第10回商店街映画祭(2018年11月24日)の入選作感想
ドキュメンタリー、アニメ、コメディ、シリアス、ハートフル、微妙にアクション、海外作品とバラエティに富んでいて最高に面白かったです。
商店街を描いた20分以内の短編作品
全国から30くらいの作品が寄せられ8作品が入選作として上映された。
『Grateful Days』
埼玉県志木市の商店街で活動するヒップホップグループを追ったドキュメンタリー。一々ラップで受け答えするラッパーたちのウザさが面白い。ただ作品としては現実を切り取っただけで、問題提起の前で終わっている印象。とはいえラッパーたちのリアルはどこか心に引っかかる。
友達のラッパーのMC係長に観せたい作品。
『町のお肉屋さん〜小さな町の小さなお店から〜』
とある商店街の肉屋さんのドキュメンタリー。しかし商店街とは言っても営業しているのはそのお肉屋さんだけ。他の店は全てシャッターが降りている。かつて賑やかだったころの写真や思い出話。高層マンションの並ぶ商店街前の通り。それでも肉屋を続ける店。コロッケや唐揚げを買っていく常連のお客さんたち。いつかこの店も閉じてしまうのだろうけど、お店のおじちゃんとおばちゃんは今この瞬間の肉の切り方や揚げ具合を真剣にでも楽しそうに追求している。
サトウくんを別格扱いとした上でもし齋藤賞があるならこの作品に与えたい。
『公衆電話』
公衆電話からの着信を告げるスマホの画面。
相手はお父さん。友達には標準語で喋る30歳の誕生日を迎えたばかりのヒロインは、公衆電話からかけてきた相手には「んだずー」と山形弁で喋る。相手は父親。
スマホやSNSで繋がっていない不器用な2人のコミュニケーションを如何にするかが、この作品の命題。つまりコミュケーションの映画なわけである。
短い時間できちんとオチをつけて、父娘それぞれのちょっとした成長も描いてまとめるところは、短編映画の教科書のようで、観ていてスッキリする。
ただ個人的には山形から来たお父さんはもっとダサくて芋くさいおっさんをキャスティングすべきだったと思うなー。カッコ良すぎだよ父さん!
『ピリオド・オブ・ザ・マウスマン』
監督の平林君は(今作ではピエールなんとかと別名でクレジットしているが)、気がつけば商店街映画祭入選4回目。
彼の初応募作「マツモトくん」は実は私も審査に加わっていた時の作品で、まあ酷いできだった!(笑
その作品は入選を逃したものの、翌年の「マツモトくん」パート2は無駄にクオリティが上がり初入選。以来、「村崎十郎」とともに、毎回山崎貴監督がビデオコメントでこき下ろすのが定番化した、観ると文句しか出ないが無いと寂しい、なんだか「七人の侍」における村にたどり着く前の三船敏郎のような存在となった。
ちなみにマツモトくんの第3作か4作だったか、忘れたけど、ともかくその辺の作品は、イジメ問題に容赦なく切り込む社会派映画かと思わせて結局どっかの街が全滅するディストピア・ビギンズな作りが個人的にはすごいウケた。
そんな平林君が無謀にも、いや賢明にも、マツモトくんを捨てて、新キャラクター「マウスマン」を登場させ、これまでの実写映画からフルアニメーションに表現方法も180度変えて再参戦。
テレ東深夜枠ノリのアニメとして、中々のクオリティで攻めてくる。
映画のタブーに挑戦しましたとかのたまってるけど今までお前がやってきたこととそう変わらんだろ!と突っ込みつつ、なんだか実家に帰ったような安心感を味わえたならあなたは商店街映画祭にかなりハマってます
『純朴な梨農家の青年に、トラックか襲いかかる』
準グランプリ受賞作。
ヨシモト制作ながら映画としてのクオリティは(狙いでもあろうが)ぶっちゃけ1番低く、作りが、編集が、演技が、演出が、脚本が、全部「雑」
けれども、そこに腹は立たない。むしろ楽しく見れる。関わった人たち、特に地元のおっちゃん、おばちゃん、ねーちゃん、にーちゃんたちの笑顔が伝わってくる。エキストラの自然なニヤケ顔をカメラは逃さない。あ、その意味では編集は雑じゃ無いのかも。
そういえば、いつも一本くらいおちゃらけた作品が賞をとってきた商店街映画祭の歴史を振り返るに、これの準グランプリ受賞は商店街映画祭のカラーと言える気もする。
『ヒロイン』
脚本に前回入選の野元梢さんが加わっていて、主演が商店街映画祭が見出した廣賢一郎君が撮った長編映画「あの群青の向こうへ」でも主演を務めた芋生悠(イモオハルカ)さんで…自主映画の世界って意外と狭いよなーとか、いやむしろ廣君が自主映画の第一線に立った証なのかとか、感慨にふける。
監督の松崎まことさんに、廣君の映画で主演した娘ですよねと聴いて、おっさん2人で廣君の悪口で盛り上がってたら商店街映画祭のスタッフとして動員されていた廣君がどうもとやって来た。本人登場で悪口大会は終わるかと思いきや余計に盛り上がるという、なんかいやなオッサンですみませんね、廣君。
さておき、映画はとても良い。
父が死の間際に残したダイイングメッセージ「カオリ」
父が学生の頃撮った3本の8ミリ映画でヒロインの名前がいつも「カオリ」だった。
歴代のカオリに会いに行く娘。父のメッセージの真相とは?というミステリー仕立てのストーリーに、推理小説好きなら心掴まれること受け合い。
ラストの謎の解き明かし方も、じつに腑に落ちるというか、犯罪小説では無いけれどミステリーの王道だ。
さらに父が昔撮った8ミリ映画の再現映像でも、娘役の女優(芋生悠)がカオリを務めるという二重の入れ子構造はまことに映画的。
父の第2作が拳銃アクションで、学生映画は銃を使いたがるんだ、というナレーションが学生の頃映研の連中に銃持たせてスパイ映画撮ってた自分に大ヒットして、ドッカンドッカンウケた。シネカリのマズルフラッシュとか、ええ私もやりましたよ。
『僕の秘密の東京』
台湾からの出品作。
見慣れた東京の映像だけど、ストーリー的にも特別凝ったものでは無いけれど、外国語で語り字幕で読むだけで溢れてくる情感。ずるいなー。そうか、俺もニューヨークで日本語で映画撮れば向こうの審査員に評価されるのかもしれないなどと考えたり。
それでも、人物を撮れなくなった主人公が最後にヒロインを撮る、そのカットに、主人公の成長と恋愛の予感を匂わせてくるあたり、教科書的な展開ではあるけれど、やっぱり上手いなーと、綺麗なだけの映画ではないなと思った。
主役の男女は今回の映画祭でのベストルックス。
『サトウくん』
グランプリ
山崎貴賞
串田和美賞
商店街映画祭10回の歴史でグランプリを二回とった監督がついに現れた。
グランプリと準グランプリとか(井上さん)、審査員賞複数(松本さん)とかそういう例はあるけれど、10回目にしてついに来たかと、第一回以来毎回深く深く商店街映画祭に関わって来た私には感慨深い。
アカデミー賞ならビリー・ワイルダー、ミロシュ・フォアマン、イーストウッドだよ。(余談…打ち上げにて、日本アカデミー賞なら山崎さんですねと言ったら、多分次で是枝さんに抜かされますと山崎監督は笑って仰ってました)
(余談2…打ち上げにて去年の準グラの谷口さんが映画祭スタッフのあんまり映画に詳しくない女の子に自分の好きな映画を紹介する話の中で「アパートの鍵貸します」と言ってその子がたじろいでいたのが面白かった、とワイルダーつながりでどうでもいい話を)
佐々木さんとは第一回商店街映画祭より前の2006年にうえだ城下町映画祭で出逢った。私は審査員賞で、佐々木さんはグランプリだった。お金がなくて宿がなくて困っていた佐々木さんを上田の妻の実家に泊めてあげてからの交流で、その後も脚本や編集済みシーンを見せ合いっこするような関係だった。
2012年に商店街映画祭への出品を依頼したがこの時はなぜかわからないが出品しなかった。原発事故で皆が逃げ出した商店街に1人残る女性と、彼女を連れて行こうとする妻子持ちの男の話だった。もし出していれば入選は間違いなかったろうし、もしかすると入賞も。
その後2013年に「隕石とインポテンツ」という映画でカンヌ国際映画祭の短編部門にノミネートされた。この時はジェーン・カンピオンに審査された。
そして2014年開催の商店街映画祭に、それとは別の短編を見て今度こそ出品をと頼んだ。その作品の「海辺の町編」は商店街映画祭グランプリを受賞した。「編」というへんなタイトルだが、実は4作くらいの短編オムニバスの一編で、商店街が描かれているのは「海辺の町編」だけだった。
この時は入選作の中では別格感があった。佐々木さんを商店街映画祭に紹介できて私は仕事を果たしたと思い、その年に松本を離れて首都圏に移った。
私が首都圏で初めての映画制作をする際に佐々木さんは役者集めの助言をしてくれたし、脇役の男性を演じる役者も紹介してくれた(実は最初はその役は佐々木さんにやってもらおうと思っていたのだけど)
佐々木さんの渾身の長編映画「鈴木さん」は2014年ごろから企画は進んでいたのだが、中々クランクインできなかった。そして鈴木さんを追い抜いてヨシモト制作で短編「サトウくん」を発表。
完成したのは2016年で「君の名は。」が大ヒットしていた頃だった記憶がある。だから宇宙からなんかがやって来た映画を「君の名は。」と同じタイミングで出すところにタイムリーさを感じたが、佐々木さんはその頃「君の名は。」は観ていなかった。まあ、入れ替わりも女子高生もタイムスリップもないから全然違う話なんだけど、そういえば「隕石とインポテンツ」と合わせれば「君の名は」っぽくなったりして。ならないって。
戦前に回帰していくかのように緩やかに全体主義へと移っていくかのような日本への危惧みたいなものが佐々木さんの作品からはいつも感じられる。
「海辺の町編」だって、人を飲み込んで吸収する東京を、逆に空洞化していく地方から見た作品で、それは少数派の切り捨てや権力の集中への批判と言えなくもない。
「サトウくん」もポリティカルSF短編などと妙なキャッチコピーをつけていた。
三重県菰野町を舞台にしたヨシモトの「あなたの町に住みたいプロジェクト」の一環で制作された短編
しかし町を追い出す人々の映画制作にゴーを出す菰野町の器の大きさ!映画制作や芸術創作に理解のある町なのだと思います。
今年の1月に新宿で鑑賞した際の感想を転記
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この映画は宇宙難民を描く事で日本が知らぬ存ぜぬを決め込む難民問題を日本に現出させている。
ラストの人々の声に混じって次第に大きくなる「ニッポン!ニッポン!」の掛け声は紛れもなくこの国への皮肉であり警鐘だ。
サトウくんという名前は言うまでもなく日本人の代表的な苗字であり、サトウくんは日本人になりたかった宇宙人なのだ。しかし日本人は外来者を排除しようとしたのだ。
とは言え映画に出てくる町の人たちは、あからさまな右翼っぽい人たちはいなくて、むしろ気の良さそうなどこにでもいるおっちゃんやおばちゃんたちだ。
監督はこうした単体では「普通」で「無害」で「善良」な人たちが、いざ集団となると、差別をし、排斥する者たちに変貌していくことの恐怖なり批判なりをこの映画で訴えたかったに違いない。
実際監督ご本人が「集団に対する不信感」と舞台挨拶で口にしていた。
この映画はわかりやすい欠点もある。
絶対に風光明媚な風景を想定していたロープウェイや高原のシーン。大雪どころか吹雪と言ってもいい天候での撮影となっている。
外国人の女の子が観光名所の一つの立て札の前で写真撮ってよーと言うところ、写真どころじゃないだろ、早く避難しないと死ぬぞって思うほどの雪模様。絵面が気になって内容が入ってこない。
ロケ地も近鉄沿線の町だから例年なら冬とはいえあそこまで雪が降ることはないのだろう。
多分予算かスケジュールかその両方の理由で、うん10年に一度の大雪にぶち当たってしまっても撮影延期はできなかったのだと思う。
しかし、才能ある映画作家は強運を呼び込む引力を持っている。
地獄のような雪景色で撮影を敢行したことが功を奏し、その後のシーン、この映画のクライマックスと言えるお風呂のシーンがとてもとても暖かく感じられるのだ。
大雪は計算外だったろうけど、その後のお風呂の暖かさもまた計算外。
計算外こそ、実写映画を作る魅力で、いい監督ほど、計算外が結果として良い方向に行くものだ。
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さて佐々木さんは新作長編近未来映画「鈴木さん」をついにクランクインさせ絶賛撮影中。
そのため会場に来れず、作品関係者と言えなくもない私が代理で受賞することに。
持ちきれないほどの賞状や賞品を持つという稀有な体験をさせてもらいました。
いつかちゃんと自分の作品で体験する。
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そんな私の2016年作品「唯一、すべて」は大府ショートフィルムフェスティバルのセレクト作品に選出され、2019年1月26日愛知県大府市愛三文化会館にて上映予定。
2017年撮影「不完全世界」(古本恭一と共同監督)、2018年撮影の「巻貝たちの歓喜」は現在編集中で2019年春完成予定です!
ドキュメンタリー、アニメ、コメディ、シリアス、ハートフル、微妙にアクション、海外作品とバラエティに富んでいて最高に面白かったです。
商店街を描いた20分以内の短編作品
全国から30くらいの作品が寄せられ8作品が入選作として上映された。
『Grateful Days』
埼玉県志木市の商店街で活動するヒップホップグループを追ったドキュメンタリー。一々ラップで受け答えするラッパーたちのウザさが面白い。ただ作品としては現実を切り取っただけで、問題提起の前で終わっている印象。とはいえラッパーたちのリアルはどこか心に引っかかる。
友達のラッパーのMC係長に観せたい作品。
『町のお肉屋さん〜小さな町の小さなお店から〜』
とある商店街の肉屋さんのドキュメンタリー。しかし商店街とは言っても営業しているのはそのお肉屋さんだけ。他の店は全てシャッターが降りている。かつて賑やかだったころの写真や思い出話。高層マンションの並ぶ商店街前の通り。それでも肉屋を続ける店。コロッケや唐揚げを買っていく常連のお客さんたち。いつかこの店も閉じてしまうのだろうけど、お店のおじちゃんとおばちゃんは今この瞬間の肉の切り方や揚げ具合を真剣にでも楽しそうに追求している。
サトウくんを別格扱いとした上でもし齋藤賞があるならこの作品に与えたい。
『公衆電話』
公衆電話からの着信を告げるスマホの画面。
相手はお父さん。友達には標準語で喋る30歳の誕生日を迎えたばかりのヒロインは、公衆電話からかけてきた相手には「んだずー」と山形弁で喋る。相手は父親。
スマホやSNSで繋がっていない不器用な2人のコミュニケーションを如何にするかが、この作品の命題。つまりコミュケーションの映画なわけである。
短い時間できちんとオチをつけて、父娘それぞれのちょっとした成長も描いてまとめるところは、短編映画の教科書のようで、観ていてスッキリする。
ただ個人的には山形から来たお父さんはもっとダサくて芋くさいおっさんをキャスティングすべきだったと思うなー。カッコ良すぎだよ父さん!
『ピリオド・オブ・ザ・マウスマン』
監督の平林君は(今作ではピエールなんとかと別名でクレジットしているが)、気がつけば商店街映画祭入選4回目。
彼の初応募作「マツモトくん」は実は私も審査に加わっていた時の作品で、まあ酷いできだった!(笑
その作品は入選を逃したものの、翌年の「マツモトくん」パート2は無駄にクオリティが上がり初入選。以来、「村崎十郎」とともに、毎回山崎貴監督がビデオコメントでこき下ろすのが定番化した、観ると文句しか出ないが無いと寂しい、なんだか「七人の侍」における村にたどり着く前の三船敏郎のような存在となった。
ちなみにマツモトくんの第3作か4作だったか、忘れたけど、ともかくその辺の作品は、イジメ問題に容赦なく切り込む社会派映画かと思わせて結局どっかの街が全滅するディストピア・ビギンズな作りが個人的にはすごいウケた。
そんな平林君が無謀にも、いや賢明にも、マツモトくんを捨てて、新キャラクター「マウスマン」を登場させ、これまでの実写映画からフルアニメーションに表現方法も180度変えて再参戦。
テレ東深夜枠ノリのアニメとして、中々のクオリティで攻めてくる。
映画のタブーに挑戦しましたとかのたまってるけど今までお前がやってきたこととそう変わらんだろ!と突っ込みつつ、なんだか実家に帰ったような安心感を味わえたならあなたは商店街映画祭にかなりハマってます
『純朴な梨農家の青年に、トラックか襲いかかる』
準グランプリ受賞作。
ヨシモト制作ながら映画としてのクオリティは(狙いでもあろうが)ぶっちゃけ1番低く、作りが、編集が、演技が、演出が、脚本が、全部「雑」
けれども、そこに腹は立たない。むしろ楽しく見れる。関わった人たち、特に地元のおっちゃん、おばちゃん、ねーちゃん、にーちゃんたちの笑顔が伝わってくる。エキストラの自然なニヤケ顔をカメラは逃さない。あ、その意味では編集は雑じゃ無いのかも。
そういえば、いつも一本くらいおちゃらけた作品が賞をとってきた商店街映画祭の歴史を振り返るに、これの準グランプリ受賞は商店街映画祭のカラーと言える気もする。
『ヒロイン』
脚本に前回入選の野元梢さんが加わっていて、主演が商店街映画祭が見出した廣賢一郎君が撮った長編映画「あの群青の向こうへ」でも主演を務めた芋生悠(イモオハルカ)さんで…自主映画の世界って意外と狭いよなーとか、いやむしろ廣君が自主映画の第一線に立った証なのかとか、感慨にふける。
監督の松崎まことさんに、廣君の映画で主演した娘ですよねと聴いて、おっさん2人で廣君の悪口で盛り上がってたら商店街映画祭のスタッフとして動員されていた廣君がどうもとやって来た。本人登場で悪口大会は終わるかと思いきや余計に盛り上がるという、なんかいやなオッサンですみませんね、廣君。
さておき、映画はとても良い。
父が死の間際に残したダイイングメッセージ「カオリ」
父が学生の頃撮った3本の8ミリ映画でヒロインの名前がいつも「カオリ」だった。
歴代のカオリに会いに行く娘。父のメッセージの真相とは?というミステリー仕立てのストーリーに、推理小説好きなら心掴まれること受け合い。
ラストの謎の解き明かし方も、じつに腑に落ちるというか、犯罪小説では無いけれどミステリーの王道だ。
さらに父が昔撮った8ミリ映画の再現映像でも、娘役の女優(芋生悠)がカオリを務めるという二重の入れ子構造はまことに映画的。
父の第2作が拳銃アクションで、学生映画は銃を使いたがるんだ、というナレーションが学生の頃映研の連中に銃持たせてスパイ映画撮ってた自分に大ヒットして、ドッカンドッカンウケた。シネカリのマズルフラッシュとか、ええ私もやりましたよ。
『僕の秘密の東京』
台湾からの出品作。
見慣れた東京の映像だけど、ストーリー的にも特別凝ったものでは無いけれど、外国語で語り字幕で読むだけで溢れてくる情感。ずるいなー。そうか、俺もニューヨークで日本語で映画撮れば向こうの審査員に評価されるのかもしれないなどと考えたり。
それでも、人物を撮れなくなった主人公が最後にヒロインを撮る、そのカットに、主人公の成長と恋愛の予感を匂わせてくるあたり、教科書的な展開ではあるけれど、やっぱり上手いなーと、綺麗なだけの映画ではないなと思った。
主役の男女は今回の映画祭でのベストルックス。
『サトウくん』
グランプリ
山崎貴賞
串田和美賞
商店街映画祭10回の歴史でグランプリを二回とった監督がついに現れた。
グランプリと準グランプリとか(井上さん)、審査員賞複数(松本さん)とかそういう例はあるけれど、10回目にしてついに来たかと、第一回以来毎回深く深く商店街映画祭に関わって来た私には感慨深い。
アカデミー賞ならビリー・ワイルダー、ミロシュ・フォアマン、イーストウッドだよ。(余談…打ち上げにて、日本アカデミー賞なら山崎さんですねと言ったら、多分次で是枝さんに抜かされますと山崎監督は笑って仰ってました)
(余談2…打ち上げにて去年の準グラの谷口さんが映画祭スタッフのあんまり映画に詳しくない女の子に自分の好きな映画を紹介する話の中で「アパートの鍵貸します」と言ってその子がたじろいでいたのが面白かった、とワイルダーつながりでどうでもいい話を)
佐々木さんとは第一回商店街映画祭より前の2006年にうえだ城下町映画祭で出逢った。私は審査員賞で、佐々木さんはグランプリだった。お金がなくて宿がなくて困っていた佐々木さんを上田の妻の実家に泊めてあげてからの交流で、その後も脚本や編集済みシーンを見せ合いっこするような関係だった。
2012年に商店街映画祭への出品を依頼したがこの時はなぜかわからないが出品しなかった。原発事故で皆が逃げ出した商店街に1人残る女性と、彼女を連れて行こうとする妻子持ちの男の話だった。もし出していれば入選は間違いなかったろうし、もしかすると入賞も。
その後2013年に「隕石とインポテンツ」という映画でカンヌ国際映画祭の短編部門にノミネートされた。この時はジェーン・カンピオンに審査された。
そして2014年開催の商店街映画祭に、それとは別の短編を見て今度こそ出品をと頼んだ。その作品の「海辺の町編」は商店街映画祭グランプリを受賞した。「編」というへんなタイトルだが、実は4作くらいの短編オムニバスの一編で、商店街が描かれているのは「海辺の町編」だけだった。
この時は入選作の中では別格感があった。佐々木さんを商店街映画祭に紹介できて私は仕事を果たしたと思い、その年に松本を離れて首都圏に移った。
私が首都圏で初めての映画制作をする際に佐々木さんは役者集めの助言をしてくれたし、脇役の男性を演じる役者も紹介してくれた(実は最初はその役は佐々木さんにやってもらおうと思っていたのだけど)
佐々木さんの渾身の長編映画「鈴木さん」は2014年ごろから企画は進んでいたのだが、中々クランクインできなかった。そして鈴木さんを追い抜いてヨシモト制作で短編「サトウくん」を発表。
完成したのは2016年で「君の名は。」が大ヒットしていた頃だった記憶がある。だから宇宙からなんかがやって来た映画を「君の名は。」と同じタイミングで出すところにタイムリーさを感じたが、佐々木さんはその頃「君の名は。」は観ていなかった。まあ、入れ替わりも女子高生もタイムスリップもないから全然違う話なんだけど、そういえば「隕石とインポテンツ」と合わせれば「君の名は」っぽくなったりして。ならないって。
戦前に回帰していくかのように緩やかに全体主義へと移っていくかのような日本への危惧みたいなものが佐々木さんの作品からはいつも感じられる。
「海辺の町編」だって、人を飲み込んで吸収する東京を、逆に空洞化していく地方から見た作品で、それは少数派の切り捨てや権力の集中への批判と言えなくもない。
「サトウくん」もポリティカルSF短編などと妙なキャッチコピーをつけていた。
三重県菰野町を舞台にしたヨシモトの「あなたの町に住みたいプロジェクト」の一環で制作された短編
しかし町を追い出す人々の映画制作にゴーを出す菰野町の器の大きさ!映画制作や芸術創作に理解のある町なのだと思います。
今年の1月に新宿で鑑賞した際の感想を転記
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この映画は宇宙難民を描く事で日本が知らぬ存ぜぬを決め込む難民問題を日本に現出させている。
ラストの人々の声に混じって次第に大きくなる「ニッポン!ニッポン!」の掛け声は紛れもなくこの国への皮肉であり警鐘だ。
サトウくんという名前は言うまでもなく日本人の代表的な苗字であり、サトウくんは日本人になりたかった宇宙人なのだ。しかし日本人は外来者を排除しようとしたのだ。
とは言え映画に出てくる町の人たちは、あからさまな右翼っぽい人たちはいなくて、むしろ気の良さそうなどこにでもいるおっちゃんやおばちゃんたちだ。
監督はこうした単体では「普通」で「無害」で「善良」な人たちが、いざ集団となると、差別をし、排斥する者たちに変貌していくことの恐怖なり批判なりをこの映画で訴えたかったに違いない。
実際監督ご本人が「集団に対する不信感」と舞台挨拶で口にしていた。
この映画はわかりやすい欠点もある。
絶対に風光明媚な風景を想定していたロープウェイや高原のシーン。大雪どころか吹雪と言ってもいい天候での撮影となっている。
外国人の女の子が観光名所の一つの立て札の前で写真撮ってよーと言うところ、写真どころじゃないだろ、早く避難しないと死ぬぞって思うほどの雪模様。絵面が気になって内容が入ってこない。
ロケ地も近鉄沿線の町だから例年なら冬とはいえあそこまで雪が降ることはないのだろう。
多分予算かスケジュールかその両方の理由で、うん10年に一度の大雪にぶち当たってしまっても撮影延期はできなかったのだと思う。
しかし、才能ある映画作家は強運を呼び込む引力を持っている。
地獄のような雪景色で撮影を敢行したことが功を奏し、その後のシーン、この映画のクライマックスと言えるお風呂のシーンがとてもとても暖かく感じられるのだ。
大雪は計算外だったろうけど、その後のお風呂の暖かさもまた計算外。
計算外こそ、実写映画を作る魅力で、いい監督ほど、計算外が結果として良い方向に行くものだ。
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さて佐々木さんは新作長編近未来映画「鈴木さん」をついにクランクインさせ絶賛撮影中。
そのため会場に来れず、作品関係者と言えなくもない私が代理で受賞することに。
持ちきれないほどの賞状や賞品を持つという稀有な体験をさせてもらいました。
いつかちゃんと自分の作品で体験する。
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そんな私の2016年作品「唯一、すべて」は大府ショートフィルムフェスティバルのセレクト作品に選出され、2019年1月26日愛知県大府市愛三文化会館にて上映予定。
2017年撮影「不完全世界」(古本恭一と共同監督)、2018年撮影の「巻貝たちの歓喜」は現在編集中で2019年春完成予定です!