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映画作りの糧とすべく劇場鑑賞作品中心にネタバレ徹底分析
映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

悪人 [監督:李相日]

2010-09-25 00:21:22 | 映評 2010
ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン
↑この度、「ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン」を選出しました。映画好きブロガーを中心とした37名による選出になります。どうぞ00年代の名作・傑作・人気作・問題作の数々を振り返っていってください
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個人的評価: ■■■■□□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]

【映評概要】
被害者、加害者、被害者の父、加害者の祖母、加害者を愛した女、被害者を捨てた男
それぞれのドラマを重層的に展開させることで、人の善意・悪意とは何かというテーマを深く掘り下げていく構成が上手い。大切な人の幸せを願うこと、つまり愛によって人は幸せになれるのだという結論を導きつつも、愛を得られない者たちが孤独の淵に沈んでいく様を突きつける。
もう少しサスペンスに力を入れ、物語にひねりを加えれば「ミスティックリバー」とか「母なる証明」とかにも対抗できる傑作になったと思うが、それでも物語の奥深い味わいは充分に楽しめることができる。
ただし音楽使いすぎでせっかくの芝居を台無しにして逆効果。波と風の音だけの方が効果的だったろうに。(音楽・久石譲)。

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【映評詳細・・・ネタバレ】
妻夫木聡、深津絵里、柄本明、樹木希林、満島ひかり、岡田将生・・・いい役者を揃えたと思う。
ただし妻夫木クンは2003~4年ごろの芝居の方が自然体でよかった気がする(「ジョゼと虎と魚たち」とか)
深津さんはもちろん上手かったのだけど「阿修羅のごとく」とキャラ被りしている感じがしなくもないし、例の警察ドラマの役の延長ともとれて、女優としての守備範囲の広さは感じない
「ウルトラマンマックス」のアンドロイド役で特撮ファンの心をつかんだ満島ひかりちゃん。「愛のむきだし」の格闘&エロ&宗教という濃すぎる役を全力入魂した演技で映画ファンの心もつかみ、その年の映画賞を総なめにした。今回の役も「むきだし」のアレンジ範囲という感じもないじゃないが、やっぱり全力でやな女を演じているのは見ていて頼もしい(女優として)
圧巻は柄本明さんだろう。感情の振幅の大きさについつい引き込まれ悲しみも怒りも観客に強制共有させてしまう。
そんな柄本さんだからこそ岡田将生くんの今どきのちゃらいむかつく若者っぷりも引き立つ。見た目的にも柄本さんがハンサムとか男前とかとはほど遠い愛嬌ある顔だから、よけいに岡田くんが活きる。「天然コケッコー」「重力ピエロ」とかっこよくて頼れる男の役が多かっただけに、今回のイケメンで金持ちだが性格最悪ピンチに弱くいざというときみっともない男役は新境地というに相応しい。

柄本明さんの枝筋エピソードの方が、妻夫木&深津の主筋より面白い。
大切な人を思うことができるからこそ、人は幸せに生きていけるのである的な本作のテーマに直結するエピソードを語るのも柄本さんだ。観客のだれもが柄本さんが岡田くんを殴り殺す場面を想像するし、期待もしようが、彼はギリギリで踏みとどまる。彼まで悪人にならなくてよかったと胸をなでおろし、その後彼をやさしく出迎える妻の姿に愛の大切さを思い知らされるわけだ。
見事であるが、そうはいっても岡田くんが最低一発はぶん殴られるところを見たかったのは本音。
ここを主筋にして話を作り直し、クリント・イーストウッドかトミー・リー・ジョーンズでハリウッドリメイクしてくれないかと思った。

柄本さんのエピソードが一番面白くて感動したのは間違いないが、ある意味この部分は本作の一番きれいごとな部分。妻夫木・深津のきれいじゃない泥臭さというか、傍から聞けば神経を疑うような異常な男女の情愛こそを物語のメインにもってきたかった作者の気持ちは理解できる。
肉体という圧倒的な存在の前には、善悪などという実体なきものは無力に近い。
そしてたった二人だけの閉鎖的な世界を作ってしまい、二人の時間と空間が最優先事項となってしまった世界では、二人の感情だけが正義の根拠となる。
世間とつながっているからこそ生まれた心の隙間を、二人だけの世界に逃避することで埋めあう二人の姿は同情を誘うでもなく、美しいでもなく、怒りを覚えるでもなく、ただただごく当たり前のことのように映る。

二人の篭る場所が灯台であるというのも色々なことを観客に思わせる。
海の道標である灯台に篭りながら妻夫木は向かうべき道がわからず迷う。そうかと思えば交番から脱走した深津は迷わずに灯台を目指して駆ける。彼女には妻夫木に向かいさえすればいいことを本能でわかっている。
また一方で暗い海に光を投げかける灯台は、世間から逃げながらも、ギリギリで世間とつながっていたいとする二人からの信号なのかもしれない
そそりたつ灯台の姿は男根を想起させもするが、反面で灯台に抱かれるように眠る二人にとっては子守唄を歌う母親のようにも思える。

樹木希林のエピソードもやや弱いながらも、それでも我が子同然の孫への愛がぶれない点で終盤は力が入る。
ただし、もう少しひねりようはあったかもしれない。祖母は金を取り返すことができたのかどうかをぼかす必要があったのだろうか。私なら大勢のマスコミを利用して漢方薬業者を告発するようなシーンを付ける。

加害者の祖母が加害者からもらったスカーフと、加害者を愛した女と、被害者の父が静かに交錯するラストが、人と人とのかかわりあいの上に成り立ち決して1人や2人の価値観だけで生きていってはいけないということを伝えているように思えるが、その一方で「やっぱりあの人は世間で言われる通りの悪人なんですよね」というヒロインのつぶやきには善悪を社会通念だけで決めてしまうことへの批判も感じられる。

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[追記]
深みのあるドラマと、見事な演技で概ね満足の本作だが、一つだけ批判をするなら、それは音楽であろう。
音楽がなければいいのにと思うシーンが多い。そもそもこの映画にそんなに多くの音楽がいるのかと疑問も沸き起こる。深津と妻夫木が二人だけの世界で感情を吐露しあう場面など音楽のせいでせっかくの芝居も台詞もわざとらしく感じてしまう。特に灯台のシーンでは風と波の音だけの方がよほど効果的だったに違いない。
この音楽のうるささ・・・前に「おくりびと」でも感じたよな~と思って映画を観ていたが、エンドクレジットで久石譲の名前を見て・・・ああやっぱりそういうことだったか、と変な落胆を感じた。
メロディ自体はくせが抜けてそれほど耳に付かないのだけど、このような静かなドラマであんなに音楽を使う必要はなかろう。
宮崎アニメならその使いすぎ感は必ずしも悪くはないのだけど、実写では(北野作品も含めて)どうにも耳にうるさく感じてしまう
自身で監督した「カルテット」は抱腹絶倒もののナルシスト音楽映画で楽しかったが・・・

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