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カイジ 人生逆転ゲーム [監督:佐藤東弥]

2009-11-06 19:13:21 | 映評 2009 日本映画
個人的評価: ■■■■□□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]

「ヴィヨンの妻」で芸達者たちの演技を堪能し、太宰ごっこブームの渦中に、ヴィヨンを一瞬で忘れさせる脅威の芝居映画を観ることになろうとは・・・

みなさんは日本で一番演技の上手い俳優が誰なのか知っているだろうか?知らないなら教えてあげよう。
藤原竜也だ。


彼は演技でリアルな日常を表現しようとか、観客に既視感を感じさせようなどという小ざかしい芝居などしない。誰も体験したことのないスーパーリアルを表現してしまうのだ。演じることはプレイというが、竜也の演技に「プレイ」という英訳は似合わない。そんなゆるいものじゃない。
藤原竜也という俳優のすごいところは、監督の才能を必要としないところかもしれない。
中途半端に才能のある監督を使うくらいなら、何も才能ない監督の下で仕事をする方が、映画が面白くなってしまう。才能云々をこえて変な方向に振り切ってしまった監督(深作健太など)と組むとさらに悪魔的な面白さに異常進化するのだが、そうでなければ監督が凡才なほど映画を面白くしてしまう、特異な能力を持った俳優だ
たとえば浅野忠信という俳優がいい監督と組まなければ、ただつまらない芝居をするだけの俳優でしかないのと正反対だ。
そういうわけで、監督は狙って手を抜いたのか、努力はしたもののボロクソなカット割になったのかわからないが、結果として藤原達也のスーパープレイが堪能できる映画に仕上がった。

ちなみに監督は角川映画を代表する悪魔的傑作「野生の証明」の佐藤純彌監督の息子だそうな。遺伝的に、変な方向に振り切る素質を持っていると思うので、くだらないテレビドラマで雷鳴らしてればいいような演出ばかりやってないで、映画で戦って才能を磨いていってほしい・・・

しかし竜也がすごいだけの映画では面白くはならない。強敵が必要だ。伝説的名作「バトル・ロワイヤル2」の竹内力のような。
そして今回の敵は、相手にとって不足無し。香川照之だ。
モンタージュだのクレショフ効果だの、そんな小ざかしい映画理論など粉砕するような説明台詞と説明ナレーションの嵐+凄まじい顔面アクション。竜也が「狭い鉄骨の上という設定を感じさせない全身を使った感情表現」をするかと思えば、香川照之は「ハリウッドのCG技術でもついて来れないくらいの顔面バイオレンス」をやってのける。
香川照之の芸幅の広さはなんなのだろう。本来、浅野忠信とかの「あっち側」にいる俳優だと思うが、「こっち側」の芝居も完璧にこなす。

そうした異常状態の中では、「あっち側」の俳優である松山ケンイチがかわいそうになる映画だった。
彼が普通の意味で演技がとても上手い俳優であることは周知の事だが、異常な意味で演技が上手い竜也や香川照之の中にあっては立場がない。
頑張って「こっち側」の演技をしているのは伝わってくるし、やはり非凡な上手さを感じさせてはくれるものの、竜也や香川照之と比較すると、表情のバリエーションが決定的に乏しすぎるのだった
思えば「デスノート」のL役は、「こっち側」の映画でありながら「あっち側」の芝居が求められるという、彼にとって好都合の役だったのだ。
「カイジ」は松山ケンイチの役者人生にとって大きな転機となる作品かもしれない。
『竜也も香川さんもすげーなー、俺はやっぱり「こっち側」の演技は無理だから、ウルトラミラクルラブストーリーみたいのだけ出てよっと』・・・と開き直るきっかけになるかもしれない

そんな努力空回り気味の松ケンはほっぽっておいて、竜也と香川は熱い説明台詞大バトルを展開する

「うまいぃぃ、悪魔的なうまさだぁぁ!!」
原作にもあったかもしれないが、説明台詞の域をこえたスーパーダイアローグである

「来いぃぃぃ皇帝ぇぇぇぇ」という竜也の心情説明のナレーションと、それを声に出して言って彼の心を見透かした旨の説明を加える香川照之のバトル
これを故トリュフォーと故ヒッチコックが見ていたら駄目な演出の典型例として槍玉にあげて「定本ヒッチコック映画術」で1ページくらい悪口を言われ続けそうななシーンだが、そんなインテリたちの映画理論など竜也は簡単に吹っ飛ばす。
香川照之が、血のついたカードが来るや来ずや・・・の迷う心境を延々数分間にわたるナレーションと顔面アクションで説明しまくる場面は2009年を代表する名シーンに残したいくらいだ。
そうした竜也と香川照之のお互い一歩も引かない演出力ゼロの大演技バトルに心の底から感動し興奮する映画なのだった

それにつけても残念すぎるのは、鉄骨渡りのシーンだ。
演出力のなさがこれでもかと現れている。
顔アップと、煽りによるひざ上ショットがメインで、時々空撮風の超ロングショットをはさむカット割はなんなんだろう。落ちる、危ない・・という緊張感がもののの見事にない。
「足元写せばいいのに・・・」と誰も思わなかったのだろうか。(多分、めんどくさい合成処理しなくて済むようにしたのだろう)
鉄骨から落ちていく人々も竜也や松ケンの視点でなく、テレビモニタで鑑賞している金持ちたちの視点でもない。真下から落下してくる男の顔がアップになるまでの映像だったり、落下する男と一緒に落ちるような映像だったりと、名前も知らないその他大勢のだれかの視点に切り替える。感情移入の対象をどこに設定すべきかという、基本的な演出方針すら立てていない。
(例えば「ダイ・ハード」のハンス落下シーンは、まずジョン・マックレーン目線で落ちるハンスを真上から写し、次に市警の連中を写して「人質じゃないだろうな」と言わせてから落下するハンスのロングショットに切り替えていたでしょう。誰の目線か・・・ってとっても重要なんです)
雨を降らせてかっこよくしようとしたのだろうが、そんなことしたら原作にあった「精神的盲点に配置された脱出ルート」が丸判りになるんじゃ・・・と思わせて、結果として松ケンだけが吹っ飛ばされて、竜也はなんか知らんけど飛ばされないという誰もが疑問に感じるシーンを作る羽目になってしまうという、ぐだぐだな脚色。
それでもカイジが体全身をぶわんぶわん動かしてバランスをとろうとする様子とか、おっさんがカイジを動揺させないためにわざわざ無言で落ちたというのに全身を震わせながら「うぉぉぉ!」と絶叫したり(原作どおりではあるが)・・・という、普通の演出ならありえない竜也の超絶演技によって救われている場面とは言えよう。

そして何より残念なのは、テレビ局主導の企画ゆえに、竜也の演技的見せ場となるはずだった、原作漫画のあのシーン、このシーンが省かれたことである
全裸にされて焼印おされるシーンは、腕まくりだけでブラックアウトした画面に悲鳴だけが聞こえるぬるい演出で表現されてしまった。
竜也なら全裸で七転八倒する壮絶な演技をみせてくれただろうに・・・
そしてEカード対決における原作にあった自らの耳を切り裂いて利根川をだまし討ちにするシーンは、額を切るだけに変更。
その程度のことであの利根川を騙せるはず無いだろう。それこそ原作どおりなら、竜也にとって一生ものの伝説となる名演シーンになったろうに
テレビ主導なだけに、夜九時台にテレビ放送できる内容にせよと脚本家に厳命が下っていたのだろう
それでなくとも、詰め込みすぎ感のあるストーリーで、原作は名台詞・名シーンの塊みたいなものだったのに、ことごとくオミットされていて、原作ファンには不満も多い内容だ。だからこその藤原竜也のキャスティングであり、こうなったら竜也の演技で面白くしようという意図だったのではないか?
言うなれば演技以外に見所がないものであることは明らかなのに、テレビ局主導の企画のために演技的見せ場を削る結果となってしまった。
テレビだのPG指定だのにとらわれず、竜也が納得できるまで作り込んだ「カイジ」を観たい!!
できれば「20世紀少年」みたく三部作で!!

[追記]
「カイジ」に大感動した勢いで酒を大量に飲み、薄れた意識のまま日テレの公式サイトを開いて通販で買ってしまった「カイジ」キーホルダーを紹介。
『金は命より重いんだ』



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3 コメント

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トラ・コメどうもでした (ひらりん)
2009-11-11 02:44:19
ひらりん的には演技上手な藤原竜也と天海祐希・香川照之は、上手すぎちゃって苦手なんですが、配役が芝居を盛り上げてたので、納得いく作品になってました。
返信する
コメントありがとうございます (しん)
2009-11-13 23:52:25
>ひらりん様
上手すぎるっていい表現だと思います。
竜也も香川さんも「過ぎる」んですよね。そこが私的には最高なんですが
彼らがいなければとんでもなくしょうもない作品になるところだったので「過ぎ」てよかったと思いますです。
返信する
Unknown (あーさん)
2009-11-23 01:32:09
悪魔的うまさでネット検索をしていてお邪魔しました。
すごく的確で!
面白く読ませていただいたのでコメントさせていただきます。
そうですね、藤原さんも香川さんも「うますぎる」のですね。

それこそが「悪魔的うまさ」なのかも!
返信する

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