個人的評価: ■■■■■□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]
若手監督の中では、私の一押し。まだ二作品しか見てないのに、これからが気になって気になって仕方ない監督。
横浜聡子。1978年生まれ。
「ジャーマン+雨」で、2007年度 映画監督協会新人賞、同年の「映画芸術」誌日本映画ベストテン第10位、2008年度の私の選出する日本映画ベストテン第5位と、数々の栄誉に輝いたことが記憶にあたらしい
そして今年(2009年)、キネ旬の6月上旬号にて「天才候補」として特集までくまれる。その後の「シナリオ」誌(2009年8月号)のインタビューでの「候補に止まってしまったり」「候補ですから(笑)」という言葉に、なにかのほほんとした人柄の良さを感じさせてくれるが、私は彼女を「候補」でなく「すでに天才」なんだと思いたい。
似たような映画ばかりが作られ、「○○というジャンルの中ではかなりデキがいい」という感想しか持てない昨今の映画界に、新ジャンルといってもいいような想像不可能な映画をもって風穴を開けてくれそうな、そんな監督を天才と呼ばずにいられようか。
既成の枠にとらわれない作風は、やはり自主作家ならではのものだろう。
本作は、人類の進化を描いたストーリーである。
進化といえば普通は、キューブリックの「2001年 宇宙の旅」であるとか、「ガンダム」のニュータイプであるとか、SF世界では定番のテーマではあるが、ラブストーリーというジャンルで「進化」を取りあげたのはあまり例がないのではなかろうか?
「生命の進化は恐怖によってもたらされたものか?」という問いかけを行い、それに応えて主人公は愛のために進化するのである。環境への適応とか新たな時代を切り開くためとか、そんな手垢のついた思想で人類を進化させたりはしない。すべては愛のためなのだ。看板に偽りなし。「ウルトラミラクルラブストーリー」なのだ。
そんな物語を考えつく頭脳がすさまじいし、それを松山ケンイチと麻生久美子で映画化してしまうパワフルさにも脱帽だ。
今はまだ「ジャーマン」の賞味期限内で物好きなプロデューサーが後押ししてくれる段階なのだろう。これからが横浜聡子という監督が映画史に名を刻む正念場だ。幸いなことに、金のために下らない純愛ものとかを撮れるような普通の意味での映画作家的才能はもってない気がするので、変に毒されることはないと思う。金にならない映画を金をかけずに自分のために撮っていってほしい。何がおこるかわからない妄想暴走系映画をこれからも撮り続けていってほしい。
前作「ジャーマン+雨」は、世界中の誰の真似でもない、きわめて独自なストーリーとアイデアにあふれ、自主映画作家が思いのままに夢想を映像化する様を羨望の眼差しで観たものだが、反面技術面では素人くささもかいま見られ、カット割の不備とかモンタージュの下手さを批判する声もあった。
予算が格段にあがり、有能なカメラマンも使うようになった本作では、前作の映像面の弱さをきちっと修正してきている。しかしそもそもがモンタージュ的な感覚で映画を作っているわけではなさそうな横浜監督は、弱点の克服よりむしろ得意な部分をのばすことに心血を注いだのではないかと思われる。
要するに、カット割りや編集ではなく、長回しの多用とその効果的な使い方に重点を置いて作品を洗練させてきたのである。
長回しで進化論に関する台詞を喋らせながら歩かせて、歩いた先の風景に台詞にあわせて変化をつけていく。演出は、でたらめじゃなく、ちゃんと計画性が感じられる。その変に、長回し術のさらなるステップアップにかける監督の意気込みを感じる。
そうした非モンタージュな演出スタイルは類まれなる才能を持つ俳優、松山ケンイチを得たことでさらにパワーアップする。水を得た魚のよう。松山ケンイチの森の中を飛び回る歓喜のパフォーマンスの場面は、天才俳優と天才監督の幸福な邂逅の記録映像なのだ。
だが一方で、ラストシーンでは正攻法なモンタージュが見事な効果を上げていて、これはこれで印象深い。
進化論と遊びと脳と熊と愛と恐怖のモンタージュ。突如現れた熊がある物をむさぼり食う姿と、それを観てふっと笑みを浮かべる麻生久美子。彼女の無駄のない芝居はいつも通り賞賛に値するとして、彼女のラストの笑みはあまりに色々な意味にとれ、この不思議な映画の全てが集約されているような完璧なショットであった。完璧なラストを作れる監督。やはり天才なのだ。
(ちなみにラストの私の解釈は・・・個人的な解釈なので意味はないのだが・・・生物進化の恐怖起源論を唱えていた町子先生と、恐怖でなく愛の力で進化した陽人との、進化論に関する学術対立に 「恐怖」>「愛」 の実証を果たした町子先生の「科学的勝利」に酔いつつも「所詮は生物ってそんなものか・・・」という落胆の入り交じった笑みなのだと解釈)
・・・とはいうものの、
自分で撮ってた「ジャーマン」よりはるかに安定感ある画になったとはいえ、まだまだ横浜聡子の感性にカメラマンがついてこれず、陳腐な映像、陳腐なモンタージュで終わってしまっている部分の方が、はるかに多い。
自分なりの画作りをものにしつつ、無駄な知識は身につけずに、物語の暴走は今まで通り続けていく・・・というとても難しい課題を抱えた作家である。
これからも応援していきたい。不滅・無敵の自主映画魂で映画界に新風を吹き込んでいってほしい!!
がんばれ横浜聡子監督!!
[追記]
作品公開前に放送された「タモリ倶楽部」に原田芳雄が出演し、「ウルトラミラクル~」の裏話を30分間語り続けていた。
それも番宣の類いの語りでなく、本作出演の条件として要求した寝台特急カシオペアの旅行記の話ばかり。映画の話はこれっぽっちもない。でもすごく面白かった。
原田芳雄は青森で撮る「ウルトラミラクル~」出演の条件に、前からの夢だったカシオペアの札幌からの切符とスウィートの予約を要求。映画のプロデューサーが、発売後数分で売り切れになるほどの超人気列車カシオペアの予約を取るために調べたところ、みどりの窓口担当者から「10時打ち」と呼ばれるテクニックの存在を嗅ぎ付け・・・みたいな話とカシオペアの自慢話をタモリに延々語るという内容だった。
撮影中、こころはすでにカシオペアに飛んでいたかもしれない原田芳雄だが、「ウルトラミラクル~」本編でもいつも通りの存在感を発揮し、この低予算映画にいい感じの高級感を与えてくれている。こういう実験的な映画にも理解を示す、すばらしい俳優さんである。
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若手監督の中では、私の一押し。まだ二作品しか見てないのに、これからが気になって気になって仕方ない監督。
横浜聡子。1978年生まれ。
「ジャーマン+雨」で、2007年度 映画監督協会新人賞、同年の「映画芸術」誌日本映画ベストテン第10位、2008年度の私の選出する日本映画ベストテン第5位と、数々の栄誉に輝いたことが記憶にあたらしい
そして今年(2009年)、キネ旬の6月上旬号にて「天才候補」として特集までくまれる。その後の「シナリオ」誌(2009年8月号)のインタビューでの「候補に止まってしまったり」「候補ですから(笑)」という言葉に、なにかのほほんとした人柄の良さを感じさせてくれるが、私は彼女を「候補」でなく「すでに天才」なんだと思いたい。
似たような映画ばかりが作られ、「○○というジャンルの中ではかなりデキがいい」という感想しか持てない昨今の映画界に、新ジャンルといってもいいような想像不可能な映画をもって風穴を開けてくれそうな、そんな監督を天才と呼ばずにいられようか。
既成の枠にとらわれない作風は、やはり自主作家ならではのものだろう。
本作は、人類の進化を描いたストーリーである。
進化といえば普通は、キューブリックの「2001年 宇宙の旅」であるとか、「ガンダム」のニュータイプであるとか、SF世界では定番のテーマではあるが、ラブストーリーというジャンルで「進化」を取りあげたのはあまり例がないのではなかろうか?
「生命の進化は恐怖によってもたらされたものか?」という問いかけを行い、それに応えて主人公は愛のために進化するのである。環境への適応とか新たな時代を切り開くためとか、そんな手垢のついた思想で人類を進化させたりはしない。すべては愛のためなのだ。看板に偽りなし。「ウルトラミラクルラブストーリー」なのだ。
そんな物語を考えつく頭脳がすさまじいし、それを松山ケンイチと麻生久美子で映画化してしまうパワフルさにも脱帽だ。
今はまだ「ジャーマン」の賞味期限内で物好きなプロデューサーが後押ししてくれる段階なのだろう。これからが横浜聡子という監督が映画史に名を刻む正念場だ。幸いなことに、金のために下らない純愛ものとかを撮れるような普通の意味での映画作家的才能はもってない気がするので、変に毒されることはないと思う。金にならない映画を金をかけずに自分のために撮っていってほしい。何がおこるかわからない妄想暴走系映画をこれからも撮り続けていってほしい。
前作「ジャーマン+雨」は、世界中の誰の真似でもない、きわめて独自なストーリーとアイデアにあふれ、自主映画作家が思いのままに夢想を映像化する様を羨望の眼差しで観たものだが、反面技術面では素人くささもかいま見られ、カット割の不備とかモンタージュの下手さを批判する声もあった。
予算が格段にあがり、有能なカメラマンも使うようになった本作では、前作の映像面の弱さをきちっと修正してきている。しかしそもそもがモンタージュ的な感覚で映画を作っているわけではなさそうな横浜監督は、弱点の克服よりむしろ得意な部分をのばすことに心血を注いだのではないかと思われる。
要するに、カット割りや編集ではなく、長回しの多用とその効果的な使い方に重点を置いて作品を洗練させてきたのである。
長回しで進化論に関する台詞を喋らせながら歩かせて、歩いた先の風景に台詞にあわせて変化をつけていく。演出は、でたらめじゃなく、ちゃんと計画性が感じられる。その変に、長回し術のさらなるステップアップにかける監督の意気込みを感じる。
そうした非モンタージュな演出スタイルは類まれなる才能を持つ俳優、松山ケンイチを得たことでさらにパワーアップする。水を得た魚のよう。松山ケンイチの森の中を飛び回る歓喜のパフォーマンスの場面は、天才俳優と天才監督の幸福な邂逅の記録映像なのだ。
だが一方で、ラストシーンでは正攻法なモンタージュが見事な効果を上げていて、これはこれで印象深い。
進化論と遊びと脳と熊と愛と恐怖のモンタージュ。突如現れた熊がある物をむさぼり食う姿と、それを観てふっと笑みを浮かべる麻生久美子。彼女の無駄のない芝居はいつも通り賞賛に値するとして、彼女のラストの笑みはあまりに色々な意味にとれ、この不思議な映画の全てが集約されているような完璧なショットであった。完璧なラストを作れる監督。やはり天才なのだ。
(ちなみにラストの私の解釈は・・・個人的な解釈なので意味はないのだが・・・生物進化の恐怖起源論を唱えていた町子先生と、恐怖でなく愛の力で進化した陽人との、進化論に関する学術対立に 「恐怖」>「愛」 の実証を果たした町子先生の「科学的勝利」に酔いつつも「所詮は生物ってそんなものか・・・」という落胆の入り交じった笑みなのだと解釈)
・・・とはいうものの、
自分で撮ってた「ジャーマン」よりはるかに安定感ある画になったとはいえ、まだまだ横浜聡子の感性にカメラマンがついてこれず、陳腐な映像、陳腐なモンタージュで終わってしまっている部分の方が、はるかに多い。
自分なりの画作りをものにしつつ、無駄な知識は身につけずに、物語の暴走は今まで通り続けていく・・・というとても難しい課題を抱えた作家である。
これからも応援していきたい。不滅・無敵の自主映画魂で映画界に新風を吹き込んでいってほしい!!
がんばれ横浜聡子監督!!
[追記]
作品公開前に放送された「タモリ倶楽部」に原田芳雄が出演し、「ウルトラミラクル~」の裏話を30分間語り続けていた。
それも番宣の類いの語りでなく、本作出演の条件として要求した寝台特急カシオペアの旅行記の話ばかり。映画の話はこれっぽっちもない。でもすごく面白かった。
原田芳雄は青森で撮る「ウルトラミラクル~」出演の条件に、前からの夢だったカシオペアの札幌からの切符とスウィートの予約を要求。映画のプロデューサーが、発売後数分で売り切れになるほどの超人気列車カシオペアの予約を取るために調べたところ、みどりの窓口担当者から「10時打ち」と呼ばれるテクニックの存在を嗅ぎ付け・・・みたいな話とカシオペアの自慢話をタモリに延々語るという内容だった。
撮影中、こころはすでにカシオペアに飛んでいたかもしれない原田芳雄だが、「ウルトラミラクル~」本編でもいつも通りの存在感を発揮し、この低予算映画にいい感じの高級感を与えてくれている。こういう実験的な映画にも理解を示す、すばらしい俳優さんである。
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自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
一歩、こっち側ににじり寄っても、まだ大丈夫だと思いますが。
「ジャーマン・・」未見ですが、見たくなりました。
10人中多くて3人くらいが支持する大監督に育ってほしいので、あんまりメジャーににじり寄ってほしくないんですよね
個人的には
つっても食ってかなきゃならないし、うまく折り合いつけてほしいです
3作目ではじけるか、外すかが今後に大きく影響すると思います