン、さらにあの金城武ですらかっこ良く見える
90年代、ウォン・カーウァイはめちゃくちゃお洒落だった。
颯爽と登場した、時代の寵児という感じだった。
時分の好みやその後の評価はさておき、20代くらいの映画好きたちにとって、タランティーノとダニー・ボイルとウォン・カーウァイの三人が90年代中頃の三大お洒落監督だった気がする。話題の中心というか、センスいいねと人に思わせるのに有効だったというか
個人的には、タラとボイルにはのれなかったが、カーウァイにはのれた。
「今すぐ抱きしめたい」がリバイバル上映され、ああやっぱりこいつもアホで雑で不器用な香港映画人だったのかと安心し親近感が増した。
「天使の涙」はまた同じノリで作ったデタラメ映画か・・・と思ったが、その後徐々にスタイルを変え気がつけば2000年代には巨匠っぽくなっていた。「花様年華」は流石に名作だと思うが、お洒落映画人気取りで判っているようで実は判っていなかった時期だったはずのころに撮った「恋する惑星」や「欲望の翼」の方が・・・面白いつまらないじゃなくて、好きか嫌いかで言えば…好きだ。

クリント・イーストウッド
「許されざる者」と「マディソン郡の橋」。映画監督としてのキャリアの絶頂期に違いない・・・と思わせておいて、それが2000年代の超絶頂期への準備運動に過ぎなかった。
許され、マディ橋で「巨匠」の称号をもらい、あとはテキトウに小難しい話を撮れば周りが勝手に深読みして名作にしてくれる体制は整った。実際まさにそんな感じの「真夜中のサバナ」も撮った。
でも元ダーティハリーのイーストウッドは、やっぱり判りやすい娯楽作に心を動かされた。「目撃」なんて大統領の悪事を暴くポリティカルサスペンスな割に、登場人物が異様に少なく、自主映画的なチャチさが愛おしい。「許され」「マディ橋」撮った監督がわざわざ撮るだろうか?
さらに「トゥルー・クライム」。底抜けに面白い。
そして2000年代に入っても「スペースカウボーイ」に「ブラッドワーク」と、もう余生をB級監督として楽しむんじゃなかろうかと思っていたら「ミスティック・リバー」に始まる「大巨匠の風格四部作」
90年代から2000年代にかけてがイーストウッドの黄金期であることに異論はなかろう。そのイーストウッド・レジェンドのいわば前編にあたる90年代。
90年代代表の資格は充分すぎる。

侯孝賢(ホウ・シャオシェン)
この監督の素晴らしさをレンタルビデオを通して知ったとき・・・すでにこの監督の短い黄金時代は終わっていた。
日本においては、89年から91年の三年間がこの監督の黄金期であったと思う。
「童年往事 時の流れ」「恋恋風塵」(89年)、「悲情城市」「冬冬の夏休み」(90年)、「戯夢人生」(91年)のころである。(ほとんどの作品が台湾では80年代に作られているから、80年代の監督と言うべきなのだろうが、日本に紹介されたのは89年からだ)
いずれも傑作である。特に「悲情城市」は不動の生涯第三位の座に置いている名作である。
侯孝賢の映画は一見すると特に何も起こらず淡々と進んでいくように思えるが、そうではない。
この人の映画では何も起こらないのではなく、何かが起こった部分をドラマから排除しているのだ。
「何か」が「起こる前」と、「起こった後」人々は何を思い、どのように生きていたのか。ドラマではなく生活者としての人間をありのままに描いている。
最もドラマチックな部分を排除しているから、カット割りもエモーショナルになる必要はなく、アップもなくモンタージュにもほぼ頼らない突き放した映像になる。広い風景と大勢の人たち。映画はドラマではなく、時代の空気を組み立てる。
その姿勢は90年代後半も2000年代も変わらない。90年代初期に「悲情城市」で一応の完成を見せさらに進歩を目指す。評価の低い90年代後期以降の作品の方が、むしろスタイルをさらに突き詰めようとする貪欲さが感じられエキサイトさせられる。
世界のどこにもいない、90年代に生まれた奇跡の作家ではないかと思う。

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90年代マイベスト俳優(外国映画編)

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