せっかく扉絵が伊福部昭さんになったので(FacebookのクラシックCD鑑賞部屋向けの記述)、最近買った「伊福部昭作品集」の感想をアップします。「映像作品とクラシック音楽」と題しておきながら、映画音楽ではない伊福部昭音楽の紹介になりまが、まあご勘弁ください。
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「伊福部昭作品集」
曲目
・日本狂詩曲
・土俗的三連画
・交響譚詩
・タプカーラ交響曲
・ピアノと管弦楽のためのリトミカ・オスティナータ
・ヴァイオリン協奏曲第2番
・オーケストラとマリンバのためのラウダ・コンチェルタータ
怪獣を愛する私はもちろんゴジラ等のサントラや、「SF交響ファンタジー」なんかを普段から愛聴しているのですが、恥ずかしながら怪獣とも映画とも関係ない伊福部昭の現代音楽を買ったのはこれが初めてでした。
しかし、そこには慣れ親しんだ伊福部節がこれでもかと鳴り響いていました。
と言っても、ゴジラなど怪獣のモチーフのような重々しさではなく、人類と怪獣の戦いを彩ったマーチのような曲があるでもなく、なにか民俗的といいますか、土俗的と言いますか、日本の中でもかなり特殊な時代の特殊な風習の村に迷い込みそこの祭に参加しているような趣きです。強いて怪獣映画音楽で類似を探すなら、『大怪獣バラン』のバラダキ山神を讃える村人達の歌に近いでしょうか。あるいは『海底軍艦』のムー帝国の舞踏の曲とか。
もちろんそれはそれで耳に馴染んだ伊福部昭音楽なのです。
伊福部昭さんは北海道出身ですが、家系を辿れば出雲の神社の宮司の家系とのことで、西洋的でなく、東洋といっても仏教的でない独特の音楽世界を持った背景になっているのかもしれません(といっても『釈迦』の音楽も担当してたりしますが)
耳に馴染んだと言えば、「日本狂詩曲」では『ゴジラ』(1954)の「大戸島の神楽」のメロディが聞こえてきたり、「ピアノと管弦楽のためのリトミカ・オスティナータ」では『キングコング対ゴジラ』(1962)のコング輸送作戦のメロディ(自衛隊がキングコングに気球をくくりつけるシーンの曲)が聞こえてきたりして特撮ゴコロをくすぐります。
日本狂詩曲は1935年作品で、リトミカオスティナータは1961年作品なので、怪獣映画の方が流用なわけですが。
日本映画黄金期、短納期でアホみたいに仕事が舞い込んできていた頃なのでそりゃ自作曲の流用くらいするでしょう。
※伊福部昭さんの映画音楽における自作流用は有名で、映画音楽デビューの『銀嶺の果て』のメインテーマは、『空の大怪獣ラドン』の自衛隊機のラドン追跡シーンの曲になってたり、『フランケンシュタイン対地底怪獣』のバラゴンのテーマがリズムを変えて『キングコングの逆襲』ではメカニコングのテーマになってたりします。
CDは全て70年代から80年代に日本で録音された音源を収録しております。
「日本狂詩曲」「土俗的三連画」「ラウダコンチェルタータ」が、山田一雄指揮、新星日本交響楽団
「交響譚詩」「タプカーラ」「ヴァイオリン協奏曲」が、芥川也寸志指揮、新交響楽団
「リトミカオスティナータ」が、井上道義指揮、東京交響楽団
いずれも迫力あり、切迫感のある演奏で、伊福部昭音楽が映像と切り離してもなお高い芸術性を持っていることを証明しています。
また、比較的アップテンポの曲が多いので、マラソンしながら聴くといい感じです。怪獣映画の伊福部マーチ集と合わせたプレイリストなんか作ったら大興奮ですね。
中でも個人的にすごく感銘を受けたのは「タプカーラ交響曲」と「オーケストラとマリンバのためのラウダ・コンチェルタータ」です。
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「タプカーラ交響曲」は北海道出身の伊福部昭が、アイヌの音楽をイメージして作った三楽章からなる交響曲です。タプカーラとはアイヌの言葉で「立って踊る」という意味とのこと。
第一楽章はインファント島のテーマとしても使えそうなゆったりした序奏に始まり、どこの文化のものともつかない激しい舞踏をイメージさせる曲へと変化します。
第二楽章はまた、東宝特撮映画の愛のテーマやヒロインのテーマ(『宇宙大戦争』の愛のテーマとか、『海底軍艦』の神宮寺大佐の娘のテーマとか)になっても全然違和感ないアダージョですが、これはこれでアイヌの倭人に苦しめられてきた歴史を想起させるようでもあって、沁みます。
第三楽章がまた激しく鳴らされる打楽器とオケによる気持ちの上がるアップテンポの曲です。
私も今でこそ埼玉県民ですが札幌生まれ札幌育ち、♩好きですサッポロ、好きです誰よりも〜、とか聴いてました。家族旅行で北海道あちこち行ったりしましたし、アイヌの昔話も、北海道開拓とアイヌの歴史もそれなりに学んできたので、内地人よりはアイヌ文化にシンパシーを感じておりますから、アイヌをテーマにした交響曲というのはそれだけで気分があがります。
とは言っても、この曲から漂うのはアイヌっぽさよりもはるかにずっと強い伊福部っぽさでありまして、聴きながら妄想する脳内イメージのアイヌ文化も登場人物は自然と東宝特撮の出演者達の顔(平田昭彦や志村喬や水野久美)になってしまいます。
「タプカーラ交響曲」を指揮する芥川也寸志は、映画好きには野村芳太郎監督の『ゼロの焦点』『鬼畜』『八つ墓村』なんかの作曲で有名です。
伊福部昭が東京芸大音楽部の前身となる東京音楽学校で教鞭を取っているときの教え子ということですが、だからといって師匠の作品を情感に溺れず、勢いよく演奏しきっている感じが良いです。
(そういえば思い返せば『八つ墓村』の音楽に少し伊福部昭っぽさを感じないでもないですね)
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そして「オーケストラとマリンバのためのラウダ・コンチェルタータ」は凄い曲ですね。
叩き鳴らされるマリンバの音が恍惚を誘います。地球防衛軍マーチや宇宙大戦争マーチくらい興奮を誘い燃えます。それが26分という長尺で続く怒涛の音の洪水。映画音楽、現代音楽全てをひっくるめて伊福部昭の最高傑作かもしれないと思いました。
伊福部怪獣音楽を愛し続けて40年くらい経ちますが、怪獣に関係なく伊福部昭は偉大でした。