77年から79年にかけて行われたバーンスタインとウィーンフィルによるベートーベン交響曲全曲ライブのフィルムコンサートが、東京写真美術館で行われた。私は7、8、9を鑑賞。
バーンスタインのやんちゃっぷりで観て楽しい聴いて感動な素晴らしい体験でした。
実は自分はバーンスタインのアルバムを買ったのは比較的最近(ウェストサイド物語サントラは除く)で数年前。高校生の頃からクラシックは好きだったけどその頃から基本的にカラヤン信者だった。しかし仏頂面で表情をあまり変えずに冷静に演奏するカラヤンと違って、こんなに楽しげに演奏するバーンスタインを高校のころ知っていたら、もっと違った人生を送っていたかもしれないなどと、そんな風にも思った。
楽しい時間をありがとうと思ったけど、音響には少し難ありか?もともとの音源の問題なのか、劇場設備の問題か?
立川シネマシティの爆音上映とかで聞いたらもっと感動するかも。
でも、バーンスタインの楽しそうな指揮っぷりはCDでは伝わらないだろうから、フィルムコンサートで観る価値あり。
ベートーベン交響曲第7番
「のだめカンタービレ」は原作コミックの素晴らしい名作ぶりとは裏腹にドラマ版とその映画化版は吐き気がするほどクソ酷い内容だったけれど、しかしベト7を有名にした功績は大きいと思う。
いやのだめ前からベト7は人気曲だよとクラシック好きは言うかもしれないが、3、5、6、9と並ぶレベルで一般浸透したのはのだめきっかけじゃないかと思う。
有名だが表題も通称もないベト7。華やかで元気の出てくる第1楽章、重々しくもキャッチーなメロディの第2楽章(英国王のスピーチのクライマックスでも使われた)って感じで第3番「英雄」と少し構成が似ている。
でも英雄よりは軽やかで第二楽章を除くと底抜けに楽天的で、聴いてると立ち上がって踊りたくなる。
そういう曲をなんとも楽しそうに指揮するバーンスタイン。まだ60歳くらいの頃か。元気いっぱいに、飛んだり跳ねたり楽しそう。
彼の元気に引っ張られてオケも躍動しているようだ。
交響曲第8番
これ、モーツァルトの37番だよと言われたら信じてしまいそうな曲。とは言え例えばモーツァルトの36や38のような味わい深さがあるかって言うとそんなんでもなく地味な印象。
ベートーベン交響曲は第6番が例外的に名曲なのを除くと、なぜか偶数ナンバーは印象の薄い地味目な曲になる。いや、4も8も好きだよって人は多いけど、私は4番なんかはCDも持ってるのに何度聞いてもメロディが頭に残らない。
8は実はこれがほぼ初めてに近い鑑賞だったのだけど、やはり地味な曲だなと思った。
一説によるとベートーベンは奇数ナンバーと偶数ナンバーはセットで作っており、例えば5番と6番は初演が同じ日だったりで、二つセットで一つのテーマを表現しようとしていたといわれる。
実は9番も10番とセットで作っていたとも言われており、それが9だけ先に発表したのは9が超大作になりすぎて燃え尽きたからじゃないかなんて思ったりする。
奇数で上げて、偶数で下げる
あるいは奇数で感情を掻き乱して、偶数で落ち着かせる
そんな構成が、3と4、5と6、7と8をセットで考えると確かに感じられなくもない。
で、今回その仮説を検証すべく?7、8と連続鑑賞した結果はというと、やっぱ7は素敵だけど7で高まった気持ちのまま終わる方が、個人的にはいいなあ。
8も仕事のバックでなんとなくかけるには邪魔しなさそうな、優雅さは良いけど。
バーンスタインを持ってしても、あまり印象には残らない曲であった。
フルトヴェングラーならどんな演奏してるのかな
交響曲第9番
そして年末だし、やっぱ真打ちとして第九は聞かねばなるまいよ、とチケット購入
こ、これは…
フルトヴェングラーの「バイロイトの第9」の次くらいに感動した第9となった。
それは映像で見たからバーンスタインが悪ノリしすぎちゃってるの見て楽しさ倍増したからというのもあるかもしれない。
第一楽章からレニーは動く動く!おいおいそんなんで最後まで大丈夫か?と心配するくらいだが、何かが乗り移ったように60歳のレニーは最後までノリが下がらないどころか、どんどん上がっていく。
第3楽章「カンタービレ(歌うように)」と副題のついたこの曲、勢いあまってややアップテンポだが、うっとりと歌うような演奏と恍惚なレニーの顔!そして巻貝のタイトルでも使ったトランペットが高鳴るところでの、管から弦への移行の溜めっぷりに、めちゃくちゃ楽しんでる感がある!
3楽章の終わりからほぼ切れ目なしで始まる4楽章。飛ぶは跳ねるは、独唱が始まったら一緒に歌ってるし、指揮棒両手で持って剣で岩でも叩き切るような仕草は、あれは指揮と関係ないのでは?まあでも滝のような汗を撒き散らしてソーシャルディスタンス時代の今だと劇場から止められそうな指揮っぷりの楽しそうなことといったらない!
レニーのノリがオケにも合唱隊にもしっかり伝わり、皆が脱兎の如く駆け抜ける壮絶怒涛の第9。
ああ、これが聴けただけでもこのフィルムコンサート見てよかった。
第9はカメラも上手くて、ビオラの手元アップから引いてバーンスタインの全身へとカット切らずに入れたり、バーンスタインが各パートにアイコンタクトする様を上手くカット分けて表現していたりと、そういうところも楽しい。
バーンスタインがマイケルジャクソンと同じくらいのスーパースターに思える素晴らしき体験でした。この第9のアルバム欲しい。
自分はバーンスタインの第9はアルバムを1枚持っていて、彼の晩年、1990年のドイツ統一記念コンサートのものだ。
今回のシネマコンサートの10年後。そのアルバムも名演なのだが、テンポは非常にゆっくりで歴史の重みを噛み締めるような演奏。
歳とった指揮者の演奏がゆっくりになるのはクラシックあるあるではあるが、こんなにも演奏が違うものかと驚く。
ドイツ統一記念演奏は、カラヤン没の翌年だし自分の死期も悟ってたのかもしれないし、ユダヤ人で元共産党員で赤狩りで辛酸を舐めた過去もあるバーンスタインがナチスと東西冷戦で引き裂かれたドイツの統一を祝福するというのも、色々思うところはあったに違いない。
ひるがえってウィーンフィル版第九は、ただ純粋に音楽と遊び楽しんでいて軽やかで爽やかで底抜けに明るい。
こういう時期ではありますが、バーンスタインのベートーベンを是非ともお楽しみを。
恵比寿の写真美術館でバーンスタインを楽しんでその後ビアステーションで石焼きジンギスカンと恵比寿中ジョッキをお楽しみください。ラムのメンチカツも美味しい!
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バーンスタイン&ウィーンフィル ベートーベン全交響曲シネコンサート
2020/12/5 東京写真美術館ホールにて鑑賞