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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ [監督:根岸吉太郎]

2009-11-06 19:00:10 | 映評 2009 日本映画
個人的評価: ■■■■■□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]

一名を除いて、演技の巧さ面白さにぐいぐい引き込まれる映画である
主人公の作家、大谷(=太宰治)が、かっこよくて滑稽で、冷酷でまぬけで、そんなクール&フーリッシュな人物像を浅野忠信は素晴らしい演技でもって体現している。
熱すぎず抜きすぎず、天然でもないが計算づくでもない、そんな浅野忠信の俳優としての資質がこの役にピタリはまっていた。
俳優が良かったかどうかは、観終わった直後に「ごっこ」ができるか否かで判断できる。本作鑑賞後しばらくは「太宰ごっこ」がやめられなくなったのであった(どんなに感情的な台詞でも必ず敬語にするみたいなところとか、「女郎を見てるようだ~」とか「グッドバイ」とか)。ただし一週間と経たずに「カイジごっこ」にとって替わられることになるのだが・・・

松たか子は持ち前の明るく楽しく大雑把な感じ(私の勝手な印象)も作品の中に消化吸収され、抜群の存在感を示す。今年度の映画賞を沢山獲るのではと予想。
すでに大物感ある筈の妻夫木聡くんは、しかしかつての青臭さをしっかり取り戻して、完璧な青二才を好演。
芝居がかった芝居が持ち味の堤真一さんは、その持ち味を「立派な社会人、ステータスの高さ」の表現へと転化。
芸達者たちが揃いも揃って、各々が完璧なプレイを見せてくれて、それだけでかなり満足度が高い。

それだけにあのアカデミー外国語映画賞受賞作で準主役を演じておられた元アイドルの芝居が残念でならない。
まわりがみんな巧いだけに、すごく目立つ。
特に登場人物みんながいつも酒を飲む本作において、酔っ払った演技が下手なのは致命的と言えないだろうか
浅野忠信の見事な酔っ払い演技(ほろ酔い、泥酔、酔いつぶれ、二日酔い、アル中、飲んで上機嫌、やけ酒・・・ありとあらゆる酒飲み演技を披露)をずっと観ているだけに、いやでも比較してしまう。
松たか子のやらなかったベッドシーンがを演じたのがせめてもの救い。
警察所で松たか子とすれ違う際のニヤリ笑いは絶品だったが、あれはもちろん演技ではなく演出の巧さである。

それにしても酒がテーマの作品であるかのように、やたらと酒を飲み続ける映画であった。
食べるという生命維持活動のシーンを意図的に削除し、体に悪い飲酒を強調するためにわざわざ用意された朝食のシーンが印象的だ。松たか子にわざわざ朝食を作らせて、食べるようにと勧めさせて、それでも食べることを拒否する浅野忠信。
しかもこの映画では酒に味がないかのごとく、浅野も妻夫木も堤も広末も、味気なく飲んでいる。
対して松たか子は、客商売だから当然だろうが、顔いっぱいで美味しさを表現し、客たちを盛り上げる。
松もふくめ、主要人物みんなが、飲まねばならない事情があって仕方なく飲んでいる。
松は客のため。妻夫木は松のそばにいたいため。堤は松と話がしたくて。広末は浅野を待つため。酒の飲み方で人間性を描き分けているようで面白かった。
みんなが人付き合いのために酒を飲むのに対して、浅野は同じ酒飲みでも異様だ。
誰のためでもなく、人生を否定するために酒を飲んでいるように見える。

未来から送り届けられる希望を拒否するためだけに、この世に命を繋ぎとめているような浅野忠信に、それでも生きていればいいじゃないと諭す松たか子の姿で物語はきれいにまとまる。二人のツーショットをラストカットに選択した監督の判断は完璧に正しい。原作を忘れていただけにどこに落ち着くか全く予想の付かなかった物語は、二人で生きるという完璧な着地点にスルリと降下したのであった。(脚本は「ツィゴイネルワイゼン」の田中陽造。やはり上手い人なんだなあ)

[追記]
またまた、感想でしかない話になるが、「味覚」を感じない映画ではあったが、「匂い」はとてもよく感じられる映画だった。小料理屋のシーンでは煮物の匂いが漂ってくるようだったし、油くさい街の匂いや森の匂いも嗅いだような気になった。
もちろんスクリーンから匂いが発生しているわけではない。何でだろうと思うに、隅々まで目を配ったセットとか、エキストラ一人一人にしっかりと演出をつけて、それらをしっかり写しこむことで、セット内に生活感を作り出し、それが匂いを感じさせたのだ・・・と思うことにする

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