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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

誰も知らない

2004-11-03 21:22:03 | 映評 2003~2005
是枝裕和の最高傑作と呼ぶのに何のためらいもない。
思えば前作「ディスタンス」。すごくつまんなかったけど、是枝監督的には確かな手応えがあったのだろう。今作「誰も知らない」は、明らかに「幻の光」や「ワンダフル・ライフ」の延長ではなく「ディスタンス」の姉妹編である。
社会問題を題材にしながら、一般とは異なる切り口、別の視野での見方を試すという点。段取り的な芝居を避けて、演技指導は言ってみれば俳優たち自身にまかせ、感情をモンタージュではなく芝居それ自体から溢れ出させようとする点。「幻の光」ではちょっと力み過ぎてた感もあるきれいな映像を撮ろうという衝動が最早ほとんど無くなっている点…などなど。
「ディスタンス」から煮詰め始めた己のスタイルをたった2作で完成させてしまった。
「ディスタンス」ではオウム真理教の事件をモチーフにしながら、加害者の家族たちのドラマという、報道ではあまり扱われない人たちを題材にした。
しかし、設定が不自然だったり、結局のところ複数の登場人物一人一人が回想を繰り返すだけといった構成も悪く、ただ退屈なだけの映画になってしまった。
「誰も知らない」は、母親に育児放棄された子供たち4人が電気もガスも水道もない最悪の生活環境の中、誰にも知られず生きていくという話。東京で実際に起きた事件を題材にしつつも、ワイドショーや週刊誌や新聞なら、母親の無責任ぶりを責め、悲惨な生活を続けた子供たちに同情する報道にばかり力を入れるところを、2DKのアパートに作られた子供たちのユートピアの姿を追い続けている。
母親はひどい女だが、監督は単純に憎しみの対象としては描かない。出番自体、最初の方にしかないし、出てくると愛嬌たっぷり。YOUなんていう女優でもなんでもない女をうまく担いで、最高のはまり役にしてしまった。
最も賞賛に値するのは4人の子役たちで、みんな愛おしくてたまらない。外のシーンではなるべくカメラを意識させないためか、カメラは遠い。おかげで子供たちから最高にナチュラルな芝居を引き出す。メイン舞台となる2DKのアパート内ではカメラは当然近い。それでも子供たちはカメラを意識せず、いつも通りの生活を続けているかのように振舞う。おそらく膨大な量のフィルムを回していい所を必死で探して編集したのだろうが。
反面、多少芝居がかったシーン。万引きのシーン、援交のシーンなんかがちょっと浮いてるような気がして、惜しい。
でもそんな些細な減点など、この映画の圧倒的な輝きの前には問題にもならない。映画も後半になると子供の姿見てるだけで泣けてくる。悲劇的なクライマックスまで行く前に泣ける。
アパートを一年間借り切って、一年かけて濃密な共同生活のような撮影を続けたことによって可能となった映画。思い付いても中々撮れるものではない。
子役たちも一年でどんな成長をするか、撮影前には予想もできない。主役の優弥くんも背はのびるし声も変わる。最初子供の顔だった彼は、終盤には男の顔になっていたよ。子役たちの成長を追ったドキュメンタリーのような味わいもある。
映画は子供たちや母親がその後どうなったのかを語ることなく、子供たちの今を生きる後ろ姿を捉えて終る。子供たちのユートピアは(題材となった事件のように)、何らかの形でピリオドを打たれるのだろうが、映画では子供たちは過去も未来もなくひたすらに今を精一杯生きる。それだけで充分なのさ。


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