自主映画制作工房Stud!o Yunfat 改め ALIQOUI film 映評のページ

映画作りの糧とすべく劇場鑑賞作品中心にネタバレ徹底分析
映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

映像作品とクラシック音楽 第37回『戦場のピアニスト』のショパン

2021-10-08 21:32:00 | 映像作品とクラシック音楽
映像作品におけるクラシック音楽の使い方とかについてグダグダ語ってみるシリーズということで、今回はショパンのピアノ曲が沁みるロマン・ポランスキー監督2001年作品『戦場のピアニスト』でお送りいたします。
実は今構想中の映画でショパンのノクターンかワルツを2曲くらい使おうと思ってまして、アシュケナージさんやアリス紗良オットさんのアルバムをよく聴いているところでもありまして、その流れでショパン音楽映画の最高峰を再見したのであります。

タランティーノの映画でロマン・ポランスキー監督の妻だったシャロン・テイトは惨殺の運命から救われました。
本当にそうなっていたら、ポランスキーはその後ジャック・ニコルソンの家で少女に淫行をすることもなかったかもしれませんし、その件でアメリカから逃げてヨーロッパで活動することもなかったかもしれません。とすると2001年に『戦場のピアニスト』を制作することもなかったかもしれません。
そんなもしもに想いを馳せつつ、幸か不幸か我々は今『戦場のピアニスト』というすばらしい傑作を観ることができます。

本作はピアニストのウワディスラフ・シュピルマンの自伝を原作にしています。ナチスに支配されたポーランドでユダヤ人のシュピルマンは死の恐怖に怯えながら隠れて暮らした数年間。ピアニストである彼はピアノを弾くこともできないまま音をたてないようにして暮らします。
本作はタイトルがピアニストなわりにビアノ演奏シーンは少ないです。それはもちろん、生きる喜びを奪われてつのる閉塞感、不満、鬱憤、渇望を強調するためです。
そして、クライマックスは実に素朴な、二人だけのピアノコンサートです。
空き家に潜伏していたシュピルマンは、空腹と栄養失調で死にそうなほど衰弱していたところを一人のドイツ将校に見つかります。しかし彼はシュピルマンをユダヤ人のピアニストと知って、撃ち殺すでも、逮捕するでもなく、その空き家の一室のピアノのところに連れていき、弾いてみろと言います。
何年かぶりでピアノに触るシュピルマンですが、ショパンのバラード第一番を演奏します。そのシーンは、殺されるかもしれない緊張感から始まり、やがてはたとえこのまま撃ち殺されようとも今ピアノを弾ける喜び、があふれてきます。
そしてドイツ将校は何を思ったか、彼を見逃すどころか、食べ物を持ってきて助けてあげます
彼がなぜそうしたかは一切説明されません。

芸は身を助けるのものだのお…という呑気な話ではありません
あのドイツ将校いい人だったなあ…で済む話でもありません

もしシュピルマンが、腕をけがしていてピアノが弾けなかったり、弾けても下手だったり、いやそもそもピアニストじゃなかったとしたら、ドイツ将校はそれでも彼を助けたのでしょうか?
それはわかりません
またあのドイツ将校は普段からユダヤ人を助けていたのでしょうか
あの時代のドイツで軍務についていてそれなりの地位にいてユダヤ人の逮捕に全く関わらないというのは無いかもしれません。あったとしても彼個人をどこまで責めれるのか、その当時を生きないとなんとも言えません。
ネットで調べるとあのドイツ将校はシュピルマン以外にもユダヤ人を助けたことがあったとのことですが、それもどこまで信用していい話なのかわかりません。

きっとポランスキー監督はあえて、ドイツ将校についての情報を映画内ではほとんど伝えず、伝えようにも情報がそれほどないのもあり、あえて彼のバックグラウンドは一切描かずに、彼がシュピルマンにピアノを弾かせ、そして匿ったという事実だけを、シュピルマン目線の映画なので彼が知り得ない情報は一切付け足さずに描いたのでしょう。

『シンドラーのリスト』は善意によって助けられたユダヤ人たちの話ですが、『戦場のピアニスト』は善意だったかもしれないし幸運だったかもしれないし努力かもしれないし生きようという意志のおかげだったかもしれません。

シュピルマンを演じたエイドリアン・ブロディは本作で当時史上最年少でのアカデミー主演男優賞を受賞しました。ピアノは実際に弾いてはいますが音は吹替えです。ヤーヌシュ・オレイニチャクというポーランドのピアニストによるものです。ブロディは本作以降も特長的な風貌を活かしバイプレーヤーとして、味のある役者として活躍していますね。『キングコング』の文系やさ男な感じ良かったですね。
ドイツ将校を演じたトーマス・クレッチマンは本作で有名になり、その後のハリウッド映画でドイツ人役でよく出るようになりました。ドイツ人役だからってナチで悪役ってわけでなく、どっちかと言うと、「いいドイツ人役」が多いように思います。また韓国映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』(←傑作!!)で光州事件を取材するドイツ人ジャーナリスト役として出演しソン・ガンホとのダブル主演を果たしています。

今回紹介するCDは戦場のピアニストのサントラになります
劇中のピアノ演奏シーンは少ない本作ですが、劇中冒頭で使われたノクターン20番、最も印象的なシーンのバラード1番、ラストシーンおよびエンドクレジットで使われて深い余韻を与えた「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ変ホ長調作品22」が収録されています。さらに劇中で使われなかったショパン作品も数曲収録されており、サントラと言うよりちょっとしたショパン名曲選アルバムです。
ピアノ演奏は前述のヤーヌシュ・オレイニチャクです。
そしてこれも劇中未使用曲ですが、ウワディスラフ・シュピルマン本人の演奏も一曲入っています。ショパンのマズルカ13番で1948年録音です。想像を絶する恐怖のホロコーストから生還したシュピルマンがようやく平和になった世界(といっても故国ポーランドは平和とは言えない状況だったでしょうが)で何を思ってピアノを弾いていたのでしょうか
余談ですが、このマズルカ13番は、スピルバーグの『太陽の帝国』でも印象的に使われていました。

そんなところでまた、素晴らしい映像作品とクラシック音楽でお会いしましょう

#戦場のピアニスト #ショパン #ロマンポランスキー #ノクターン20番 #バラード1番

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« サントラ評 007 ノー・タイ... | トップ | 映像作品とクラシック音楽 ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映像作品とクラシック音楽」カテゴリの最新記事