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WALL・E / ウォーリー [監督:アンドリュー・スタントン]

2008-12-31 10:46:16 | 映評 2006~2008
個人的評価: ■■■■■□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]

久々観賞のPIXAR作品であるが、もうすんげー面白いの
冷静沈着な人間賛歌でありながら、映画作家の技巧の実験場ともなった傑作アニメであった。

オープニングがまず凄い。
上空からの俯瞰映像、ニューヨークの高層ビル群を上空から真っすぐ見下ろしながら、ゆっくりと横に移動していくカメラ(カメラじゃないけど)。「ウェストサイド物語」だ。そんで、空き地の上空にて人影(というか機影)を発見。あ、やっぱり「ウェストサイド物語」だ。と思いきや、高層ビル群が実はウォーリーのくず鉄ブロックを積み上げたものだったことが判る衝撃の映像。
バゴーン!!!!
なにー!!これ全部あいつが!!?

といきなり大インパクトで幕を開ける物語。

物語序盤のウォーリー地球にひとりぼっちシーンが切なくて泣ける。ゴミ掃除ロボットのウォーリーはほとんど言葉を発しない。R2D2みたいにピコピコしか言わないわけではなく、「ウォォーリィィィー」みたいに名前やある程度の単語を喋ることができるが、文法に即して会話することはできない。
ちなみに字幕版ではウォーリーの声はベン・バートとキャスティングされているが、この人はスターウォーズやインディ・ジョーンズなどの効果音全般を作った人である。宇宙人やロボットの声はもちろんのこと、銃撃音とか殴る音とか爆発音とか、恐らくはもっと地味な音もひっくるめて全ての効果音を作った、効果音の神みたいな人だ。もっとも私はウォーリーは吹き替え版で観たので、ベン・バートの「声」は全く聞けなかったのだけど。

ともかくほぼ声無しのウォーリーであるから映画はサイレント映画のように映像だけで感情や物語を伝えなくてはならなくなる。さらにロボだから表情の変化も乏しい。それでも物語もウォーリーの感情も全て判りすぎるほど判る。ディズニーアニメにありがちの「よく喋る相棒(主として動物擬人化キャラ)も出ない。いちお、ウォーリーの相棒のゴキブリみたいな虫はいるが、こいつは台詞どころか鳴き声もなく、顔も別に擬人化されておらず、顔アップにもならない。
ペラペラ良く喋る魚たちの映画「ファインディング・ニモ」の監督の作品であるが、ニモとはアプローチが全く違う。

ほいでもって宇宙船があらわれ探査ロボのイブが地上に降り立つのだが、このイブもウォーリーと同様に会話能力はない。
ウォーリーのイブに対する健気な恋心がやはり台詞なしで綴られ、ここも観ていて気持ちがいい。

その後ウォーリーがイブを回収した宇宙船にしがみついて、地球を捨てた人類たちの巨大宇宙都市に行ってからは、まあ普通に台詞映画となるのだが、それでも最後までウォーリーとイブの台詞は片言の単語だけ。
宇宙都市篇となる後半パートのドタバタ活劇もとっても面白いのだけど、ありがちといえばありがち。
やっぱり前半の地球篇がこの映画の肝だろう。

後半では、イブが地球で回収した植物の芽が物語のマクガフィンとなる。
人類の未来がかかった芽をめぐって、ウォーリー&イブ VS 宇宙船のコンピュータ VS 人間の戦いとなる。
ところがその芽が非常にぞんざいな扱われ方をするところが突っ込んでくださいと言わんばかりで笑えた。
土の詰まった靴に植えられたその芽は、宇宙空間でむき出しにされたり、靴ごとぶん投げられたり、よく最後まで耐えてくれたとねぎらいの言葉をかけてやりたくなるほど大変な目にあったのだった。

後半部分にも心打たれる場面はいくつかある。
人間描写が衝撃である。全員が全自動移動マシンにのりデブデブで自分の力では歩くことも出来ない。完璧に機械とコンピューターに依存した宇宙都市の人間たちの描写が悪夢のようであった。
ウォーリーとイブの宇宙空間遊泳デートシーンはとても和む名シーンだ。
そして終盤における再起動したウォーリーがイブを無視し相棒の虫を踏みつけて無言でくず鉄回収作業を始める場面で、あれほど感情移入させられたウォーリーが所詮ただのメカに過ぎなかったことを思い出させられ、悲しい気分になった。徹底擬人化で魚にも愛があり友情があって当然の世界だった「ファインディング・ニモ」と、感情移入相手は血も涙もないメカであると冷徹に突き放される「ウォーリー」。しかしその反面「ウォーリー」は「無」であるものに、「愛」などの感情が生じる物語であるととることができ、「ニモ」よりはるかに人間賛歌の物語になっていると思う。
その感動は、論理思考のミスタースポックやアンドロイドのデータが人間性を受け入れていくことをシリーズの根幹としていた「スタートレック」シリーズに通じるものがあるのだった。

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3 コメント

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同感です。 (みかん)
2009-01-14 20:07:10
ウォーリー。面白いですよね!!
確に、今までの Disney/Pixer のアニメとは違います。チャップリンと同じ様に、ことばを話さないだけにウォーリー達の仕草だけで、《感情》喜怒哀楽がとても良くわかり、またそれらがかわいらしくコミカルなものだったと思います。

この映画はただ単純にウォーリーの恋と冒険を描いていて、環境問題や現代の人間については特に良いとか悪いとか、言及していません。 ただ背景がそういう設定というだけで、痛烈にこれからの人間の未来に警鐘をならしているようで実はその問題点を私達に押し付けてはいないのです。
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…続き (みかん)
2009-01-14 20:25:13
この、スタイル! 謙虚というか… 巧妙!

この映画大人向けでは?と感じてしまいます! でも今の小さい子ども達に見せることは、今日の必要以上な大量生産大量消費、人間の機械に頼り過ぎるている事への疑問を染み込ますことが出来るでしょう。
そしてスタッフロールの最後で BNL のロゴ…。 実は私達はあの宇宙船アクシオムの人達ともう同じ風になっているのでしょうか? そして本当に外の世界の問題に気付いていないのかも…。
単純にもとれるし、深く考えさせられる映画です! こんな映画今まであったでしょうか?
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コメントどうもです (しん)
2009-01-26 19:17:17
>みかん様
この映画みて、映画の原点→サイレントに立ち返れる奴はホントの巨匠なんだと思いました。
色々深い割に、説教くさかったり押し付けがましかったりしないのも良かったですね
返信する

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