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ついについに、「ブレードランナー」「日の名残り」「悲情城市」とともに我が不動の生涯ベスト作品の地位に輝き、何十回見ても輝きはかげるどころか、ますます眩しくなってくる、マジで愛する作品「男たちの挽歌」の映評を書くことにする。
「挽歌2」の映評は六部構成にしてしまったが、これはいったい何部になるだろう・・・語りたいことが多すぎるのだ。
【「挽歌」と80年代後半以降のアジア映画史についての概説】
「男たちの挽歌」はチョウ・ユンファをスターダムに押し上げ、ジョン・ウーを香港のトップ監督に至らしめた、二人のキャリアにおける最重要作品である。
のみならず、香港および中華圏の映画界に対して果たした歴史的役割も大きい作品である。
「挽歌」についての熱い思いを語る前に、「挽歌」以降の中華圏映画史をおさらいしてみたくなった。
ウーとユンファを軸にして私なりにまとめてみた、20世紀末の中華圏映画史である。
多少の認識違いはあるかもしれないが、所詮素人の映画史解説と思って読み飛ばしてもらいたい
香港映画界にバイオレンスアクションブームを巻き起こし、「挽歌」以降(80年代後半~90年代前半)に作られたガンアクション映画を、(多分日本の香港映画好きたちが)「フィルム・ノワール」をもじって「香港ノワール」と呼ぶようになった。香港ではその種のアクション映画は「英雄片」と呼ばれていたようだ(挽歌の原題「英雄本色」からきたものと思われる)。ともかくその先駆け的作品である。
「挽歌」の映画史的に最大の功績は言うまでもなく、ユンファとジョン・ウーをメジャーな存在にしたことである。
ジョン・ウーは誰にもひと目でそれと判るスタイルをもった監督になった。「挽歌」以前、香港映画はジャッキー・チェンとかブルース・リーとかスターの名前で語られることはあっても、監督の作家性で語られることは、あまり無かったのではないか?(ブルース・リーもジャッキーも監督もしていたりはするが)。作家性で語られる香港映画の監督の先駆けだった。
やや話はそれるが、「男たちの挽歌」が公開された86年に前後して、中国本土ではチェン・カイコー(「黄色い大地」84年)、チャン・イーモウ(「紅いコーリャン」87年)らが頭角を現し始め、台湾では侯孝賢(「冬冬の夏休み」84年、「童年往事」85年)やエドワード・ヤン(「恐怖分子」86年)が地位を固めていった。
「挽歌」のレスリーが90年代にチェン・カイコー作品(「さらば我が愛」93年、「花の影」96年)に出演。
侯孝賢の「悲情城市」(89年)に出たトニー・レオンが、ウーの「ワイルドブリット」(90年)「ハードボイルド」(92年)に出演。
そのレスリーとトニーなくして90年代ウォン・カーウァイ作品の成功はあり得ない。
香港・中国・台湾のトライアングルで、演技派スターと作家性の強い監督とが結びつき、中華圏映画は商業性と芸術性の両立が可能になった。その80年代末から90年代初頭の中華圏映画躍進期において、ウーの果たした役割は大きい。
一方、ユンファはといえば、「挽歌」後の2年間に香港で20数本の映画に出演したのをはじめ、80年代は客を呼べるスターとして、アクションにコメディに恋愛ものにと引っ張りだこになる。それはカンフーとかデスウィッシュスタントでない作品でも商業的に成立させることを可能とし、大げさに言えばユンファは香港映画界を変えた。結果的にリンゴ・ラム(「友は風の彼方に」87年←「レザボアドッグス」の元ネタ)、バリー・ウォン(「男たちのバッカ野郎」87年、「ゴッドギャンブラー」89年)、メイベル・チャン(「誰かがあなたを愛してる」87年)、ジョニー・トー(「過ぎゆく時の中で」89年)ら、90年代以降から今日まで香港映画を支えることになる監督たちに、活躍の機会を与えている。
大スターのユンファがいなければ90年代以降の香港映画はだいぶ変わっていたはずだ。
スローモーで鳩飛ばすだけの監督とか、二丁拳銃持たなきゃただのオッサンとか、そんなこと言ってけなすこともできようが、この2人が果たした歴史的役割が大きいことは事実である。そしてその2人を世に出したのが「挽歌」なのだ。
【男たちの挽歌 映評 ・・・のはじめに】
さて映画の内容について、思いのたけを全て吐き出していきたいのだが・・・まずいくつか注意事項を。
私は広東語の知識はほとんどないので引用する台詞は基本的に映画につけられている字幕から使うことにする。
字幕については、90年代ごろ出回っていたVHS版と、2000年代になって発売されたDVDデジタルリマスター版でだいぶ異なる。
デジタルリマスター版は挽歌ファンを失望させる忌まわしき改悪品である。その詳細については→『男たちの挽歌2 映評 序章 デジタルリマスター版を批判する』
90年代流通版とデジタルリマスター版のどちらが、原語のニュアンスに近いのか・・・はわからない。
だが、たとえ意訳・誤訳があろうとも、90年代版字幕の方がはるかにかっこよくセンスがいいので、台詞の引用はそちらからさせていただく。
また、一応、人名についても注記させていただく。
「挽歌」主要キャストの1人「レスリー・チャン」だが、英語表記は”LESLIE CHEUNG”。苗字は漢字で「張」。広東語発音だと、「チャン」よりも「チョン」の方が原音に近いのだが、日本で一般的にカタカナ表記される「チャン」で書き進めることにする。
ちなみに同じことは、「挽歌」キャストではないが、マギー・チャン、ジャッキー・チュン(誰でも知ってる有名なあのジャッキーでなく、「今すぐ抱きしめたい」のアンディの弟分で、「ワイルドブリット」のトニーの弟分のあいつ)にもいえる事であり、二人とも本来は「チョン」と書くべきだが、もしこの二人に言及することがある場合も一般的な日本でのカタカナ表記に従う。
それから、俳優ではなく役名についてだが、「挽歌」のタクシー会社の社長は「1」の字幕では「ケン」、「2」の字幕では「キン」と表記されるのだが、「2」で登場するマークの双子の弟「ケン」との混同を避けるため、以下の記事ではタクシー会社社長の役名は「キン」として書き進めることにする。
【男たちの挽歌 映評 第一部 オープニングシーン】
映画が始まると映されるのは1人の若者(キット、演じるはレスリー・チャン)がスローモーで撃たれている光景。
「キット!!」と叫んでガバっと起き上がる本編の主人公ホー(ティ・ロン)。
「挽歌2」のオープニングも同じだったが、両方に言えるのは、ホーさん汗かきすぎで何か悪い病気じゃないのか・・・と余計な心配をしてしまう。
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ともかく判り易すぎるくらいに弟思いである性格設定と、苦悩タイプの人間であることがわかるプロローグ。ティ・ロンの(汗かきすぎなのはおいといて)真剣全力全霊な役者としての生真面目さが伝わってくるオープニング。
この映画は冒頭の5分間で主要人物のキャラクター性が、説明台詞を使わずに何とはなしに伝わってくる、本番前の準備運動のような導入部が心地よい。
ミドルテンポのかっこいい挽歌テーマにのってメインスタッフ・キャストがクレジットされていく中、マーク(ユンファ)とホー(ティ・ロン)が偽札作りの過程を見学するオープニングがほぼ台詞なしで展開される。二人が黒社会の一員であることを表すと同時に、物語後半での”マクガフィン”となる「偽札原版」の提示。
導入部としては申し分ないのだが、さらに彩を添えるのは、ユンファの小芝居の数々である。
やってることが一々面白く、何回見てもオープニングのユンファに笑ってしまう。
「挽歌」初見ではアクションシーンを初めとするかっこよさにばかり目がいくが、20~30回もリピートして見ていると、こういう些細な小芝居に目が行くようになってしまう。
逃げていった屋台の親父に対するゼスチャ
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監視カメラへのさりげない自己アピール(舌レロレロ)
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扉のロックを解除した監視員に向けて、すぼめた口に突っ込んだ指を「キュポン!!」と音を立てながら出すという意味不明な行動
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偽札が作られるのを覗き込みながら、なぜだか舌をレロレロする
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そして有名な「偽札ライター」。
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俺が13年間タバコをやめられなかった理由の8割はこのシーンのかっこよさが原因である・・・とユンファ先生につい濡れ衣を着せたくなるくらいの憧れのワンカットである。
さらに、運転手兼付き人のシンが風邪を引いているのを見たマークは、札束を取り出しピラピラと4~5枚抜き出して、その4~5枚ではなく分厚い束の方をシンに渡すのである。
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かっこいい。やってみてえ。ちなみにこのさり気ない小芝居は、後々のシーンで逆転反復されるので、心の片隅に留めておいて欲しい。
ところで、そのシンを演じたのは、リー・チーホン。ジョン・ウー監督の「ワイルド・ブリット」にも出演し、そちらではウェイス・リーと英語名でクレジットされる。
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「挽歌」ではユンファを殺してティ・ロンに殺され、「ワイルド・ブリット」ではジャッキー・チュンを殺してトニー・レオンに殺される。ウー映画の憎たらしい系悪役俳優としては私の中ではトラボルタを押さえて堂々の第一位である。
さらに「編劇・導演 : 呉宇森 WRITTEN & DIRECTED BY JOHN WOO」とクレジットされた後、ホーとマークはアメリカ人マフィアと思しき奴らと取引を行う。
ホーがまじめな顔で偽ドルと交換に受け取った香港紙幣の真贋判定をしている背後では、マフィアの若い衆と会話をしているマークがいる。
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マフィアたちが何か英語で親しげにユンファに語りかけるが、その際のユンファの英語台詞を耳をそばだてて採録してみた。
イェース・・・イェース・・・オー、イェー・・・オー、シュア・・・オブコース・・・オー、ハハハ、オブコース
そして、取引を終えたホーに「お前の英語はオブコースばかりだな」とからかわれ、マークは「オブコース」と応えるのである。
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チョウ・ユンファ!!!
なんて奴だ、まだ映画が始まって5分しかたっていない上に、台詞らしい台詞もないのに、ここまで笑わせ楽しませてくれる奴なんて他にいるだろうか!!
彼が唯一無二のスーパースターであることが、冒頭5分だけでわかってしまう。
それにしても、冒頭5分の解説だけで、こんなに長く書いてしまった。
完結はいつの日になるのだろう・・・と不安を覚えつつ、「男たちの挽歌」映評第一部を一旦終わることにする。
******
[男たちの挽歌 映評一覧]
[男たちの挽歌 映評 第一部] 作品概論と、オープニングについて
[男たちの挽歌 映評 第二部] ホーとキットについて、エミリー・チュウのこと、ユンファ屈辱について熱く語る・・・など
[男たちの挽歌 映評 第三部] 台湾でのアクションシーン、台湾でのジョン・ウーの苦渋時代の投影について、キットと父を狙う殺し屋との泥臭い対決など . . .
[男たちの挽歌 映評 第四部] 映画史もの名シーン・楓林閣大銃撃戦 について
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「挽歌2」の映評は六部構成にしてしまったが、これはいったい何部になるだろう・・・語りたいことが多すぎるのだ。
【「挽歌」と80年代後半以降のアジア映画史についての概説】
「男たちの挽歌」はチョウ・ユンファをスターダムに押し上げ、ジョン・ウーを香港のトップ監督に至らしめた、二人のキャリアにおける最重要作品である。
のみならず、香港および中華圏の映画界に対して果たした歴史的役割も大きい作品である。
「挽歌」についての熱い思いを語る前に、「挽歌」以降の中華圏映画史をおさらいしてみたくなった。
ウーとユンファを軸にして私なりにまとめてみた、20世紀末の中華圏映画史である。
多少の認識違いはあるかもしれないが、所詮素人の映画史解説と思って読み飛ばしてもらいたい
香港映画界にバイオレンスアクションブームを巻き起こし、「挽歌」以降(80年代後半~90年代前半)に作られたガンアクション映画を、(多分日本の香港映画好きたちが)「フィルム・ノワール」をもじって「香港ノワール」と呼ぶようになった。香港ではその種のアクション映画は「英雄片」と呼ばれていたようだ(挽歌の原題「英雄本色」からきたものと思われる)。ともかくその先駆け的作品である。
「挽歌」の映画史的に最大の功績は言うまでもなく、ユンファとジョン・ウーをメジャーな存在にしたことである。
ジョン・ウーは誰にもひと目でそれと判るスタイルをもった監督になった。「挽歌」以前、香港映画はジャッキー・チェンとかブルース・リーとかスターの名前で語られることはあっても、監督の作家性で語られることは、あまり無かったのではないか?(ブルース・リーもジャッキーも監督もしていたりはするが)。作家性で語られる香港映画の監督の先駆けだった。
やや話はそれるが、「男たちの挽歌」が公開された86年に前後して、中国本土ではチェン・カイコー(「黄色い大地」84年)、チャン・イーモウ(「紅いコーリャン」87年)らが頭角を現し始め、台湾では侯孝賢(「冬冬の夏休み」84年、「童年往事」85年)やエドワード・ヤン(「恐怖分子」86年)が地位を固めていった。
「挽歌」のレスリーが90年代にチェン・カイコー作品(「さらば我が愛」93年、「花の影」96年)に出演。
侯孝賢の「悲情城市」(89年)に出たトニー・レオンが、ウーの「ワイルドブリット」(90年)「ハードボイルド」(92年)に出演。
そのレスリーとトニーなくして90年代ウォン・カーウァイ作品の成功はあり得ない。
香港・中国・台湾のトライアングルで、演技派スターと作家性の強い監督とが結びつき、中華圏映画は商業性と芸術性の両立が可能になった。その80年代末から90年代初頭の中華圏映画躍進期において、ウーの果たした役割は大きい。
一方、ユンファはといえば、「挽歌」後の2年間に香港で20数本の映画に出演したのをはじめ、80年代は客を呼べるスターとして、アクションにコメディに恋愛ものにと引っ張りだこになる。それはカンフーとかデスウィッシュスタントでない作品でも商業的に成立させることを可能とし、大げさに言えばユンファは香港映画界を変えた。結果的にリンゴ・ラム(「友は風の彼方に」87年←「レザボアドッグス」の元ネタ)、バリー・ウォン(「男たちのバッカ野郎」87年、「ゴッドギャンブラー」89年)、メイベル・チャン(「誰かがあなたを愛してる」87年)、ジョニー・トー(「過ぎゆく時の中で」89年)ら、90年代以降から今日まで香港映画を支えることになる監督たちに、活躍の機会を与えている。
大スターのユンファがいなければ90年代以降の香港映画はだいぶ変わっていたはずだ。
スローモーで鳩飛ばすだけの監督とか、二丁拳銃持たなきゃただのオッサンとか、そんなこと言ってけなすこともできようが、この2人が果たした歴史的役割が大きいことは事実である。そしてその2人を世に出したのが「挽歌」なのだ。
【男たちの挽歌 映評 ・・・のはじめに】
さて映画の内容について、思いのたけを全て吐き出していきたいのだが・・・まずいくつか注意事項を。
私は広東語の知識はほとんどないので引用する台詞は基本的に映画につけられている字幕から使うことにする。
字幕については、90年代ごろ出回っていたVHS版と、2000年代になって発売されたDVDデジタルリマスター版でだいぶ異なる。
デジタルリマスター版は挽歌ファンを失望させる忌まわしき改悪品である。その詳細については→『男たちの挽歌2 映評 序章 デジタルリマスター版を批判する』
90年代流通版とデジタルリマスター版のどちらが、原語のニュアンスに近いのか・・・はわからない。
だが、たとえ意訳・誤訳があろうとも、90年代版字幕の方がはるかにかっこよくセンスがいいので、台詞の引用はそちらからさせていただく。
また、一応、人名についても注記させていただく。
「挽歌」主要キャストの1人「レスリー・チャン」だが、英語表記は”LESLIE CHEUNG”。苗字は漢字で「張」。広東語発音だと、「チャン」よりも「チョン」の方が原音に近いのだが、日本で一般的にカタカナ表記される「チャン」で書き進めることにする。
ちなみに同じことは、「挽歌」キャストではないが、マギー・チャン、ジャッキー・チュン(誰でも知ってる有名なあのジャッキーでなく、「今すぐ抱きしめたい」のアンディの弟分で、「ワイルドブリット」のトニーの弟分のあいつ)にもいえる事であり、二人とも本来は「チョン」と書くべきだが、もしこの二人に言及することがある場合も一般的な日本でのカタカナ表記に従う。
それから、俳優ではなく役名についてだが、「挽歌」のタクシー会社の社長は「1」の字幕では「ケン」、「2」の字幕では「キン」と表記されるのだが、「2」で登場するマークの双子の弟「ケン」との混同を避けるため、以下の記事ではタクシー会社社長の役名は「キン」として書き進めることにする。
【男たちの挽歌 映評 第一部 オープニングシーン】
映画が始まると映されるのは1人の若者(キット、演じるはレスリー・チャン)がスローモーで撃たれている光景。
「キット!!」と叫んでガバっと起き上がる本編の主人公ホー(ティ・ロン)。
「挽歌2」のオープニングも同じだったが、両方に言えるのは、ホーさん汗かきすぎで何か悪い病気じゃないのか・・・と余計な心配をしてしまう。
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ともかく判り易すぎるくらいに弟思いである性格設定と、苦悩タイプの人間であることがわかるプロローグ。ティ・ロンの(汗かきすぎなのはおいといて)真剣全力全霊な役者としての生真面目さが伝わってくるオープニング。
この映画は冒頭の5分間で主要人物のキャラクター性が、説明台詞を使わずに何とはなしに伝わってくる、本番前の準備運動のような導入部が心地よい。
ミドルテンポのかっこいい挽歌テーマにのってメインスタッフ・キャストがクレジットされていく中、マーク(ユンファ)とホー(ティ・ロン)が偽札作りの過程を見学するオープニングがほぼ台詞なしで展開される。二人が黒社会の一員であることを表すと同時に、物語後半での”マクガフィン”となる「偽札原版」の提示。
導入部としては申し分ないのだが、さらに彩を添えるのは、ユンファの小芝居の数々である。
やってることが一々面白く、何回見てもオープニングのユンファに笑ってしまう。
「挽歌」初見ではアクションシーンを初めとするかっこよさにばかり目がいくが、20~30回もリピートして見ていると、こういう些細な小芝居に目が行くようになってしまう。
逃げていった屋台の親父に対するゼスチャ
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扉のロックを解除した監視員に向けて、すぼめた口に突っ込んだ指を「キュポン!!」と音を立てながら出すという意味不明な行動
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偽札が作られるのを覗き込みながら、なぜだか舌をレロレロする
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そして有名な「偽札ライター」。
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俺が13年間タバコをやめられなかった理由の8割はこのシーンのかっこよさが原因である・・・とユンファ先生につい濡れ衣を着せたくなるくらいの憧れのワンカットである。
さらに、運転手兼付き人のシンが風邪を引いているのを見たマークは、札束を取り出しピラピラと4~5枚抜き出して、その4~5枚ではなく分厚い束の方をシンに渡すのである。
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かっこいい。やってみてえ。ちなみにこのさり気ない小芝居は、後々のシーンで逆転反復されるので、心の片隅に留めておいて欲しい。
ところで、そのシンを演じたのは、リー・チーホン。ジョン・ウー監督の「ワイルド・ブリット」にも出演し、そちらではウェイス・リーと英語名でクレジットされる。
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「挽歌」ではユンファを殺してティ・ロンに殺され、「ワイルド・ブリット」ではジャッキー・チュンを殺してトニー・レオンに殺される。ウー映画の憎たらしい系悪役俳優としては私の中ではトラボルタを押さえて堂々の第一位である。
さらに「編劇・導演 : 呉宇森 WRITTEN & DIRECTED BY JOHN WOO」とクレジットされた後、ホーとマークはアメリカ人マフィアと思しき奴らと取引を行う。
ホーがまじめな顔で偽ドルと交換に受け取った香港紙幣の真贋判定をしている背後では、マフィアの若い衆と会話をしているマークがいる。
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イェース・・・イェース・・・オー、イェー・・・オー、シュア・・・オブコース・・・オー、ハハハ、オブコース
そして、取引を終えたホーに「お前の英語はオブコースばかりだな」とからかわれ、マークは「オブコース」と応えるのである。
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チョウ・ユンファ!!!
なんて奴だ、まだ映画が始まって5分しかたっていない上に、台詞らしい台詞もないのに、ここまで笑わせ楽しませてくれる奴なんて他にいるだろうか!!
彼が唯一無二のスーパースターであることが、冒頭5分だけでわかってしまう。
それにしても、冒頭5分の解説だけで、こんなに長く書いてしまった。
完結はいつの日になるのだろう・・・と不安を覚えつつ、「男たちの挽歌」映評第一部を一旦終わることにする。
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[男たちの挽歌 映評一覧]
[男たちの挽歌 映評 第一部] 作品概論と、オープニングについて
[男たちの挽歌 映評 第二部] ホーとキットについて、エミリー・チュウのこと、ユンファ屈辱について熱く語る・・・など
[男たちの挽歌 映評 第三部] 台湾でのアクションシーン、台湾でのジョン・ウーの苦渋時代の投影について、キットと父を狙う殺し屋との泥臭い対決など . . .
[男たちの挽歌 映評 第四部] 映画史もの名シーン・楓林閣大銃撃戦 について
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『挽歌』は私も大好きです。
86年に、話題になりみたときは、衝撃でした。
私も何度もみてますが、それしても細かなところまでよく鑑賞してらっしゃる。感服です。
私もこの作品で、ジョン・ウー監督、そしてユンファのファンになり、ユンファ作品はコメディ、ラブストーリーも含めかなりの作品を鑑賞しました。
『狼』も大好きなんですが、今でも無性に鑑賞したくなり、よくみるのはこの『挽歌』の1作目です。
また他の記事も拝読させていただきます。
初めて挽歌を観て シリーズで観ていきました。
きっかけはジョン・ウー監督が今公開中のマンハント以外に男たちの挽歌も高倉健さんオマージュで作ったと聞いたからです。サングラスとロングコートは健さんへのオマージュらしいです。すっかり男たちの挽歌に魅せられてしまい男が惚れる男に女が惚れない訳がないです。
挽歌Ⅰの最初の5分のユンファ わたしもたまらなく観ていました。記事にされていて嬉しかったです。これから 再度、シリーズを観ていきたいとおもいます。素晴らしい投稿ありがとうございます。
こんな記事を見つけてくださいましてありがとうございます
映評たってまだ始まって5分のところの記事ですね。しかもこの挽歌評シリーズそういえば完結してません。二丁拳銃&花瓶隠しの場面で力尽きてしまいましたが、なんとか続きを書こうと思います
ああ、マンハント観たいです!