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重力ピエロ [監督:森淳一]

2009-06-15 23:15:21 | 映評 2009 日本映画
個人的評価: ■■■□□□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]

ドラマ部分は泣けたのに、作りの粗さが目立ってついつい文句を言いたくなる映画であった。

すごーく当たり前なことから書くが、小説と映画の違いは、小説には映像と音響の束縛がないこと・・・である。
伊坂幸太郎の本は2冊くらい読んだことがあるが、「重力ピエロ」は未読である。だから映画化にあたってどの程度脚色されたのか知らないが、ストーリーに映像と音響が付加されたことへの配慮不足が感じられる場面がいくつかあって気になった。

---以下ネタパレ---

大学の講義中の場面、講師の声だけが響き学生たちは講師のジョークに笑いはするが基本的には雑談せず静かに聴いている。
その講義中に主人公と友人が普通の声量で雑談をする。このDNAの基礎構造に関する論文を書いたのは**が25才の時だ・・・という講師の話を受けて「25才だってさ」「アインシュタインが3大論文を出したのは26才だ。だからまだ1年ある」という会話。
広い講義室とはいえ、ひそひそ話にでもしないと目立つだろう・・・と違和感を感じる。小説にこの場面があったのかはわからないが、無音世界の小説ならこの音による違和感は無かったと思う。
せめて講師が喋ったところで授業終了のベルが鳴ってそこで会話に移ればこの違和感は無かっただろう。

そんなの大したことじゃないだろう、難くせつけるな・・・と、この場面に関してはそう言われてもいい。
だが、映像がついたことでストーリーの先が読めてしまったことはどうだろうか。
回想シーンにちらと写るテレビのワイドショーの中の地図と、現在のシーンで弟が見ている地図。そのよく似た絵のせいで事件の全貌も犯人も予想がついてしまった。
映像の伴わない小説ならこの段階でストーリーはまだ先が読めなかっただろう。

そして映像は作品にリアリティを要求する。ただ筋を追うだけでなく、もっともらしい画作りが必要になる。
私は火災現場に飛び込んだ経験があるわけではない。だからといって退路を失うくらい炎につつまれた家の中で2人の人間がほぼ直立不動で会話をするクライマックスにはリアリティがない・・・と批判する権利を失いはしないだろう。

弟のどの写真を観ても必ず写り込んでいるストーカーの夏子さんについても、ギャグなんだからあれでもいいのだけれど、本来ストーカーは写る側でなく写す側に立つんじゃなかろうか・・・とそんなことも考える。

また兄弟の話がメインとなる現在パートと、両親の若い頃がメインとなる回想パートが交互に進む本作においては、その両方のパートに登場する俳優にどれだけリアリティを持たせるかが重要となろう。
現在パートにおける小日向文世は見事な演技で兄弟の父親を演じるが、回想シーンに登場するサラサラ前髪だが顔の皺は隠せない小日向文世は苦笑ものであった。小日向とのバランスを考えての鈴木京香というキャスティングであろうが、これは私の趣味の話だがおばさんくさい容貌の彼女はミスキャストに感じた。もう少し若い女優か、年齢不詳な童顔の中堅女優に演じてほしかった。

それやこれや考えると、この作品は実写でなくアニメで映像化するのがベストだったのではと思う。そうすると上記のような違和感や不満のほとんどは消えるか緩和されるかしたように思える。

あとこれは、演出や脚本の問題ではなく恐らく原作自体の問題だと思うが、兄が弟の共犯者にならない展開がどうも不満だ。
バラエティやニュースで知る限りの日本の警察の捜査力を持ってすれば、遅かれ早かれ警察は事件の真相に行きつくだろう。
ただ傍観していただけの兄は大した罪には問われないはずだ。兄の弟に対する言動は、ただ兄が弟を切り捨てただけのようにも思える。
弟の知らないところで兄が事件の隠蔽工作を行うとかして、共犯者となることで兄弟の絆を強くしてほしかった。
その方が、父親の兄弟に対する台詞も活きた気がするし、またそうしたからといってラストの「二階から春が降ってきた」という台詞から受ける爽快感が損なわれることも無かった筈だ。

[追記]
主役の兄弟は容貌も演技も完璧だった。
加瀬亮ってほんとにうまい芝居する人だと思う。

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