個人的評価: ■■■□□□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]
「バーン・アフター・リーディング」
直訳すると「読後焼却すべし」となろうか。
たしか「007 ユア・アイズ・オンリー」の原作の邦題が「読後焼却すべし」だったような。
それはさておきコーエン兄弟版「読後焼却すべし」もまたスパイものである。
ハリウッドには変わった病気がある。
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ソダーバーグびょう ―びやう 【―病】
〔アメリカ合衆国の映画監督ソダーバーグ(1963- )の名にちなむ〕
アカデミー監督賞をとった監督がその次作でジョージ・クルーニーとブラッド・ピットを含めたオールスターキャストで軽いノリの映画を撮りたくなる病気。オールスターの中にはかつて自身の映画でアカデミー賞をとった女優を含む傾向がある。オーシャンズ病ともいう。
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「ノー・カントリー」が絶賛されたコーエン兄弟がソダーバーグ病に感染して撮った風変わりなスパイコメディの物語をざっと紹介しよう。
----ストーリー(超ネタバレ)-----
アメリカ全土が写る衛星映像からカメラがどんどん地上によっていきCIA本部の屋根を突き抜けるまでがワンカットが描かれるオープニング。いつもどんなにつまんない映画でもファーストショットだけは印象的なコーエン兄弟らしい幕開けだ。
物語はジョン・マルコビッチがCIAをクビになるところから始まる。かつて大統領暗殺を目論みイーストウッドに阻止された彼だけにとち狂ってCIA局員を殺しまくったりするのかと期待させながら、彼はそんなことをせず自伝を出版しようとするのだった。
その彼の妻は「フィクサー」でジョージ・クルーニーの古典的な「実は録音してました作戦」にまんまと引っかかってしまうという失態を演じたティルダ・スウィントンで、彼女はそのクルーニーさんと不倫恋愛真っ最中。マルコビッチと離婚すべく、訴訟に使えそうなデータをPCからコピーするが、その中にマルコビッチ自伝「太陽のシークレットサービスの穴」があり、アフリカでデブラ・ウィンガーと激しく愛し合ったこと、ニコール・キッドマンを恋の罠にはめたこと、不当逮捕されていたアンジェリーナ・ジョリーを救出したことなどが赤裸裸に綴られていたとは思いもよらなかったのだった。
そのころオスカー女優の重み目当てで助演のオファーはそこそこあるが主演オファーはほぼ無く、しかも夫が自分抜きで撮った「ノー・カントリー」が絶賛されて心中穏やかでないフランシス・マクドーマンドは、年とってもメリル・ストリーブみたいに主演クラスの企画がバンバン入ってくる女優になりたくて全身美容整形を受けようとしていたが、お金が足りなくて困っていた。
その彼女が働くスポーツジムの同僚がブラッド・ピットだった。本来この役は20才くらいのチャラい若造が演じて然るべきな気もするがブラッドは「でも俺、ついこないだ20才くらいの役やってオスカー候補になったよ」とまだベンジャミン・バトンの特殊メイクとCG加工が落ちていないと勘違いしてこの役に臨むのだった。
そのブラピはジムのロッカーでCDロムの忘れ物を発見。ファイルを開いてみるとそれはマルコビッチの書いた自伝だがぱっと見CIAの超極秘情報っぽかった。ティルダが持ち込んだ弁護士の秘書がうっかり忘れていったものだった。フランシスとブラビの2人はマルコビッチを強請って金を巻き上げようとするがマルコビッチがぶち切れて手におえないのでデータをロシアに売ろうとした。売るにはデータに不足感があったのでフランシスはブラビにマルコビッチ家侵入を依頼するのだった。
ところでジョージ・クルーニーはおっさんおばはん用出会い系サイトでフランシス・マクドーマンドと知り合っていた。オスカー主演女優賞だが落ち目のフランシスと、助演女優賞だが上り調子のティルダ。妻のいぬ間に2人のオスカー女優と不倫三昧。まあ、俺くらいハリウッドで人気あれば当然だろうと、調子にのった彼は、女性用一人セックス椅子まで作って観客をドン引きさせてしまうのだった。
マルコビッチを閉め出したティルダの家を自分の家感覚で使う彼だったが、ブラピが侵入していることには気付いていなかった。ジョギング帰りで鼻歌ルンルンでシャワー浴びてクローゼットあけたらそこにブラピがいたのでつい撃ち殺してしまう狂兄じゃなくクルーニー。次はオーシャンズ14でなく12に逆戻りだな・・・と思う彼だった。
------
てな感じのコメディである。
ぶっちゃけ、そんなに面白くはない。だが嫌いではない。
これほどチマチマした小スケールのスパイ映画であることが何だか興味深い。
CIAがらみの話なのに、「アメリカ」へのメッセージが薄い。親米、愛米、嫌米、反米、憂米、喝米、・・・のいずれでもない。そういえば星条旗が一度も写っていない。どっかのショットにちらと写り込んでいたかも知れないが少なくとも主たる被写体として星条旗を写したショットは無かったはずだ。そのかわりに前述のようにオープニングでアメリカ合衆国全土が写るが、超マクロから超ミクロへのワンカットでの視点の移動は「世界の中のアメリカ・・の中の世界と関係ない人々の物語」と宣言していたとも取れる。
登場人物たちは皆が自分のことしか考えず、事件の全てを知るCIA局員もめんどくさいから有耶無耶になるまでほっとこう、と考える。小さな事件の波紋がやがて大きなうねりとなって大事件につながったりはせず、小さな事件はそのまましばらくぶすぶすとくすぶった後に消滅してしまう。
CIAってアホだね。しょーもないねあいつら・・・つってもあんま興味ないけどね。小心者同士のドタバタの方がよっぽど面白いね・・・と鼻で笑う程度の扱いとすることが逆説的なCIA批判となっているのだろうか。
あるいは人々の悲喜劇をぽかーんと高みから見ているだけのCIAこそが一番滑稽なんだと言っていたのかも知れない。
そんなわけで、秘密情報を売りに来たフランシス・マクドーマンドに対し、ロシア大使館員が戸惑って言う「思想が無い」という台詞が一番心に残ったのだった。アメリカアメリカって唾飛ばす風潮まで鼻で笑っているようだった。
そしてエンディングにかかる「CIAマン」という歌の、「CIAを激しく責めるんでなく、軽いノリで小バカにしちゃうくらいのテキトウさがいいんじゃね」的な歌詞も印象深いのだった。
[追記]
クローゼットに隠れるブラビ視点のシーンが素晴らしい。
サスペンス場面得意だよな
********
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「バーン・アフター・リーディング」
直訳すると「読後焼却すべし」となろうか。
たしか「007 ユア・アイズ・オンリー」の原作の邦題が「読後焼却すべし」だったような。
それはさておきコーエン兄弟版「読後焼却すべし」もまたスパイものである。
ハリウッドには変わった病気がある。
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ソダーバーグびょう ―びやう 【―病】
〔アメリカ合衆国の映画監督ソダーバーグ(1963- )の名にちなむ〕
アカデミー監督賞をとった監督がその次作でジョージ・クルーニーとブラッド・ピットを含めたオールスターキャストで軽いノリの映画を撮りたくなる病気。オールスターの中にはかつて自身の映画でアカデミー賞をとった女優を含む傾向がある。オーシャンズ病ともいう。
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「ノー・カントリー」が絶賛されたコーエン兄弟がソダーバーグ病に感染して撮った風変わりなスパイコメディの物語をざっと紹介しよう。
----ストーリー(超ネタバレ)-----
アメリカ全土が写る衛星映像からカメラがどんどん地上によっていきCIA本部の屋根を突き抜けるまでがワンカットが描かれるオープニング。いつもどんなにつまんない映画でもファーストショットだけは印象的なコーエン兄弟らしい幕開けだ。
物語はジョン・マルコビッチがCIAをクビになるところから始まる。かつて大統領暗殺を目論みイーストウッドに阻止された彼だけにとち狂ってCIA局員を殺しまくったりするのかと期待させながら、彼はそんなことをせず自伝を出版しようとするのだった。
その彼の妻は「フィクサー」でジョージ・クルーニーの古典的な「実は録音してました作戦」にまんまと引っかかってしまうという失態を演じたティルダ・スウィントンで、彼女はそのクルーニーさんと不倫恋愛真っ最中。マルコビッチと離婚すべく、訴訟に使えそうなデータをPCからコピーするが、その中にマルコビッチ自伝「太陽のシークレットサービスの穴」があり、アフリカでデブラ・ウィンガーと激しく愛し合ったこと、ニコール・キッドマンを恋の罠にはめたこと、不当逮捕されていたアンジェリーナ・ジョリーを救出したことなどが赤裸裸に綴られていたとは思いもよらなかったのだった。
そのころオスカー女優の重み目当てで助演のオファーはそこそこあるが主演オファーはほぼ無く、しかも夫が自分抜きで撮った「ノー・カントリー」が絶賛されて心中穏やかでないフランシス・マクドーマンドは、年とってもメリル・ストリーブみたいに主演クラスの企画がバンバン入ってくる女優になりたくて全身美容整形を受けようとしていたが、お金が足りなくて困っていた。
その彼女が働くスポーツジムの同僚がブラッド・ピットだった。本来この役は20才くらいのチャラい若造が演じて然るべきな気もするがブラッドは「でも俺、ついこないだ20才くらいの役やってオスカー候補になったよ」とまだベンジャミン・バトンの特殊メイクとCG加工が落ちていないと勘違いしてこの役に臨むのだった。
そのブラピはジムのロッカーでCDロムの忘れ物を発見。ファイルを開いてみるとそれはマルコビッチの書いた自伝だがぱっと見CIAの超極秘情報っぽかった。ティルダが持ち込んだ弁護士の秘書がうっかり忘れていったものだった。フランシスとブラビの2人はマルコビッチを強請って金を巻き上げようとするがマルコビッチがぶち切れて手におえないのでデータをロシアに売ろうとした。売るにはデータに不足感があったのでフランシスはブラビにマルコビッチ家侵入を依頼するのだった。
ところでジョージ・クルーニーはおっさんおばはん用出会い系サイトでフランシス・マクドーマンドと知り合っていた。オスカー主演女優賞だが落ち目のフランシスと、助演女優賞だが上り調子のティルダ。妻のいぬ間に2人のオスカー女優と不倫三昧。まあ、俺くらいハリウッドで人気あれば当然だろうと、調子にのった彼は、女性用一人セックス椅子まで作って観客をドン引きさせてしまうのだった。
マルコビッチを閉め出したティルダの家を自分の家感覚で使う彼だったが、ブラピが侵入していることには気付いていなかった。ジョギング帰りで鼻歌ルンルンでシャワー浴びてクローゼットあけたらそこにブラピがいたのでつい撃ち殺してしまう狂兄じゃなくクルーニー。次はオーシャンズ14でなく12に逆戻りだな・・・と思う彼だった。
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てな感じのコメディである。
ぶっちゃけ、そんなに面白くはない。だが嫌いではない。
これほどチマチマした小スケールのスパイ映画であることが何だか興味深い。
CIAがらみの話なのに、「アメリカ」へのメッセージが薄い。親米、愛米、嫌米、反米、憂米、喝米、・・・のいずれでもない。そういえば星条旗が一度も写っていない。どっかのショットにちらと写り込んでいたかも知れないが少なくとも主たる被写体として星条旗を写したショットは無かったはずだ。そのかわりに前述のようにオープニングでアメリカ合衆国全土が写るが、超マクロから超ミクロへのワンカットでの視点の移動は「世界の中のアメリカ・・の中の世界と関係ない人々の物語」と宣言していたとも取れる。
登場人物たちは皆が自分のことしか考えず、事件の全てを知るCIA局員もめんどくさいから有耶無耶になるまでほっとこう、と考える。小さな事件の波紋がやがて大きなうねりとなって大事件につながったりはせず、小さな事件はそのまましばらくぶすぶすとくすぶった後に消滅してしまう。
CIAってアホだね。しょーもないねあいつら・・・つってもあんま興味ないけどね。小心者同士のドタバタの方がよっぽど面白いね・・・と鼻で笑う程度の扱いとすることが逆説的なCIA批判となっているのだろうか。
あるいは人々の悲喜劇をぽかーんと高みから見ているだけのCIAこそが一番滑稽なんだと言っていたのかも知れない。
そんなわけで、秘密情報を売りに来たフランシス・マクドーマンドに対し、ロシア大使館員が戸惑って言う「思想が無い」という台詞が一番心に残ったのだった。アメリカアメリカって唾飛ばす風潮まで鼻で笑っているようだった。
そしてエンディングにかかる「CIAマン」という歌の、「CIAを激しく責めるんでなく、軽いノリで小バカにしちゃうくらいのテキトウさがいいんじゃね」的な歌詞も印象深いのだった。
[追記]
クローゼットに隠れるブラビ視点のシーンが素晴らしい。
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自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
ここがミソかもしれませんね。
個々の事件をひとつの物語として再編することを放棄しているというか(笑)。
「ノーカントリー」より、あたしは好きですわ、こういうコーエンのタッチ。
>ソダーバーグびょう
わかる…わかります(笑)
私はオーシャンズシリーズ(12以外)は好きなので、
『トラフィック』とか『チェ』2作品を作りながら
おばかな映画でも楽しませてくれる
ソダーバーグが好きですけどね。
コーエン兄弟の趣向は
ちょっと苦手ではあります。
でもこの映画は嫌いにはなれないですよね~。
なんとも、つかみきれない作品でした。
サスペンスシーンはウマいですね、やっぱり。
観たくない!と思わせるほど、
最悪な結末がありそうで。
深く考えないで楽しく撮ろうがテーマな気もする所以ですね
>sakuraiさま
正直わたしはコーエンさんたちのオバカ映画は苦手で「ノーカントリー」の方が好きで・・・
>なるはさま
ダニー・ボイルがクルーニーとブラピで映画撮ってくれたら「ソダーバーグびょう」は本物ですね