個人的評価: ■■■■■□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]
実は妻に誘われてジョギングをはじめて一年以上がたっている。最近はジョギングというよりマラソンに近い状態で、2009年7月には長野県小布施町で行われた「小布施見にマラソン」(21Km)、2009年10月には「諏訪湖マラソン」(21Km)に参加した。
タイムは小布施の時が2時間10数分、諏訪は2時間数分なので、自慢できるほど速くはない。
ついでに2010年2月の東京マラソン(42.195Km)にも9倍の倍率を跳ね除けて当選してしまったのだ。どうしよう・・・
そういう隠れジョガーというか、おっさんランナーな自分であるので、「駅伝の映画らしい」くらいの情報だけで興味本位で観にいったのが本作「風が強く吹いている」だった。
だから作品のデキにたいして期待していたわけではなかった。
それが幸いしたのか、想像以上の面白さに素直に感動した。
自分の趣味的な興味を差し引いても、出来のいい映画だったと人に勧めたくなる作品である。
ほとんど事前情報を持たずに観たと書いたが、自分には珍しく事前にスタッフを調べることもしなかった。
この面白い脚本は誰が書いたのか、この映画は誰が監督したのか・・・とエンドクレジットを観ていたら「監督・脚本・・・大森寿美男」
うわあ、どうりで・・・と、どこか納得。「39」「黒い家」「寝ずの番」の脚本家じゃないか。脚本のデキのよさは納得。そして初監督となる本作でみせたベテランのような安定感。
ところどころ、無駄な説明台詞とか、ステロタイプなライバルキャラクターとか、ベタな泣かせ展開とか、そりゃあ突っ込みどころは探せばいくらでも出てくるのだが、そうした欠点もわかってやっている様な気がする。
つまりは、出資者とか俳優の所属事務所とかへの配慮のためにダメとかムダとかわかっていてもそういう欠点を残し、それでいてそうした欠点が目立たないように、うまく脚本の中で消化してしまっているように思えた。
-----
例えば・・・女の子の扱いに私は職人的巧さを見る。芸術家的巧さではなく職人的巧さだ。
基本的に女っ気のないストーリーだけに、一応は華をそえる意味でマネージャー役の女の子を登場させる。登場の必然性を出すため恋愛がらみのエピソードを入れる。なくてもいいが入れる。ただ入れるだけにはせず、クライマックスの箱根駅伝シーンのエピソードにからめ、少なくとも三人のランナーにふくらみを持たせる。
その女の子はなくてもいいような説明台詞をいくつかしゃべる。初登場シーンの「やるじゃない」とか、予選会シーンの「この人たちはゴールしてもまだ終わりじゃないんだ」など全くもって不要な説明台詞以外の何物でもない。
しかしそうした台詞を不要といって削れば、その女の子の台詞は、沿道でメンバーを応援するガヤ系の台詞だけになるだろう。
少しは台詞を与える、しかもファンもつくように説明的なアップショットも付ける。
だがそのままだといかにもプロモ的な使い方になってしまうので、中盤で重要な説明台詞を喋らせる
「わたしは青竹には入れないなぁ」
まあ、これとてただの説明台詞に過ぎないが、しかしこれはストーリーの説明の台詞ではなく、本作の割と重要なテーマあるいは物語の基本方針を宣言している
映画が描くのは「恋より駅伝」「女の入る余地は無い」旨の説明を当の紅一点キャラに喋らせている
しかもこの大事な説明台詞の存在で、その娘を映画の説明キャラとして定義づけし、それまでの説明台詞もアリと思わせてしまう。
やや強引な読みではあるが、客と俳優とを満足させ、勘の鈍い客への説明役も兼ねさせ、しかも違和感なく物語りに取り込み、キャラにストーリー上の必然性まで持たせる。こういうところを職人的な上手さだと思うのだけど、違うだろうか?
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しかし、本作でキャスト的に重要なのはもちろん男の子たちである。
林遣都くん。実は映画で見るのは初めてだが、これまでのフィルモグラフィを見る限り、サワヤカスポ根イケメン俳優なのだろうか。今時の女の子たちはみんな遣都くんが好きなんじゃなかろうか。遣都くんは日本中の女の子たちとつきあってあげればいいのに、とか思ってしまう。スポーツできてイケメンで若くて多分性格もよくて、なんなんだよこいつ、とか思ってしまうが、遣都くんじゃしょーがねーなーとも思う。
藤原竜也にキャーキャーいう女の子は少ないんだろうな。竜也がブハッと血吐きながら走る「風が強く吹いている」観たいな。コーチは竹内力で、ライバル校のコーチは香川照之で。
なんにせよ遣都くん、体型も走るフォームもきれいで、本気でこの映画に打ち込んだことが判るし、区間記録更新するくらい速いという設定にも説得力を与えている。1年生らしい青臭さと成長(恋は苦手)が見えて主役として申し分ない。映画終盤ではかっこよすぎへのジェラシーを超えてかっこいい、うらやましいと思ってしまうのだった。しかし、小出恵介の回想シーンに登場するホテル内での逆光を浴びたドアップは格好良すぎて笑ってしまうのであった(漢[おとこ]の顔をしていたよ・・・)。
遣都くんを賞賛したい気持ちはあれど、演技力という面で明らかに輝いていたのは小出恵介であった。理想的なリーダーシップ像を堂々と演じて印象深い。遣都くんが怒ったり叫んだり落ち込んだり諦めたりと割とマイナス方向に感情の大きな波を起こすのに対して、小出恵介は常に笑顔を絶やさず、マイナス方向の感情をプラス思考で強制修正かけてくる。怒るときも喧嘩を売るときも辛いときもその感情の波を押さえ込み、笑顔とはっきりした滑舌で相手と正面から向き合う。
もちろん感情のまま喋るのと、感情と正反対の気持ちで喋るのとどちらが難しいかは言わずもがな。演技力の面からも遣都くんに対する兄貴分的位置づけを明確にしてくるのだった。
-----
本作の内容面に戻ると、日本映画得意のハウ・トゥ路線にして、スポ根路線、ヒット&高評価の鉄板企画であるが、そんじょそこらのそれらの作品と一線を画しているのが、モブシーンの迫力ではないだろうか。
朝日の中を一人で走る遣都くんの映像をファーストショットに持ってきて、次に遣都くんと小出恵介の二人で走るシーン、そして青竹メンバーとの走り・・・と映画は次第に走る人数を増やしていき、中盤の予選会シーンでズラリ並んだ100人くらいのランナーと各校関係者に大会関係者にマスコミの場面へ、そしてクライマックスの箱根駅伝シーンは大勢のエキストラが沿道を埋めて・・・といった感じに人数面でスケールがどんどん大きくなっていく。
重要なのは架空の駅伝大会をクライマックスとはせず、誰もが知っている「箱根駅伝」を持ってくるところだろう。誰もが知っているだけに誰もが違和感のない映像にしなくてはならない。
「カイジ」の映画評でテレビ局主導の企画のせいでダメになったところが多々ある旨のことを書いたが、本作の場合はテレビ局の協力が非常に効果的に働いていた。「箱根駅伝」のリアリティはテレビ局の協力なしにはあり得ない。私も含め多くの人たちにとって箱根駅伝はテレビのイベントだ。テレビで観た記憶の通りの中継映像の再現は必須だが、本作は見事にそれをやってのけている。しかも往路と復路をじっくりと描く。10人のランナー全員にクライマックスで印象的エピソードを与えてチームの一体感を感じさせるために。撮影シーンが多くなるから当然、金も手間もかかるだろうが、妥協せずに作り込んだ。悔しいが資金力と組織力の成果であろう。何だか久々に業界が本気で取り組んだ映画を観たような気がする。
スポ根ハウ・トゥ映画ではドラマ重視、競技軽視な作品が多いが、本作はドラマと競技を50:50で描いているのが素晴らしく、その系統の映画ではここ数年のベストではないかと思うくらい気に入ったのだった。
観ると走る気力がわいてくる。だけでなく練習方法についての小出恵介の説明台詞も実際に役立つ。
さあ、東京マラソン、5時間以内で走りきるぞ!! 俺も遣都くんになるんだ!!
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実は妻に誘われてジョギングをはじめて一年以上がたっている。最近はジョギングというよりマラソンに近い状態で、2009年7月には長野県小布施町で行われた「小布施見にマラソン」(21Km)、2009年10月には「諏訪湖マラソン」(21Km)に参加した。
タイムは小布施の時が2時間10数分、諏訪は2時間数分なので、自慢できるほど速くはない。
ついでに2010年2月の東京マラソン(42.195Km)にも9倍の倍率を跳ね除けて当選してしまったのだ。どうしよう・・・
そういう隠れジョガーというか、おっさんランナーな自分であるので、「駅伝の映画らしい」くらいの情報だけで興味本位で観にいったのが本作「風が強く吹いている」だった。
だから作品のデキにたいして期待していたわけではなかった。
それが幸いしたのか、想像以上の面白さに素直に感動した。
自分の趣味的な興味を差し引いても、出来のいい映画だったと人に勧めたくなる作品である。
ほとんど事前情報を持たずに観たと書いたが、自分には珍しく事前にスタッフを調べることもしなかった。
この面白い脚本は誰が書いたのか、この映画は誰が監督したのか・・・とエンドクレジットを観ていたら「監督・脚本・・・大森寿美男」
うわあ、どうりで・・・と、どこか納得。「39」「黒い家」「寝ずの番」の脚本家じゃないか。脚本のデキのよさは納得。そして初監督となる本作でみせたベテランのような安定感。
ところどころ、無駄な説明台詞とか、ステロタイプなライバルキャラクターとか、ベタな泣かせ展開とか、そりゃあ突っ込みどころは探せばいくらでも出てくるのだが、そうした欠点もわかってやっている様な気がする。
つまりは、出資者とか俳優の所属事務所とかへの配慮のためにダメとかムダとかわかっていてもそういう欠点を残し、それでいてそうした欠点が目立たないように、うまく脚本の中で消化してしまっているように思えた。
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例えば・・・女の子の扱いに私は職人的巧さを見る。芸術家的巧さではなく職人的巧さだ。
基本的に女っ気のないストーリーだけに、一応は華をそえる意味でマネージャー役の女の子を登場させる。登場の必然性を出すため恋愛がらみのエピソードを入れる。なくてもいいが入れる。ただ入れるだけにはせず、クライマックスの箱根駅伝シーンのエピソードにからめ、少なくとも三人のランナーにふくらみを持たせる。
その女の子はなくてもいいような説明台詞をいくつかしゃべる。初登場シーンの「やるじゃない」とか、予選会シーンの「この人たちはゴールしてもまだ終わりじゃないんだ」など全くもって不要な説明台詞以外の何物でもない。
しかしそうした台詞を不要といって削れば、その女の子の台詞は、沿道でメンバーを応援するガヤ系の台詞だけになるだろう。
少しは台詞を与える、しかもファンもつくように説明的なアップショットも付ける。
だがそのままだといかにもプロモ的な使い方になってしまうので、中盤で重要な説明台詞を喋らせる
「わたしは青竹には入れないなぁ」
まあ、これとてただの説明台詞に過ぎないが、しかしこれはストーリーの説明の台詞ではなく、本作の割と重要なテーマあるいは物語の基本方針を宣言している
映画が描くのは「恋より駅伝」「女の入る余地は無い」旨の説明を当の紅一点キャラに喋らせている
しかもこの大事な説明台詞の存在で、その娘を映画の説明キャラとして定義づけし、それまでの説明台詞もアリと思わせてしまう。
やや強引な読みではあるが、客と俳優とを満足させ、勘の鈍い客への説明役も兼ねさせ、しかも違和感なく物語りに取り込み、キャラにストーリー上の必然性まで持たせる。こういうところを職人的な上手さだと思うのだけど、違うだろうか?
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しかし、本作でキャスト的に重要なのはもちろん男の子たちである。
林遣都くん。実は映画で見るのは初めてだが、これまでのフィルモグラフィを見る限り、サワヤカスポ根イケメン俳優なのだろうか。今時の女の子たちはみんな遣都くんが好きなんじゃなかろうか。遣都くんは日本中の女の子たちとつきあってあげればいいのに、とか思ってしまう。スポーツできてイケメンで若くて多分性格もよくて、なんなんだよこいつ、とか思ってしまうが、遣都くんじゃしょーがねーなーとも思う。
藤原竜也にキャーキャーいう女の子は少ないんだろうな。竜也がブハッと血吐きながら走る「風が強く吹いている」観たいな。コーチは竹内力で、ライバル校のコーチは香川照之で。
なんにせよ遣都くん、体型も走るフォームもきれいで、本気でこの映画に打ち込んだことが判るし、区間記録更新するくらい速いという設定にも説得力を与えている。1年生らしい青臭さと成長(恋は苦手)が見えて主役として申し分ない。映画終盤ではかっこよすぎへのジェラシーを超えてかっこいい、うらやましいと思ってしまうのだった。しかし、小出恵介の回想シーンに登場するホテル内での逆光を浴びたドアップは格好良すぎて笑ってしまうのであった(漢[おとこ]の顔をしていたよ・・・)。
遣都くんを賞賛したい気持ちはあれど、演技力という面で明らかに輝いていたのは小出恵介であった。理想的なリーダーシップ像を堂々と演じて印象深い。遣都くんが怒ったり叫んだり落ち込んだり諦めたりと割とマイナス方向に感情の大きな波を起こすのに対して、小出恵介は常に笑顔を絶やさず、マイナス方向の感情をプラス思考で強制修正かけてくる。怒るときも喧嘩を売るときも辛いときもその感情の波を押さえ込み、笑顔とはっきりした滑舌で相手と正面から向き合う。
もちろん感情のまま喋るのと、感情と正反対の気持ちで喋るのとどちらが難しいかは言わずもがな。演技力の面からも遣都くんに対する兄貴分的位置づけを明確にしてくるのだった。
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朝日の中を一人で走る遣都くんの映像をファーストショットに持ってきて、次に遣都くんと小出恵介の二人で走るシーン、そして青竹メンバーとの走り・・・と映画は次第に走る人数を増やしていき、中盤の予選会シーンでズラリ並んだ100人くらいのランナーと各校関係者に大会関係者にマスコミの場面へ、そしてクライマックスの箱根駅伝シーンは大勢のエキストラが沿道を埋めて・・・といった感じに人数面でスケールがどんどん大きくなっていく。
重要なのは架空の駅伝大会をクライマックスとはせず、誰もが知っている「箱根駅伝」を持ってくるところだろう。誰もが知っているだけに誰もが違和感のない映像にしなくてはならない。
「カイジ」の映画評でテレビ局主導の企画のせいでダメになったところが多々ある旨のことを書いたが、本作の場合はテレビ局の協力が非常に効果的に働いていた。「箱根駅伝」のリアリティはテレビ局の協力なしにはあり得ない。私も含め多くの人たちにとって箱根駅伝はテレビのイベントだ。テレビで観た記憶の通りの中継映像の再現は必須だが、本作は見事にそれをやってのけている。しかも往路と復路をじっくりと描く。10人のランナー全員にクライマックスで印象的エピソードを与えてチームの一体感を感じさせるために。撮影シーンが多くなるから当然、金も手間もかかるだろうが、妥協せずに作り込んだ。悔しいが資金力と組織力の成果であろう。何だか久々に業界が本気で取り組んだ映画を観たような気がする。
スポ根ハウ・トゥ映画ではドラマ重視、競技軽視な作品が多いが、本作はドラマと競技を50:50で描いているのが素晴らしく、その系統の映画ではここ数年のベストではないかと思うくらい気に入ったのだった。
観ると走る気力がわいてくる。だけでなく練習方法についての小出恵介の説明台詞も実際に役立つ。
さあ、東京マラソン、5時間以内で走りきるぞ!! 俺も遣都くんになるんだ!!
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自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
かつて拙作「陸上生活」で主演を演じました神戸誠治も、舞台の企画で同レースに出走するようですので、応援に伺いたいと思います。
説明セリフでは僕も悩んでいます。
そうですか、あの方が・・・いったいどんな舞台なんだ?という興味も湧いてきます
説明台詞って難しいですよね。使うべきか使わざるべきか
でも、実は最近、説明台詞もわるいことないんでは・・・と開き直りかけてもいます。
けど「陸上生活」の寡黙な主人公を思うに、佐々木さんは台詞なしでも面白い映画を撮れる方なのだと思いますよ。
売り込む・・・となると話は違ってくるかもしれませんが・・・
最近秋のせいか、葬儀屋のバイトをしたせいか、世界に対する執着が弱くなってまして、台本にも迷いが出てましたが、なんとかなるような気がしてきました。
岡本喜八さんの「大誘拐」を見まして、後半ちょいと不満があったものの、前半特に面白く見まして、ああいうテンポで作りたいと思います。
神戸の芝居もご予定合えば観てみてください。
大誘拐
いいですねえ
緒方拳さん、よかったですねえ
喜八さんのなんというか、ゆるゆると、でもするすると進む感じ好きです(説明になってませんが)
神戸さんの芝居も、行けるかわかりませんが、告知などあればお願いします。